ヴィオラの目指めと最初の仲間 3
第三話
彼女は多分、無から何かをいきなり生成した。あり得ないし、本来なら魔力が通常よりも途方もない程必要で、聖剣は作れないのは当然としてこれは錬金術の類いなのに、もしあれが魔術だとして物体を魔術で創造するのなら、それ相応の素材が必要なはずで、この世の理を無視している。おかしい。
王国にこんな逸材がいたんですね。いや、あの黒い箱の力なんでしょうか?
「魔導師って、どういう事っ!」
「良いですか? よく聞いてください。一度しか言いませんからね!」
「あなたのそれは魔術ではありません。魔術ではない、また別の“異質“な物です。魔導師とは言いましたが、もしかしたら魔導師という次元すら超えてしまっているかもしれない!」
「えっ、ええっ?」
「私は魔術の使い方しか知りません。ですがそれの使い方が一緒なら、教えるので!」
「彼等が怯んでいる今がチャンスなんですから!」
「まずは自分の魔術がどんな物かを理解し、頭の中で思い浮かべるんです。どうしたいかを正確に、矛盾がない様に!」
「頭の中で、正確に?」
『ゲームしてると思うんだけど例えばさ、その勇者の剣って見た目だけだと重そうだし、振り回しにくそうだし、無駄にでかいし、メリットを感じないんだよなぁ』
『うーん、あっ! そうだ! 勇者の剣がもしも“レイピア“とかだったらどうよ? 筋力関係なく使えるし、技量だけだから使えるよな!』
『まあその技量ってのが、他から持ってくるか自分で努力するかのどっちかになるけどな』
レイピア? いや、参考にならない。
私に剣なんて使える訳ない。
『あ〜最近どうよ、“ダーツ“の方は?』
『えっ、飽きた? え〜上手いのにもったいないなぁ、すごく上手いぞ?』
『俺とは違って毎回毎回ど真ん中! 外した所見た事ないし、ブルって言うんかな? あんまやった事ないから知らないけど真ん中に当たるのが、どれくらいすごい事か素人でもわかる。自信持っていいよ。ん? まじだって! お世辞とかじゃなくてほんとほんと!』
『母さんにも見せてやりたいよ! お前のすごさってやつを!』
ダーツ……ああ、覚えてる。前世で散々やった遊び。趣味と言ったらあれだけど、確か友達の彼に誘われてやり始めたんだっけ、休日はずっとダーツしてたっけな、出来る所をふらふらしながら気持ちを落ち着かせたくて、気がつけば一日中ずっとやってたって事もあったり、たまに誰かと競い合う事もあって必ず勝って終わる。怪我だらけの顔で、彼と笑い合ってやってたダーツは、忘れない。
その話を聞いて自分も見たいと、一緒について来ていた兄に褒められたりして少しは気分が良かったな。
あれ、兄? 兄って、まさか。
『今度、俺にも教えてよ。ダーツ!』
そうか、助けてくれてたんだ。
「そ、それは、ナイフ?」
ヴィオラがたちまち想像すると、目の前で宙に浮かぶ聖剣は無数の投げナイフへと変わり、手元に引き寄せられる。
そう。ダーツでは無くて、ナイフ。確かにナイフとダーツじゃ投げ方や投げる際の肘の回し方とかまるっきり違う。後は重さも。
私がやっていたダーツのやり方じゃ真っ直ぐ飛ばないし、役に立たないのかもしれない。けど、そんな事は前世ではいっぱいあった。ぶっつけ本番で練習していない事を求められるのは、ダーツでだってたくさんあった。喧嘩も、友達を守る術も、ゲームだって! それが、今だと言う事だよ!
どうか、上手くいって。
「シスターさん。でしたっけ? これは、自分の魔力が続く限り使用する事が出来るんですか?」
「ええ、そうですが……?」
「なら、良かったです」
「何をする気だ! 止まれっ!」
「さもないと、この剣がお前の喉元を貫くぞ!」
「止まらない!」
その瞬間、ヴィオラはナイフの先を持って正確に目線の先を合わせながら、集団に向かって手首の回しの勢いを強くし、程よく力を抜いて投げた。
「どうか、当たって!」
ナイフの速度は止まらず、真っ直ぐに回転数を上げながら、集団の中の一人の頭に向かって勢いよく飛んでいく。反応が遅れ、避けきれない。
ドスッ!
「ぐあっ!」
「やった! もう一人!」
「いっ!」
「あっ、あいつを止めろっ! 早く!」
「で、ですが!」
「でもじゃない! やるんだよぉっ!」
「あがっ!」
「ああっ!」
リーダーらしき男の頭に命中した。
「次!」
「ひっ、ひいっ、どうか殺さないでっ!」
「うっ」
「俺が、俺がやってやる! こ、このっ」
「いっ!」
物音を立て、最後の一人が倒れた事で周りには静寂が訪れた。敵がもういない事を確認すると、ヴィオラはつい上を見上げて、持っていたナイフの先から柄を手にして強く握った。
「はぁっ、殺すのはもうしたくない」
「疲れた。もういないよね」
「あ、あなたは、以前もこんな事をしていたのですか」
初めてとは思えない。この人、手慣れていた。しかも気のせいでしょうか、所々であのナイフ外したと思った瞬間に、速度を上げながら当たる位置まで軌道が曲がった様な。聖剣の力がそうしているのか魔術なのか、わからない。
「いや、初めて。上手くいって……良かったです」
「それにその、聖剣を作る魔術はどういう事なんですか」
「とにかく、聞きたい事がたくさんあります」
「そんな、私何もわからなくて感覚でやっていたから説明出来ない。です」
「では、質問を変えます。あなたはその」
「どうして人を殺しても何も思わないのですか」
「えっ」
「見た所、経験はない様に思えるのですが、初めてで平然といられるのかって」
「それは、その……」
この世界で生きているという感覚が無く、戦いの最中、まるでゲームをやっているみたいだったって言える訳ない。けれど、代わりの言い訳も思いつかない。
「わかりました。言えないんだったらいいです」
「あ、ああはい」
「後、敬語じゃなくていいです」
「あなたの敬語はその、慣れていなさそうな感じが出ているので、自然にしてもらって大丈夫です」
「そんな下手かな、いや、でした?」
「……それです」
「あっ」
「もう! そうじゃなくてですね!」
「この後時間ありますかね。いや、無くても強制です」
「ど、どういう」
「ついてきてください」
「待って、あの、死体はどうするのかなって」
「彼らもその、一応は人間だから」
「全く、どこまでもあなたは優しい。優しすぎる」
「その自信の無さと優しさは、いずれ命取りになりますよ」
「ごめんなさい……わかった。じゃあついていく」
知らない人について行くのは怖いけれど、色々知ってそうだし話をするだけなら、行ってみよう。
「ええ、そうしてくれると嬉しいです」
「では、歩きながら聞きますけど、あなたは何故私を追ってきたんです?」
「危険だとは思わなかったんですか?」
「確かにそうだけど、強いて言うのであれば助けられたから、かな」
「それと、あの謎の黒い箱も落としてたし」
「ええ? そんな理由で?」
「今だから言いますけど、落とした黒い箱は私にもわからなかった物で、持っていてもどうしようもないから、要らなかったんですよ」
「あれは何なの? 突然光ったと思ったら、変形して剣が出てきて、意味がわからない」
「さあ? わかりません。ただ、あなたが持ったら使えたってだけで、詳しくは……」
「元々、ある冒険者から譲ってくれた物で、使い方がわからないからくれるって事で、持ってて」
「本当は使い方を知っていたんじゃ?」
「いやいや、わかんないって」
彼女は目を窄め、疑心を向けてくる。
「嘘は吐いてない」
「まあ、嘘つく程ではありませんね」
「そうですか、では次にあなたの魔術についてですが、その力を私の為に使う気はありませんか?」
「へっ? ま、魔術? 私が?」
「もしかして、自覚ないんですか? 本当に言ってます?」
「あの時は咄嗟に何か出ろーって、願っただけだからわからなくて」
「魔術って言った時も冗談かと、本当に魔術なんだ。あれ」
「呆れた……魔術もですけど、あなたも何かすごいですね。色々と」
「色々?」
「それはさておき、私に力を貸す気はありませんか?」
「でも力って言っても、私役に立てるかわからないよ?」
「嫌だと言っても、絶対に協力してもらいますからね」
「だって、これを見てしまったのだから」
シスターの手元には、茶色のケース。
「これって、何が入っているの?」
「魔法使い、いや、魔法を扱う者なら一度は聞いた事があり、その希少性と有用性から誰もが欲しがる物でこれが大きければ大きい程、潜在魔力は多くなっていく、下手すれば世界を変えてしまう代物」
「名は、“賢者の石“」
「ある程度の魔力しかない魔石とは別格の、とんでもない物です」
「この中に入っているのはその石のかけらで、かけらでも欲しがる者は大勢いるでしょうね。何故なら小さくてもかけら一つで通常の魔石より、二十倍もの魔力を蓄えているのですから」
「手に入れるのには少々苦労しましたが、得られる物を考えれば些細な事です。これと引き換えにある情報を得ようとしたんです」
「何の?」
「勇者がどこにいるのか、というのをです」
それを聞いた途端に、思わず立ち止まってしまいヴィオラは驚いた。
「勇者が、この王国にいるんだ」
「ええ、その噂を聞いて私はこの国に来たんです」
「私の復讐を果たす為に、勇者を利用して」
「復讐……」
「付き合ってもらいますからね。あなたも関係者となってしまったからには」
「じゃあ、嫌って言うと?」
「闇取引に関与していたと、国の騎士団に暴露します」
「なるほど、詰んだ!」
こうしてヴィオラは、シスターと名乗る彼女の勇者探しを手伝う事になったのだった──。
ヴィオラはダーツをしていたとありますが、誘った張本人である前世での友人はヴィオラよりも先にダーツをしていたんですが、下手であまり得意とは言えない微妙な腕前でした。が、それでも楽しくて一緒にしていました。
それでは、また。