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ヴィオラの目覚めと最初の仲間 2

第二話


「その……」


「私は、それ程優しい人間ではありません。あなたを助けたのも気の迷いがあったからです」

「最初は見て見ぬふりをしようとしていたし、あなたを助けようと微塵も思わなかった」


「えっ?」


 思いがけない返答にヴィオラは少し戸惑ってしまうものの、彼女の置かれている複雑そうな状況や境遇を想像し、先を急いでいる様な仕草と雰囲気ですぐに申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった事で、先ずは謝ろうと頭を下げかけるも、流石に一言だけで大丈夫だろうと感じたのだった。


「じゃあ私はこれで。その、先を急いでいる所すみません」


 あっ、結局謝ってしまった。


「ええ、それでは」


 彼女はその言葉と同時に、何かを思い出した様に足を途中で動かすの止め、一歩進んで立ち止まる。


「ちょっと、言い忘れていた事があります」


 振り返り、立ち上がって鞄を拾い上げ、片手でスカートの汚れをはたいて落としている最中のヴィオラに、身体ごと向けて続きを話した。


「彼等。またあなたを難癖つけて虐めて来ますよ? 少しは謝るだけでは無く、自分の身を守る行動を取った方が良いと思いますけどね」

「あなたはもっと、自分に自信を持つべきです。これから頑張って下さい」


「まあそうだよね。出来る限り、努力する」


「言いたい事は終わりです。では」


 言い終えると、次は背を向け足を止めずにそそくさと彼女はその場から去るのだが、歩き始めた途端に懐から何かを落とし、ヴィオラは拾う。


「ん? 何だろう? これ」


 四方を黒く塗られた正方形の箱の様な、箱では無いかもしれないが、じっくり触っていると、所々ざらざらした部分がある事で手触りに違和感があり、目を凝らしよく見ると、意味のわからない刻印と紋様が刻まれているのが確認出来る。


「これ……私の持ってる指輪と一緒だ」


 ヴィオラが元々持っていた指輪と、謎の黒い箱で刻印を照らし合わせてみると一致する。


「何なんだろう?」

「取り敢えず、あの人に届けないと」


 まだ遅くないはず。


「追いかけよう」







「ここはまさか……」

 

 暫く歩いた先。そこは、王都の中でも悪い意味で有名で、多分王国一治安の悪い地域。


 当然の様に法に触れる行為が横行していたり、足を踏み入れた者は必ず行方不明になってしまうと言われている裏市と呼ばれる地域に、あの黒衣の彼女は歩みを進めていたのだった。


 ヴィオラは彼女の背中を遠くから見ていて着いていっていたのだが、裏市の異様な雰囲気に圧倒され、本能で駄目だと身体が言っているみたいに、つい足を止めてしまったのと同時に、震えが止まらなかった。そうしている間にも、どんどん見えなくなっていく。


「何か、寒い? 気のせいかな。悪寒が止まらない」

「でもこの先は、行ってはいけないと感じる。どうしようもなく、足が動いては駄目だって警告をしているみたいに」

「ああそうか。そういう事か」


 私……いや、“僕“が必要なのは、きっとこの先に行く事じゃない──。


『あいつが、殺したんだよ』


 もちろん、怖くて逃げ出したくてこの先に行く事を拒んでいる訳ではないんだと肌で感じた。あの人に届けるとか自分がする必要なんてないと。

 そうだ、誰かに任せれば良いんだ。こんな危険な所、行くのは駄目だ。結局、僕は前世でも、今世でも落ちこぼれで出来る事なんて何も無いのだから。


 戒めなんだろう? あの頃を、思い出せ。


『助けてくれて、ありがとう』


『あの子は、虐めから貴方に助けてもらえた事を、遺したノートに“一番の思い出“って書いていたんです。だから、ありがとう。本当に、ありがとう』


 そう頭を下げ続けてしがみつきながら、友人の母は、いつまで経っても感謝の言葉を嗚咽し、泣きながら機械の様に反芻していた。


『彼か、友人とあの子が言っていたのは』


『そうよ。あの子が刺激しなかったら、ここまでならずに済んだのに』


 あれは、普段よりも酷く寒かった冬の日の事で、友人だからと来るのを許された僕は、そうして参列に来た時だった。彼の親族は皆揃って僕の事を、雪よりも冷たく、悪意の籠った目でじっと見続けていた事を覚えてる。


 それで、たった一言だけ。


『君が一番近くにいたというのに、何故?』

 

 そう、僕が彼を殺してしまったんだ。


 原因は、彼を虐めから助けた事だった。助けた事で、彼に対する虐めは激しくなっていったのだ。もちろん、彼を助けようと努力はした。僕も背負おうと彼の代わりになろうとした。でも、彼を虐めていた奴等は僕の事を意図的に無視していたんだ。


『僕の事はいい、大丈夫』


 まるで、後からこいつにしようと言われているみたいだったし、一人では四人に立ち向かっても跳ね返されてそこで終わり。

 結局、完膚なきまでに僕は殴られ、気を失うまで彼が虐められているのを眺めていただけ。


『明日まじで金持ってこいよ! じゃないと、今日みたく食べた物出るまで腹パンだからな!』


『ギャハハハハ! 相変わらずきっちく〜』


『それと、俺らの宿題もついでに終わらしといてね。終わってなかったら回数が増えちゃうよ?』


『まじ写真撮って良い? 滑稽過ぎて面白いわ!』


 しかも、“権力者“だった。先生も、周りも誰一人として救ってはくれなかった。僕は何も出来なかったし、家族には心配されたのも覚えてる。でも助けたかったんだ。


「いじめられているんですよ! どうして助けてくれないんですか!」


『すまない、どうする事も出来なくてね。自分達で何とかしてくれ』


 ──どうしても、見ていられなかった。だけど僕には何も、何も出来なかった。


『良いんだ。僕に構ったら、君にも飛び火してしまう』

『出来ない? いいや、僕と友達でいてくれるだけで、充分だから』

 

 いつしか彼は、耐えきれなくて自分で……僕が悪いんだ。僕は自分が憎くなった。こんな無力で何もない自分を!


 そして次に標的にされたのは、僕だった。本当は注意不足なんかで死んだ訳じゃない。でも、自分の中で注意不足という事にしておけば、僕に対する罰になると思ったから。


 彼が亡くなった一週間後の事、交差点で信号が青になるのを待っていた時の事だった。後ろから押されたんだ。力強く、四人分の力で思いっきり。驚いた僕は動けなくなって、唖然としたままそれで轢かれ、気がつけば生まれ変わっていた。


 そして彼の記憶に引っ張られながら、今を生きているという訳だ。不思議な事に、私は一人なのに自分の中で二人の自分が生きているみたいで、何だか気持ち悪い。


「それに私がこの先へ行かなくとも、あの人はきっと私よりも強い人だし、大丈夫」


「私が行った所で、何になる? 迷惑になるだけ」


「力不足に嘆いたりしない。だって、力のある人に託せば良いだけなんだから」

「引き返そう。それが良い」


 その瞬間、ヴィオラは走り出していた。それが何なのか彼女自身も全くで、よくわかっていなかった。

 “それ“は止まる事なく、ただ動き続ける。足掻いているみたいにどんどん速く、歯車みたいに速く回転して心が溢れて止まらない。これだけはどうしようも出来なかった。


「何で、何で私は、繰り返してしまうの?」


『さぁやってみろ。お前なら何処までだって自由にやれるはず!』


 走り出したと同時に誰かの言葉が、頭の中に溢れ出した。その誰かはわからないけれど、大切な人だという事は、何故だかよくわかる。走り出す理由も、あの人を追いかける理由もわからないけれど、私は行かなきゃならない気がするんだ。


「はっ、はっ、あの人が歩いていった所は曲がり角を過ぎた場所に!」

「ふうっ、ここは……」


 辿り着いたのは、古く木造の今にでも崩れて落ちてしまいそうなぐらいにボロボロの建物。


 その中に彼女は躊躇なく入っていったのをヴィオラは見たのだった。運良く扉は無くて、音を出さずに中に入ろうとするも、中は部屋が無く、だだっ広い空間が広がっているだけで、入った目の前で会話しているのが見えた瞬間に壁に張り付いた。


 バレていないのがわかった途端に安心する。一呼吸置いて耳を澄ますと、会話が聞こえてきた。


 そっと、入り口の前でヴィオラは会話を聞き始めたのだった。


「なあ、例の物は持ってきたんだろうな?」


 彼女を囲んで腰に剣を携えた男の集団の内の一人が威圧しながらそう問うと、すんなりと答えた。


「ええ、忘れるはずありません。何なら見ます?」


「いいや、帰ってからにする。そのまま渡してもらおうか」

「よし、それで良い」


 彼女と男が茶色の謎のケースを渡し終え、二人の距離が離れた後に、すぐさま周りの者が剣を抜いて一斉に彼女に向け始める。


「どういう事ですか!」


「うーん。お前もう用済みだから」


「じゃあ、情報を売るってのは」


「あ? そんな事言ったかな?」


「そんなっ、あなた騙しましたね!」


「ああ? 情報を売るとは言ってないなぁ?」

「だって、お前の求める物が()()()()()()()()って言っただけだぞ?」


 すると、集団の一部の者が彼女をいきなり封じ込めて地面に叩きつけると、顔が見上げやすい位置までしゃがみ込んで男は続きを話した。


「は、離してください!」


「無理だ。申し訳ないけど、俺達の事を知る者は絶対に消す様に上から言われているからな」


「くっ、これでは、魔術がっ!」


「その為に使えない様にしてるんだ。手を封じてしまえば、お前は使えないんだろ? 前もって噂は聞いている。指を鳴らさないと使えない“欠陥品“だという事はな」


「どうして……それをっ!」


「魔導師ってほら、どいつもこいつも強いから有名になりやすいしな」

「しかも、魔導師だってんのに無詠唱じゃないとは驚いたぞ。普段から手を見せないのも一度、動作が必要だという事がバレない様にだろ?」

「秘密は、ちゃんと隠しとくもんだぜ?」


「取引はするんじゃなかったんですか!」

「このっ、裏切り者!」


「なるほど、うん。じゃあな」


「……ま、待った!」


「ん〜?」


 ヴィオラはそんな彼女の危機に耐えきれず飛び出してしまう。


「お前は誰だ?」


「あ、あなたはさっきの」


「そ、その、えっとですね、一旦彼女を離してはどうでしょう。私が代わりになるので」


「取引? それは取引なのか?」


「はい」


「ぷっ、ぷぷっ、はははははっ!」


「お前、馬鹿なのか?」


「あっ、そっか」


 すぐにヴィオラも彼女と同じくして捕えられてしまった。


「うっ!」


「馬鹿だよお前。正面からって……ははっ」

「いきなり現れて、取引? 全くだな」


「何で、どうしてここに」


「それはその、色々あって」


「ええ?」


「こいつらどうしますか」


「あ〜二人とも消しといて、面倒だし」


「了解です」


 ま、まずい。どうしよう。このままだと私もあの人も殺されてしまう! 何か、何かないかな? 一つだけ、一つだけ立ち向かえる方法が欲しい!


『なぁ“勇者の剣“ってさ、一つだけじゃなくて複数個あったら良いのに、どうしてないんだろうな』

『ほら、このゲームに勇者が一人だけって言うのも何かもやっとするっていうかさ、絶対いっぱいいた方が強いと思うんだよ』

『いっその事、()()()()()()()()()良いのにな』


『お前もそう思わない?』


 勇者の……剣?


 すると、手に持っていた謎の黒い箱が点滅する様に光を発し始める。


「その手に持ってる物を出せっ!」


「私の持っていた黒い箱を、何故あなたが」

「光ってる……? 私が何をしたって変化せず、見ても何もわからなかった謎の魔道具を、まさか使えるのですか?」


「じゃあもう何でも良いから! 私に力を寄越してよ!」

「まっ、眩しっ」


 すると、黒い箱が突然とんでもない勢いで光りだしたと同時に、周りにいる者達は驚きだした。


「何だ? それは」

「何なんだ! それはぁっ!」


『僕にも出来ない事を、君には出来る。だから僕は君に憧れたんだ』

『きっとその勇気は、神様が君に与えた……不条理なこの世界を変えるたった一つの“方法“なんだ』


 誰かとの会話の記憶の中の言葉を思い出した後に強く願うと、ヴィオラの目の前には光り輝く謎の剣が空に浮かんで突然出てきていた。 


「あなたまさか」


「こ、これはもしかしてだけど! もしかして本物のやつ? だとしたら私勇者って事なの?」


「ど、どういう事か、全くわからない」

「もしかして、魔導師なんですか!」


「えっ、魔導師?」


 そして、ヴィオラは魔導師として目覚めたのだった──。

不定期投稿です。

あんまり遅くならない様に気をつけますが、一日空けたりとかはたくさんすると思うのでどうかご了承下さい。

あ、あとなんか誤字か矛盾点があったら報告よろしくお願いします。とても助かります。

それと今後とも投稿していきます。


それでは、また。

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