第6話
「ねえ、ルミエル!! キミ、翻訳できるなら、ついでに身分証も作ってよ!!」
牢屋の床に座り込んだまま、私は言霊の精霊に向かって叫んだ。
このままだと 無法者として監獄送りになってしまう。
そんなの絶対イヤだ!!
「いやいや、そんなことできるわけないでしょ?」
ルミエルは肩をすくめ(羽だけど)、あっさりと断ってきた。
「ちょっと!? 何とかしてよ!?」
「そもそも、身分証っていうのは 各帝国が発行する正式な証明書 だからね。
適当に作ったら 帝国にバレて処刑されるよ?」
「ひぃぃぃ!!(汗)
「それに、君の存在自体がこの世界の“理”から外れたものなんだ。
つまり、君の身分を証明できる書類なんて、この世界には存在しないってこと」
「そんな……」
つまり、私はこの世界にとって “存在してはいけない”存在 なのか?
ゾッとするような事実に気づいてしまった。
「じゃあ、どうすればいいの!?」
「簡単さ、保証人を探すことだよ」
ルミエルはひらひらと宙を舞いながら言った。
「保証人さえいれば、身分証がなくても“街の住人”として登録してもらえるよ」
「おぉ、それなら……」
「でも保証人がいなかったら?」
「その場合は……」
「監獄行きだね!」
「うわあああぁぁぁぁぁ!?!?」
「し、監獄って、どんな場所なの!?」
私は青ざめながら看守に尋ねた。
「はっ、考えたくもねぇがな……」
看守の男は、腕を組みながら呆れ顔で言う。
「ロストンで身分証を持たない無法者は、帝国の監獄へ送られる。
そこでの暮らしは、地獄そのものだ」
「ひ、ひぃぃ……」
「無法者たちは人間扱いされねぇ。
まともな食事もなく、毎日生きるか死ぬかの戦いを強いられる」
「マジで!?」
「しかも……監獄には “穢れた者” もいる」
「……穢れた者?」
「黒死の病にかかった連中さ。
隔離施設代わりに監獄へ送られるが、誰も治療はしねぇ。
つまり、あそこは “死を待つ者たちの牢獄” ってことさ」
「ひぇぇぇぇぇ!!!」
つまり、私はこのままだと
→ 監獄送り
→ 黒死の病の感染者と同じ牢屋
→ まともな食事もなく、生存確率ゼロ!?
「死にたくなぁぁぁぁい!!(汗)」
私は必死に鉄格子をガタガタ揺らした。
「誰か!! 私の保証人になってくれる人いませんか!?!?」
その時——。
「……オリカ様……いらっしゃいますか?」
静かな声が、牢獄に響いた。
牢屋の前に立っていたのは、一人の女性と、立派な身なりの紳士だった。
「え……?」
私は呆然と彼らを見つめる。
どこかで見た顔……そう、あの時の少年の家族だ!
「オリカ様……私たちを覚えていらっしゃいますか?」
女性がそっと微笑んだ。
彼女は、少年の母親だ。
「もちろん! え、でもなんでここに……?」
「あなたがこの街で拘束されたと聞き、すぐに駆けつけました」
「……!」
少年の父親である男性が、一歩前に進み出る。
「あなたが息子の痛みを和らげてくれた。その恩は、決して忘れません」
彼は厳格な表情を崩さないまま、看守に向き直った。
「私たちはロストンの商人ギルドを統べる『アレクシス家』の者です」
「ア、アレクシス家!?」
看守が驚いた声を上げる。
「まさか……ロストン随一の貿易商を営むアレクシス家が、この娘の保証人になると……!?」
「え、えっと……つまり?」
「つまり、ロストンで最も裕福な家の人たちが、私の味方をしてくれるってこと!?」
「オリカ様、あなたは私たちにとって“恩人”です」
「この街で生きていけるよう、手続きをいたします」
「……!」
私の心に、温かいものが広がった。
助けた命が、今度は私を助けてくれる。
そんな奇跡みたいな瞬間に、私は言葉を失った。
「オリカ・フジサ様を、私たちの保証人として認めていただきたい」
父親の毅然とした言葉に、看守も黙って頷いた。
「……あんたがそう言うなら、異存はねぇよ」
「よっしゃぁぁぁぁ!!!」
こうして、私は 監獄送りを回避することに成功した!