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第57話






エリーゼは 不満げな顔で腕を組み、オリカとゼファーのやり取りをじっと見つめていた。


(……何故、このような男を選ぶのですか、オリカ様。)


エリーゼの冷たい視線 は、完全にゼファーを値踏みするようなもの。


「エリー、そんな顔しないでよ」


オリカは 小声で囁く。


「だって、この人が一番強そうだったし……」


「それは“見た目”に惑わされた結果ではありませんか?」


「ち、違うわよ!!!」


「…………。」


エリーゼの 目が細まる。


(あ、完全に疑われてる。)


ゼファーはクツクツと笑いながら、無造作に足を組み替えた。


「俺はガキに興味ねーけどな」


「ガキじゃないし!!」


「どうせ二十歳とかそこらだろ。違うか?」


「…うーん、まあ、合ってるけど」


「それより、エリーって言うんだな、あんた」


「…気安く名前を呼ばないでもらえますか?」


エリーゼの血管が浮いている。


相当お怒りらしい。


…まあ、それも無理もないよね。


急に胸を揉まれたんだ。


現在社会なら、セクハラどころの騒ぎじゃない。


ちょっとした「軽犯罪」だ。


警察沙汰で、今頃この酒場は大騒ぎになってそう…



「まぁ、そう怒るなよ」


ゼファーは 酒を一口飲み、涼しげに言う。


「仕事をするなら、俺はちゃんと仕事をする。

それ以上でも、それ以下でもねぇよ」


エリーゼは深くため息をついた。


「……お嬢様、私は納得しておりません」


「でも、たったの銀貨10枚でいいって言うんだよ?!安くない??」


「……はぁ」


エリーゼは渋々、納得したような素振りを見せるが、依然としてゼファーへの警戒心を緩めていなかった。




——会話が進む中、ガタッと椅子が動く。


「ま、話が長くなりそうだし、俺は一杯やらせてもらうぜ」


カイルがカウンターへ向かい、ビールを注文した。


「おい、店主。ビールあるか?」


「そこのメニューに載ってる」


「お、これだな。…うーん、どれにするか…っと」


「…ロストン名物の“マウンテン”もいいが、せっかくだ。この“特製ビール“ってのをくれ」


「おうよ! 《琥珀狼アンバー・ウルフ》 だな?」」


カウンターの奥から、筋骨隆々のバーテンダー風の男がジョッキを取り出した。


琥珀色に輝く深みのあるビールが、分厚いジョッキになみなみと注がれていく。


「ほらよ、5銅貨だ」


「5銅貨……安いな」


カイルは受け取ったジョッキを見て、思わず感嘆する。


(おお、これは……。)


ジョッキの側面には、銀色の狼の紋章が刻まれており、飲み口には細かい装飾が施されている。


「ここのギルドのオリジナル品さ」


店主がドヤ顔で説明する。


「ギルド名物の 《琥珀狼》は、麦の甘みと苦みが絶妙に調和した深い味わいだ。

しかも、喉ごしはスッキリしていて、飲みやすい」


「ほぉ……」


カイルは 軽くジョッキを傾け、一口飲んでみる。


「……うん、これはいいな」


ほんのりとした甘さと、程よい苦みが口の中に広がり、スッと喉を通っていく——。


(確かに、これはクセになる。)


「オリカ様もいかがですか?」


エリーゼが勧めるが——


「今、それどころじゃない!!!」


オリカはゼファーとの交渉に必死だった。




「で、具体的にどんな魔獣が出るの?」


オリカが 問いかけると、ゼファーはゆっくりとジョッキを置き、口を開いた。


「霧の森はな……」


「さっきも言ったが、気安く立ち寄っていいような場所じゃない」


彼は無造作に指を一本立てる。


「特にヤバいのが、《幽冥狼ゴースト・フェンリル》 だ」


「ゴースト・フェンリル……?」


カイルがジョッキを持ったまま顔を上げる。


幽冥狼ゴースト・フェンリルは、“魔力そのものを喰らう” という特殊な魔獣だ」


「魔力を喰らう……!?」


オリカの背筋に冷たいものが走った。


「そういうことだ」


ゼファーは続ける。


「こいつは見えねぇんだよ」


「え?」


「幽霊みたいなもんさ。

魔力の波動を察知し、周囲に干渉してくる。

だから、気配を消せない奴は 瞬時に喰われる」


「……まるで魔力の捕食者ですね」


エリーゼが難しい顔をする。


「まぁな」


ゼファーは軽く息を吐いた。


「実際、コイツに狩られた奴は多い」


「……そんなの、どうやって倒すの?」


オリカが問いかけると、ゼファーは片手を上げて笑った。


「さぁな」


「えぇぇぇぇ!?」


「倒したことねぇし、戦ったこともねぇ」


「じゃあ、どうするのよ!?」


「だから、高ぇんだろ?」


ゼファーは悪びれもせず、ニヤリと笑う。


「命がけの仕事ってのは、それ相応の値段がつくもんだ。まあ、今回だけは“特別料金”だがな」


オリカはぐっと唇を噛んだ。



(…戦ったことがないって、大丈夫なの!?)


(……でも、妙に自信がありそうだし…)


(ただの”傭兵”って感じじゃなさそうなのは間違いない)


(けど…)



ゼファーは片目を細め、オリカを見つめた。


「さて……どうする?」


「俺と契約するか?」


オリカはゼファーの瞳をじっと見つめる。


(この男……本当に信用できるの?)


(いや、信用できなくても、実績がある傭兵ってのは確か。)


「……分かった」


「契約しましょう」


ゼファーはニヤリと笑い、グラスを置いた。


「いいねぇ、そうこなくっちゃな」


「これで俺も、しばらくは退屈しなくて済みそうだ」



——こうして、ゼファー・クロウとの契約が成立した。


だが、その背後で、

エリーゼは ものすごく不服そうな顔をしていた——。


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