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第55話



ロストンの港町から北へ向かい、大通りを外れた先——

オリカたちは、目の前の建物を見上げていた。


「……ここが、傭兵ギルド《黒狼の爪》……?」


古びた石造りの外壁に刻まれた巨大な狼の紋章。


入り口に構える 頑丈な鉄扉 の左右には、鋼鉄の鎧を身にまとった屈強な門番が立っている。


「うわぁ……。」


オリカは 思わず声を漏らした。


「これ、明らかに普通のギルドじゃないよね?」


「どう見ても、軍の要塞ですね」


エリーゼが冷静に分析する。


カイルは苦々しい表情で腕を組んだ。


「ここは、戦争や暗殺、護衛を生業にする連中の溜まり場だ。

商人ギルドとは違って、“生きるか死ぬか” の奴らが集まってる」


「つまり、戦闘のプロフェッショナルってことか……」


オリカは深く息を吐く。


(でも、ここで引き返すわけにはいかない)


彼女は意を決して鉄扉を押した。



——ギィィィ……。



中に入った瞬間、酒と血の匂いが入り混じる独特な空気に包まれる。


目の前に広がるのは、まるで戦場の前線基地のような光景だった。



ギルドの内部は、まるで酒場のような作りになっていた。



◆ カウンターの奥には、並ぶ酒樽と乱雑に置かれた武器。

◆ 壁には、各地の戦場から持ち帰られた戦利品が飾られている。

◆ 広間では、屈強な傭兵たちが酒を酌み交わし、大声で笑い合っていた。



「おい、新入りか?」


入り口付近にいた筋骨隆々の男が、オリカたちを一瞥する。


「…なんだ、違うのか。依頼を持ってきたなら、手続きをしな!」


「手続き……?」


オリカは首を傾げる。


「傭兵を雇うには、依頼の登録が必要です」


エリーゼが説明を補足する。


「紹介状があるとはいえ、正式な依頼として受理してもらう必要がありますね」


「なるほどね……」


オリカはカウンターへ向かい、ギルドの受付に書類を提出する。


「ふむ……依頼内容は 《フィオナの聖草》の採取、か」


受付の男は渋い顔をする。


「霧の森は魔獣の巣窟だ。ここらへんのエリアでは、最も危険な区域でもある。

それなりの腕のある傭兵を雇うなら、相応の金がかかるぞ」


「……それは問題ないわ」


ヴィクトールの出資がある。

金銭面の心配はないが——


「問題は、誰を雇うか、ですね」


エリーゼが 辺を見渡す。


オリカも傭兵たちの様子を観察し始めた。



オリカはギルド内を歩き回り、適当な傭兵を探していた。


「えーっと……腕が立って、信頼できて、できればイケメン……」


「最後の条件、必要ですか?」


エリーゼが 冷たい目で見てくる。


「いやいや、見た目は大事でしょ!?」


「どうせまた、“顔だけで選んで失敗” するのがオチだ」


カイルが呆れたように言う。


オリカは以前、カイルたちに「昔」のことについてを話したことがあった。


転生したことをそのまま伝えたわけではなかったが、過去の失敗についてを赤裸々に話し、夜な夜な盛り上がったことがあった。


オリカは何度か男選びに失敗していた。


高校大学と、“元カレ“と言われる男たちはこぞって”顔は良い”部類だった。


…ただし中身が「クズ」というか、ろくでもない男だったというか…



「うるさいわね!! ちゃんと実力も見るから!!」


しかし、見渡しても、傭兵たちは粗野な男たちばかり。


(むむ……やっぱり、傭兵ってワイルド系が多いのね……。)


そう思いながら、オリカは 奥のテーブルに目を向けた。


(ん? あの赤髪の人……。)


そこには、長身の男が無造作に椅子にもたれかかり、酒を煽っていた。


鮮やかな 赤髪をくしゃっと乱し、片目には黒い眼帯。


(えっ……イケメンじゃん……!!)


整った顔立ち、鋭い目元、そして何より——


絶妙に色気がある!!!


「……オリカ?」


「……いや、ちょっと、あれはヤバいわよ……」


オリカは目を輝かせる。


(むさ苦しい男ばっかだと思ったけど、ちゃんといんじゃん!)


しかし——


その男は、酒に酔い潰れ、ふらふらと立ち上がったかと思うと——


「……よぉ、お嬢ちゃん」


オリカの肩をぽん、と叩いた。


「俺と一杯、どうだ?」



「……え?」


オリカはキョトンとする。


(ちょっと待って、なんで急にナンパ!?)


赤髪の男はニヤリと笑い、

オリカの腰に手を伸ばそうとした——


その瞬間。



——バキィッッッ!!!!



「——がはっ!!?」


鮮やかな回し蹴りが、男の脇腹に炸裂した。


「……何をしているのですか?」


エリーゼが静かに微笑んでいる。


その顔は、いつもと同じ優雅な微笑み——

だが、その目はまるで死神のように冷たい。


「うぐっ……何だ……?」


男は蹴られた衝撃で椅子ごと吹き飛び、床に無様に転がった。


「お嬢様に不用意に触れるなど、軽率すぎます」


「……いや、ちょっと待て、お前……」


男は 呻きながら身を起こし、苦笑する。


「酔ってたとはいえ……。

まさか、こんな綺麗な女に蹴られるとは思わなかったぜ」


オリカはようやく状況を理解した。


(えっ……この人、もしかして……。)


「……ふぅん」


男はニヤリと笑いながら、長い指で眼帯の端を軽く触る。


「ま、改めて自己紹介だ」


「俺の名は ゼファー・クロウ」


「“死神”の異名を持つ傭兵さ」


オリカは盛大に息を呑んだ。


(えっ、これ……やばい。)


(顔も、声も、雰囲気も、どストライクなんだけど!!!!)

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