第47話
(……あれ?)
オリカの意識が戻った瞬間——
世界が、ゆっくりと動き始めた。
耳が再び音を拾い、風が頬を撫でる。
空間に漂っていた光の粒が、徐々に流れを取り戻していく。
(私は……まだ、ここにいる。)
その最中——
黒きエネルギー弾が、今まさに自分へと迫っていた。
——バチィッ……バチバチバチ……!
エネルギー弾は、なおも禍々しい光を放ちながら、オリカの目前でゆっくりと脈動していた。
■ エネルギー弾の特徴
・物質と魔力が融合した、極めて密度の高い波動
・通常なら、触れた瞬間に対象を消滅させる
しかし、オリカの体の前で異変が起こる——
(……あれ?)
——飲み込まれるはずだったのに。
オリカの 胸の中心 から、何かが引き寄せられるような感覚がした。
ジュウウウウウウ……!!
「なっ……!?」
ライゼンが目を見開く。
黒きエネルギーが、オリカの体へと吸収され始めたのだ。
——バチバチバチバチ……!!
まるで、波紋が広がるように——ゆっくりと。
黒い閃光が、オリカの指先から吸い込まれる。
それは渦を巻きながら、ゆるやかにオリカの体へと溶け込んでいく。
「っ……!!」
オリカの全身に、稲妻のような衝撃 が走る。
しかし——
痛みは、なかった。
むしろ温かかった。
(これが……世界樹の“命の力”?)
その瞬間——
——ドォンッ!!!!
透明な“ドーム状の防壁”が、オリカの体を中心に静かに広がっていく。
それは光でも闇でもない。
ただ、“命の力” そのものだった。
「オリカ……様?」
エリーゼの 震える声が聞こえる。
オリカが振り返ると——
エリーゼとカイルの体が、完全に回復していた。
「……え?」
エリーゼは、自分の右腕を見た。
先ほどまで、切断されていたはずの腕が——
完全に元に戻っている。
皮膚は滑らかで、傷跡すらない。
まるで最初から何もなかったかのように。
(こんな……ことが……!?)
「カイル!」
オリカは、すぐに地面に横たわっていたカイルへと駆け寄る。
彼の胴を深く切り裂いていた傷は——
すべて消えていた。
血は止まり、肌は再生し、呼吸は穏やかだった。
まるで深い眠りについているかのように——。
(治った……。)
(でも、ただの治癒魔法じゃない。)
(これは……)
《“命の力” の影響》
☑︎ 通常の治癒魔法とは違い、失った器官や傷が完璧に再生される
☑︎ 本来なら助からない重傷ですら、“生命” の状態を完全に巻き戻す
☑︎ しかし、“何か” を対価として支払っている可能性がある——
「……おい」
沈黙を破ったのは、ルナティアだった。
彼女は、オリカの変化した力を見据え、軽く舌打ちする。
「なんだ、その力は」
「……私にも、わからない」
オリカは、ゆっくりと拳を握った。
体が異常なまでに軽い。
まるで新しい生命を得たような感覚。
(でも……)
「私は、“命” を救うために、この力を使う」
そう静かに誓った。
そして——
この出来事を境に、オリカの “治癒” の概念は、完全に変わることとなるのだった。




