第44話
——ギィィィィンッ!!!!
鋭い音が、空気を切り裂いた。
オリカがハッと顔を上げる。
暗闇の中から、“何か” が飛んできた。
それは「矢」だった。
しかし——ただの矢ではない。
■ 魔力の籠った矢——破邪の槍
◇ 魔法と物質を練り合わせた高度な技術
◇ 矢の軌道がまるで生きているかのように変則的に飛ぶ
◇ 対象に当たると、“魔力そのもの” を破壊する衝撃を生む
◇ 超高密度の魔力を持ち、通常の障壁では防げない
「っ!」
ルナティアは、一瞬で矢の存在を察知した。
「——チッ、面倒な」
バサァッ!!
漆黒の魔力をまとい、ルナティアが高く跳び上がる。
(……飛んだ!?)
オリカの目が驚きに見開かれる。
ルナティアは まるで重力を無視するかのように、闇の中へと跳翔していった。
そして——
ズガァァァァンッ!!!!
矢は、寺院の一部を吹き飛ばした。
「うわっ……!」
オリカは 爆風に煽られ、地面に伏せた。
(何、この威力……!?)
矢が寺院の石壁に突き刺さった瞬間、爆発的な魔力が周囲に広がった。
《破邪の槍の威力》
☑︎ 対象に着弾すると、魔力の拡散と同時に爆発を引き起こす
☑︎ 物質だけでなく、対象の魔力そのものを砕く
☑︎ 通常の魔法障壁では完全に防げない
寺院の壁は 粉々に砕け、崩れ落ちていく。
(もし、さっきの矢が……私たちに向けられていたら……!)
オリカは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「オリカ様!!」
その瞬間、オリカの 周囲に光の粒子が舞い上がった。
「——《神護の聖壁》!!」
バシュウウウウウッ……!!
黄金色の魔法陣 が空間に展開される。
オリカとエリーゼの周囲に、半球状の透明な障壁が形成された。
(これは……!)
「お前ら、随分と危なっかしい橋を渡ってるみてぇだな。」
低く響く声とともに、闇の中から二つのシルエット が現れた。
オリカは顔を上げる。
目の前にいたのは——
長身の弓使いの男 と 華奢な魔導士の女。
(エルフ……!?)
ゴドナーが在籍している“魔術師ギルドのメンバー”だった
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▼ 魔術師ギルド:『シルバーファング』のメンバー
《狙撃手・ライゼン》
・鋭い黄金色の瞳を持つエルフの弓使い
・黒い弓を携え、影の中から音もなく狙撃する
・冷静かつ理知的だが、皮肉屋な一面もある
《守護魔導士・セフィナ》
・青銀色の髪を持つ美しきエルフの魔導士
・防御魔法と回復魔法のエキスパート
・穏やかな性格だが、冷徹な判断力を持つ
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セフィナが軽く手を上げた。
「久しぶりね、エリーゼ」
「……セフィナ!? ライゼン!? どうして……!」
エリーゼが驚愕の声を上げる。
「ゴドナーから話を聞いてな」
ライゼンが、低く答えた。
「お前らが“人間” と一緒に行動していると聞いてな。
厄介事に巻き込まれてると判断して、追ってきた」
オリカは、 その言葉に軽い違和感を覚えた。
(“厄介事” ……って?)
「まさか……オリカを疑っているの?」
エリーゼが、苦々しい表情になる。
「当然だろ」
ライゼンは オリカを見つめ、肩をすくめた。
「そこにいる女が何者かは知らねぇが……
“人間” が、この世界の破滅を招いてきたのは事実だ」
(……。)
オリカは、何も言い返せなかった。
(一部のエルフにとって、人間は“破壊者” なんだ……。)
「——だが、それよりも」
ライゼンは、 鋭くルナティアを見据えた。
「“そこの女” の方が、よっぽど問題だ」
「問題?」
エリーゼがライゼンを見つめる。
「まさか……何か知ってるの?」
「エリーゼ、お前は聞いたことはねぇか?」
ライゼンは 静かに言った。
「“アウロラ計画”——ヴァルキア帝国が進めていた、
“魔獣細胞と生物の融合” を目的としたプロジェクトだ」
エリーゼの瞳が見開かれる。
「……それって……」
「その計画の“生き残り” が、目の前にいる女だ」
ライゼンは、 ルナティアを睨みつけた。
「ま、噂の域は出ねぇがな。アルヴェルやゴドナーは濁してたみてぇだが、様々な文献や資料が、すでにいくつか流通してる」
「——“人間の狂気” の被害者にして、“最も危険な存在”」
オリカは 息を呑んだ。
(ルナティアが……!?)
「へぇ」
その時——
ルナティアが、不敵に笑った。
「へぇへぇ、お偉いさんがたは、オレの過去まで知ってるってわけか」
ゆっくりと手を広げる。
「だったら、話が早ぇな」
彼女は静かに手のひらを開いた。
その瞬間——
黒いエネルギー弾が、ゆっくりと形成されていった。
「よぉ、雑魚ども」
ルナティアは、にやりと笑った。
「オレの力、見せてやろうか?」
オリカの全身に冷たい戦慄が走る。
——“何か” が始まる。