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第42話



夜の森の静寂の中、ルナティアはゆっくりと オリカを見下ろした。


「……いいぜ」


漆黒の長髪が月光に照らされ、銀の糸のように揺れる。

深紅の瞳が、まるで狩る者の目のように細くなる。


そして——


「3つ数える」


ルナティアは、静かに言った。


「それまでに、お前たちが消えなければ……オレは“力” を使う」


オリカは 一歩も引かなかった。


「……脅し?」


「いいや」


ルナティアの声は、氷のように冷たい。


「これは、“警告” だ」


「ふぅん……じゃあ、試してみる?」


オリカは、にやりと笑った。


(私は、引かない。)


(私は医者よ。この子の体に何が起きているのか、知るまでは帰れない。)


「1——」


ルナティアは 指を一本、立てた。


「オリカ様!」


エリーゼが焦った声を上げる。


「2——」


「オリカ様、下がってください」


カイルが、剣を握りしめた。


「3——」


ルナティアが 指を三本立てた瞬間——


「《絶対魔障壁ディバイン・ヴェール》」


カイルが、詠唱を開始した。




絶対魔障壁ディバイン・ヴェール)


 ◇ 広範囲の物理・魔法攻撃を遮断する魔法障壁

 ◇ 高位の防御魔法であり、通常の魔法攻撃では破れない

 ◇ 詠唱により魔法陣を展開し、防御性能を最大限まで引き上げる




カイルは 剣の柄に手を当て、深く息を吸い込んだ。


「空を満たす金色の意志よ、

光の矢を降らし、

我が前に絶対の城壁を築け——!」


——展開!


青白い光が走り、空間に魔法陣が刻まれる。


オリカの周囲に、巨大な半球状の魔法障壁が発生し、その内部は穏やかな光に包まれた。


「これなら、ルナティアの攻撃を防げるはずだ……!」


カイルが、静かに剣を構える。


しかし——


「フン」


ルナティアは、一笑に伏した。


「そんなもん——無意味だっつーの」



ルナティアは ゆっくりと手を上げた。


指先に、何の魔法陣も、詠唱もない。

ただ 純粋な魔力 だけが、そこにあった。


「——消えろ」


その瞬間——


ゴォォォォォッ!!!!


目に見えない 圧倒的な力が、空間を揺るがした。


バチッ!


「……!? 魔障壁が……っ!」


カイルの展開した “絶対魔障壁” が、一瞬で砕け散った。


「嘘だろ……!?」


詠唱ごと、魔法がかき消される。


ルナティアは 魔法を“破った” のではない。


——魔力の圧により、“魔法ごと” 空間から消し去ったのだ。


「……」


エリーゼが、息を飲んだ。


(こんなことが……あり得るの!?)


(魔法とは、“構築” するもの。

防御魔法なら、それ以上の攻撃魔法をぶつけることで突破するのが普通……。)


(だけど、彼女は……)


(“存在そのもの” で、魔法を無にした!?)


「……お前は、本当に何者だ?」


カイルが 震える声で呟く。


しかし、ルナティアはただ 冷たく微笑んだだけだった。




そして——


「——3つ、数えた。」





「——っ!?」


その瞬間、ルナティアの姿が消えた。


次に見えたのは、


紅い閃光。


「……あ?」


カイルが、目を見開く。


彼の胴体が——


斜めに、深く切り裂かれていた。


「——ッ!!」


鮮血が 弧を描くように舞い上がる。


「カイルッ!!」


エリーゼの叫びが響く。


カイルは 何が起きたのかも理解できていなかった。




■ ルナティアの剣技


 ◇ 魔力を刀身にまとわせ、空間すら斬る“闇刃やみば” の使い手

 ◇ 相手が反応する前に“間合いゼロ” で攻撃する異常な速さ

 ◇ 一撃の斬撃だけで、相手を戦闘不能にする圧倒的な精度




「が……っ……」


カイルは、崩れ落ちる。


オリカは息を飲んだ。


(速い……!!)


(見えなかった……!?)


「言ったよな?」


ルナティアは、肩を回しながら、カイルの血を浴びた手をひと舐めした。


「てめぇらの魔法も、障壁も、全部無駄だってよ」


その顔には、微塵も容赦がなかった。



「……カイル……?」


エリーゼは 杖を構えたまま動けなかった。


カイルの 倒れる音が、やけに遠く感じる。


(なに……この化け物……。)


エリーゼの 全身が震えた。



《エリーゼが感じ取ったもの》

 ・魔獣ですら敵わない、異常な身体能力

 ・空間を“斬る” という概念を超えた剣技

 ・完全な殺意を秘めた動き



(この人は……)


(“魔獣化” なんて、してなくても……)


(すでに常人の領域を超えている……!)


「……どうするよ?」


ルナティアは、余裕の笑みを浮かべながら、剣についた血を振り払った。


「そっちの小娘、さっき“医者” って言ったな?」


オリカを見下ろす。


「じゃあ、そいつ……助けてみな?」


彼女の瞳は、試している目だった。


(……試されている?)


オリカは奥歯を噛みしめた。


「……言われなくてもッ」


冷や汗をかきながらも、オリカは膝をつき、倒れたカイルの傷を確認する。


(深い……! 肋骨を断ち、臓器も危険かも……!)


「このままじゃヤバいッ…!」


「早く、なんとかしないと……!」



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