第41話
オリカの「私は帰らない」という言葉が夜の静寂に響いた。
その瞬間——
「——オリカ、下がってください」
低く、しかし鋭い声が背後から飛んできた。
エリーゼだった。
彼女はすでに 長杖 を両手で握りしめ、淡い魔力の光が杖の先に浮かんでいる。
同時に——
「……フン」
護衛のひとり、カイル が静かに剣を抜いた。
■ 護衛・カイルの特徴
☑︎ 金髪のショートヘア、端整な顔立ちをした青年
☑︎ 冷静沈着で、感情をあまり表に出さない
☑︎ 細身だが剣の扱いに長け、暗器の使い手でもある
「オリカ様、この者は……ただの“異端” ではない。
何か、途轍もないものを隠している」
エリーゼの瞳が、ルナティアを鋭く見据える。
「——ルナティア・ノクス」
エリーゼは、杖を握り締めながら言った。
「あなた……“何” ですか?」
ルナティアは 微動だにしなかった。
彼女はただ、淡々とそこに立っている。
しかし、その存在感は異質だった。
エリーゼが “何か” を感じ取った のは、純粋な本能だった。
(この気配……普通の魔力じゃない。)
(まるで、底の見えない深淵を覗いているみたい。)
(もし敵対したら——ただでは済まない。)
彼女は確信した。
《エリーゼが感じ取ったもの》
・尋常ではない魔力の大きさ
・まるで魔力が“生きている” かのような気配
・自然界の摂理に逆らうような、異質な存在感
「……オリカ様、離れてください」
エリーゼの声が硬くなる。
「この者は、危険です」
「……オレが“危険”だって?」
ルナティアが、ようやく口を開いた。
しかし、その声には感情がなかった。
まるで、それが当然のことだと言わんばかりに。
「オレが“怖い”のか?」
「っ……!」
エリーゼは、すぐに 魔法を発動 した。
「——《霊縛の鎖》!!」
紫紺の鎖が、空中に浮かび上がる。
それは “拘束魔法”——
対象の魔力の流れを封じ、身動きを取れなくする術。
(これで動きを止めて——)
しかし。
「……無駄だ」
鎖が ルナティアに絡みついた瞬間——
スッ……
「……え?」
紫紺の鎖が、まるで“霧を通り抜ける” ように、ルナティアの体をすり抜けた。
エリーゼの表情が、一瞬で凍りつく。
「効いていない……?」
(ありえない……この魔法は、普通ならどんな相手にも作用するはず。)
「……あなた、何者?」
エリーゼが低く問いかける。
しかし、ルナティアはただ、静かにオリカを見つめていた。
「お前の力なんて、オレには通じない」
その声は、ただ事実を述べるように、淡々としていた。
一瞬——張り詰めた緊張が、空気を支配する。
エリーゼとカイルは 完全な戦闘態勢に入っていた。
ルナティアは、微動だにせず立っている。
そして——オリカは決断する。
(このまま、対立するのはよくない。)
彼女はゆっくりと 一歩、前へ出た。
「待って!」
「オリカ様!」
エリーゼが制止するが、オリカは続けた。
「ルナティア。あなたが危険な存在かどうかは、私にはまだ分からない」
オリカは 真っ直ぐにルナティアを見据える。
「でも——あなたは、私を殺す気はないでしょ?」
ルナティアの瞳が、わずかに揺れた。
オリカは、確信していた。
(さっきの攻撃……本気なら、私は死んでいた。)
(でも、彼女は私を“追い払う” だけだった。)
「私は医者よ。
あなたが何者かは関係ない。
あなたの体に“何が起きているのか” を知りたいだけ」
ルナティアは、しばらくオリカを見つめ——
「……お前、本当に馬鹿だな」
小さく笑った。