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第38話



「……まずは…っと」


オリカは決意のこもった眼差しで、目の前の患者たちを見つめた。


ベッドの上には、明らかに人間ではない姿へと変わりつつある者たちが横たわっている。

彼らの肌は鱗や甲殻に覆われ、爪が異常に伸び、牙が鋭く変形していた。


それでも、彼らの目にはまだ わずかな理性の光が残っていた。


(彼らはまだ……完全に魔獣になったわけじゃない。)


「……先生、大丈夫?」


ルイスが不安そうにオリカの袖を引く。


「ええ、大丈夫」


彼らを放っておくことなんてできない。

それが、オリカの医者としての信念だった。


「まずは、症状を確認する」


オリカは患者たちの体を調べ始めた。



▼ 魔獣化の進行状況

 ・皮膚が部分的に鱗化している(だが、すべてではない)

 ・筋肉が異常に発達し、関節の可動域が広がっている

 ・牙と爪が鋭く変異している(しかし、人間の形を保っている)

 ・黒死病の症状はない(しかし、体温が通常よりも高い)



(なるほど……黒死病を抑制しているのは確かっぽい。)


オリカは、脈拍を測りながら考えた。


(魔獣の細胞を移植されたことで、黒死病の影響を受けなくなっている。)

(だけど、その代償として、“人間でなくなる” というリスクがある…っていうことか。)


「……これ、やっぱり“治療” じゃなくない?」


オリカは、アルヴェルに尋ねた。


「それは、我々にも分からない」


エルフの賢者は、静かに答えた。


「ヴァルキア帝国の研究者たちは、“病に負けない身体” を作ろうとしている、…という噂だ。

しかし、それが“人間でなくなること” なのか、“新たな生命を作ること” なのか……

今のところ、その答えは見えていない」


オリカは、患者たちの顔を見つめた。


(でも……彼らはまだ人間として生きようとしている。)


(なら、私は医者として、できることをやるしかない。)



「今の段階で、分かっていることを整理しましょう」


オリカは、メモを取りながら状況を分析した。



《魔獣化した患者たちの現状》

 ☑︎ 黒死病の影響はなくなっている

 ☑︎ しかし、肉体が異形へと変わりつつある

 ☑︎ 理性は保たれているが、時折凶暴化の兆候がある

 ☑︎ 治癒魔法が効かない(もしくは効果が弱い)



「……となると、手を打つなら今のうちかな」


オリカは深く息をついた。


「“魔獣化” を完全に止めるのは難しいかもしれない」


「じゃあ……このまま魔獣になっちゃうの?」


ルイスが不安げに尋ねる。


「いいえ」


オリカは、静かに微笑んだ。


「生憎、私はまだ“諦める” って選択肢を持ってないのよ」



「治癒魔法が効かないってことは、別のアプローチが必要ってことよね」


オリカは、異種族の医学を思い出しながら考えた。


(魔法ではなく、“身体の根本的な仕組み” に働きかける方法……)


「ドワーフの薬学なら、何か使えそうな技術はない?」


オリカが尋ねると、アルヴェルは頷いた。


「確かに、“魔力抑制薬” というものが存在する」


「魔力抑制薬……?」


「魔獣の細胞が活性化するのは、魔力の影響が関係している。

ならば、それを一時的に抑えれば、進行を遅らせることができるかもしれない」


「……なるほど! それなら、試してみる価値がありそう!」


オリカは目を輝かせた。



《魔獣化を抑える治療案》

 ・魔力抑制薬を使用し、変異の進行を遅らせる

 ・その間に、新たな治療法を模索する

 ・長期的に“魔獣の細胞” と“人間の体” の共存を研究する



(これが……魔獣細胞の治療の第一歩になるかもしれない。)



「では、魔力抑制薬を調合しよう」


オリカは、ドワーフの薬師たちと共に、急ぎ治療薬の準備を進めることにした。


しかし——


「……!?」


突然、患者の一人が激しく痙攣し始めた。


「まずい! 変異が進行している!」


「先生!」


ルイスが叫ぶ。


(ここで、何もしなければ……この患者は完全に魔獣になってしまう!)


オリカは、すぐに手を伸ばした。


「いいわ、やるしかない!!」


調合したばかりの魔力抑制薬を、

患者の体に注ぎ込む——!


(お願い……効いて……!!)

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