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第37話





「さあ、ついたぞ。」


翌日、オリカたちはグラン=ファルムの街を歩き、魔術師ギルドがある施設にたどり着いた。


その施設は洋瓦のような赤い屋根で覆われていて、レンガでできた背の高い煙突がモクモクと煙を立てていた。


ギルドと言っても、そこはこの街にある魔術師の「職場」の一つであり、魔法薬の研究や魔法学の資料管理、魔術師の育成など、様々な用途として使われている場所だった。


アルヴェルの案内の元施設の中に入ると、そこは大聖堂のような煌びやかな広い空間が広がっていた。


天井から差し込む外の光や、中央に鎮座した荘厳な趣のある祭壇。


艶がかった大理石の通路を渡って奥に進んでいくと、そこには、ギルドの中に設置された診療所の看板が見えた。


「星の癒しスター・サンクチュアリ」——そう刻まれた看板が、揺れていた。



■ 異種族の診療所「星の癒し亭」

 ・人間の診療所とは異なり、魔法と伝統医療が融合した治療を行う

 ・エルフのヒーラー、ドワーフの薬師、獣人族の療法士が勤務

 ・患者は人間だけでなく、異種族が中心

 ・アルヴェルがいる医療研究施設はあくまで「研究所」のような施設であり、疾病や疾患を抱えた患者に対し医療を提供する公的な施設の役割としては、魔術師ギルド内(魔法や薬学に長けた治癒師が在籍するギルド内)に設置された診療所が主になっている



「……ここが、異種族医療の最前線」


オリカは期待を込めて扉を押した。


中に入ると、そこはロストンの修道院とはまるで違った空間だった。

柔らかな香りのするハーブが焚かれ、天井には魔法陣が浮かび、壁には精霊文字が刻まれている。


(なんだか……神聖な雰囲気。)


「おお、いらっしゃい」


声をかけたのは、エルフの長衣をまとった治療師ゴドナーだった。


「君がロストンの外科師か。話は聞いている」


「ええ、オリカと言います」


「よく来たな。さっそく案内しよう」



「まずは、我々がどのように治療を行っているのか、見てもらおう」


ゴドナーに連れられて、オリカは治療室へと向かった。


そこには、エルフ、ドワーフ、獣人族などの医療従事者たちが忙しく働いていた。


(人間の病院とはまるで違う……)



《異種族医療の特徴》


▼ エルフの治療法——“精霊魔法と自然治癒”

 ☑︎ 回復魔法を使用し、傷の自然治癒を促す

 ☑︎ 「生命のエネルギー」を操り、体内のバランスを整える

 ☑︎ 外科手術はほとんど行わず、自然治癒力を重視


▼ ドワーフの治療法——“薬学と錬金術”

 ☑︎ 独自の薬草調合により、病気を治す

 ☑︎ 傷の治療には、再生促進の金属ミスリルなどを用いることも

 ☑︎ 彼らの治療薬は人間にも効果が高い


▼ 獣人族の治療法——“体の自然なリズムを利用”

 ☑︎ マッサージや骨格調整による治療を重視

 ☑︎ 治癒魔法は効きにくいため、肉体の回復力を高める施術が主流

 ☑︎ 人間の医療とは根本的に異なるアプローチをとる



「へぇ……どの種族も、医学の発展の仕方が違うんだ」


「その通りだ」


ゴドナーが頷く。


「我々異種族は、それぞれの身体特性に合わせた医療を発展させてきた。

君たち人間の“医療”とは、また違う視点がある」


オリカは真剣に頷きながらメモを取った。


(この知識、ロストンの診療所にも活かせるかもしれない……!)



「さて……君が本当に興味を持つのは、これからだろう。アルヴェルが聞いているとは思うが…」


ゴドナーは、静かに奥の部屋へと案内した。


「ここに、ヴァルキアから流れてきた“異形の患者” がいる」


オリカの表情が引き締まる。


「……“魔獣の細胞を埋め込まれた患者” ですよね」


ゴドナーは無言で頷き、扉を開いた。


そこにいたのは——


異形へと変わり果てた、人間たちだった。



「……っ!」


オリカは、思わず息を呑んだ。


ベッドの上に横たわるのは、かつて人間だったであろう者たち。


しかし、彼らの身体はすでに変異していた。



■ 魔獣化の兆候

 ・肌が鱗や甲殻に覆われている

 ・牙が生え、爪が異常に発達している

 ・瞳が赤く光り、理性が薄れているように見える



「……これが、“魔獣の細胞を埋め込まれた者” たちだよ」


ゴドナーの声が重く響く。


「彼らは黒死病を克服するために“人体改造” を受けた。

しかし、結果として“人間” ではなくなりつつある」


オリカは、拳を握った。


(これは……本当に“治療” なの?)


(ただの人体実験じゃないの……?)


「彼らは……意識があるんですか?」


「まだ、かろうじてな。

だが、理性が崩れるのも時間の問題だろう」


オリカは、一歩前に踏み出した。


「……彼らを診せてもらってもいいですか?詳しく調べたい」


ゴドナーは驚いたように目を細めた。


「……ふむ。話には聞いていたが…。君は、本当に変わった“医者”だな」


「患者を目の前にして、見過ごせる医者なんていないでしょ?」


オリカは、決意のこもった眼差しで言った。


(これは、新たな医療の分岐点かもしれない。)


(魔獣の細胞が、人間にどんな影響を与えるのか。)


(そして、それが本当に“黒死病の治療” になり得るのか。)


「……よし。診察を始めましょう」

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