表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/309

第36話



旅を続けること数日——


馬車の窓から、巨大な城壁が見えてきた。


「……ここが、グラン=ファルム」


オリカは目を輝かせながら、目の前の景色を眺めた。



《グラン=ファルムとは?》

 ⚪︎ 異種族たちが共存する都市

 ⚪︎ 人間の貴族による支配を受けない自治都市

 ⚪︎ 交易の拠点であり、魔法技術の研究も進んでいる



ロストンとは違い、この街では人間が“主”ではない。

通りを行き交うのは エルフ、ドワーフ、獣人族、セイレーン族、トロール……

異種族たちが肩を並べ、自由に生活している姿が見えた。


「先生、すごいよ! ほんとに人間が少ない!」



大地を這うように広がる、城壁に囲まれた街。


それが、異種族たちが築いた自治都市、グラン=ファルムだった。


この街は、かつて戦乱の世にあった頃、人間の支配を逃れた異種族たちが辿り着き、自らの手で築き上げた場所だ。


そのため、ここでは 貴族の支配もなく、王の命も届かない。

ただ、それぞれの種族が共存し、生きるための街——。


ロストンのような整然とした都市とは違い、グラン=ファルムの街並みはまるで生き物のように入り組み、混ざり合っていた。



「……すごいわね。」


オリカは馬車を降りた瞬間、思わず息を呑んだ。



■ 街の構造と風景

 ・石畳の道が入り組み、街の中心へと続いている

 ・建物の形は統一されておらず、種族ごとに異なる様式が混在

 ・人間の建築とは違う“自然と調和した構造” が目を引く



「見て、先生!」


ルイスが指差した先に、巨大な樹が建物と絡み合うように立っていた。


「……あれは?」


「精霊の住む樹です」


エリーゼが静かに答える。


「グラン=ファルムは、ただの都市ではなく、“異種族の聖域” のひとつなのです。

この街は、精霊や古代種族たちの魔力によって守られている。」




----------------------------------------------------------------


《グラン=ファルムの特徴》


 ◆ 中心には“生命の樹”と呼ばれる巨大な樹がそびえ立つ

 ◆ エルフやドライアドたちは樹上に住居を構えている

 ◆ ドワーフたちは地下に広がる石造りの街で暮らしている

 ◆ 獣人族の住む区画は、木造の高床式の家々が立ち並んでいる

 ◆ 水路が街全体に張り巡らされており、セイレーン族が泳いでいることも


----------------------------------------------------------------



(……なんて美しいの。)


オリカは目を輝かせた。


人間の街とは異なり、この街では自然と文明が融合している。


エルフの建築は木々と調和し、ドワーフの鍛冶場からは煙が立ち昇り、獣人族の市場には、香ばしい匂いが漂う。


(これが、異種族たちの文化……。)


それぞれが違う種族でありながら、まるでひとつの生態系のように絡み合い、独自の“調和” を生み出している。



「いらっしゃい! 焼きたてのパンはいかが?」


市場には、様々な種族が行き交い、賑わいを見せていた。




----------------------------------------------------------------


《異種族の市場風景》


 ・エルフが作る“魔力の宿るハーブ” の店

 ・ドワーフの金属加工品や鍛冶道具が並ぶ露店

 ・獣人族の狩猟肉や珍しい食材を売る店

 ・セイレーン族が養殖した魚介類を扱う鮮魚市場


----------------------------------------------------------------




「先生、あれ見て!」


ルイスが指差す先では、獣人族の少女が、魔法の炎で肉を炙っていた。


「わあ……いい匂い!」


「これは“グリルド・マンティコア” だよ!」


少女はふわふわの尻尾を揺らしながら、炙った肉をオリカたちに差し出した。


「マンティコア……って、魔獣じゃない!?」


「この辺りでは普通の食材だよ!」


(まさか魔獣を食べる文化があるなんて……!)


異種族の街には、人間の常識とは違う“価値観” が根付いていた。



日が沈み始めると、街はまた違った顔を見せる。


エルフたちは月光の魔力を灯し、街の樹々を柔らかく照らす。

空には、セイレーン族の歌声が響き、風に溶けていく。

ドワーフたちは夜も工房で鍛冶を続け、市場ではランタンの明かりが揺れていた。



■ 夜のグラン=ファルムの魅力

 ・エルフの“光の精霊” が街を灯す幻想的な風景

 ・夜市では獣人族の賑やかな音楽と踊りが見られる

 ・セイレーンの歌が街に響き渡り、人々を眠りへ誘う



街に入り、オリカたちは 異種族専門の医療研究施設を訪れることにした。


そこには、人間とは異なる技術を駆使するエルフの治療師、ドワーフの薬学者、獣人族のヒーラーたちがいた。


「すみません! ここの医療について、ぜひ話を聞かせてほしいのですが!」


オリカが受付で声をかけると——


「おや? 旅の医者かい?」


白衣をまとった エルフの老賢者 がゆっくりと歩み寄ってきた。


「私はこの医療研究施設の責任者、アルヴェル・ウィスラーという者だ。

異国の医者がここに来るとは珍しいな」


「私はオリカ。ロストンで診療所を開いてる医者です」


「ほう……ロストンで“医療” を?」


アルヴェルは興味深げにオリカを見つめた。


「では、まず君に問おう。“人間の医療” と“異種族の医療” の違いは分かるかね?」


「え?」


「ふむ……どうやら、まだ分かっていないようだな」


オリカは、少しムッとした。


「言っておくけど、私はこの世界の医療を学びに来たの。

何が違うのか、ぜひ教えてちょうだい」


アルヴェルはゆっくりと頷き、奥の部屋へとオリカたちを招いた。



「さて、まず基本から説明しよう。」


アルヴェルは、分厚い医学書を手に取りながら語り始めた。




《異種族の医学的な違い》


◆ エルフの身体特性

 ⚪︎ 回復力が高いが、治癒が遅い(時間と自然治癒を重視する)

 ⚪︎ 外科治療を嫌う文化がある(“体に傷をつける” ことを忌避)

 ⚪︎ 黒死病にも感染するが、発症が極端に遅い


◆ ドワーフの身体特性

 ⚪︎ 骨密度が高く、骨折しにくい

 ⚪︎ 毒物やアルコールに耐性があるが、胃腸が弱い個体もいる

 ⚪︎ 薬学が発達しており、独自の治療法を持っている


◆ 獣人族の身体特性

 ⚪︎ 代謝が速く、治癒魔法の効きが悪い(体質によっては、魔法が無効化される)

 ⚪︎ 動物的な生理現象があるため、季節による体調変化が激しい

 ⚪︎ 麻酔が効きにくい個体が多く、外科手術が困難




「ふむ、なるほど……」


オリカは真剣にメモを取りながら、改めて “異種族ごとの医学の違い” を痛感した。


(つまり、人間の医療がそのまま異種族に使えるわけじゃないってことか)


「異種族医療を学ぶには、まず“それぞれの体の構造” を知ることが大切だ」


「ええ、とても参考になったわ」


オリカは真剣な表情で頷いた。


(この知識を活かせば、診療所の治療の幅も広がる……!)


しかし——


その時、アルヴェルがふと、深刻そうな表情 になった。



「……ひとつ、君に気をつけてもらいたいことがある」


アルヴェルは、静かに言った。


「ここ最近、奇妙な症状を持つ患者が増えていてね…」


「奇妙な症状…?」


「君は、ヴァルキア帝国の“魔獣の細胞を使った研究” の噂を知っているか?」


「……ええ」


「それが、どうやらこの街にも影響を及ぼしているらしい。」


オリカの背筋がぞくりとした。


「まさか、グラン=ファルムでも……?」


「最近と言ってもここ数年の間だが、この街で”異形の患者” が現れ始めている。

彼らの身体には“魔獣の特徴” が見られた」


「……!!」


「……その患者たちは、どこに?」


「一部は“魔術師ギルド” に保護されている。

しかし、治療法がなく、どうするべきか決まっていない状態だ」


「魔術ギルドって、診療所とかじゃなくて??」


「この街で診療所を運営しているのは、主に“魔術師ギルド”となっている。まあ、一概には言えないが、ロストンで言う修道院のようなものだ」


「…ああ、なるほど」


オリカは拳を握った。


(黒死病を治すために、人間を魔獣化させる……?)


(それが“治療” なの? それとも、ただの人体実験?)


「……なら、私が診てみる」


オリカは決意を込めて言った。


「……ふむ、構わんが。ほとんど手の施しようがなくてな」


「それでも、診させてもらえませんか?」


「そうか…」


アルヴェルは、薄く笑った。


「では、明日、魔術師ギルドへ案内しよう」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ