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第35話




馬車が静かに揺れる中、オリカはエリーゼにふと尋ねた。


「ねぇ、エリー。魔獣って“黒死病” にかかるの?」


エリーゼは少し考えたあと、ゆっくりと首を横に振った。


「いいえ。魔獣は黒死病には感染しません」


「……あっさり言い切るんだね」


「黒死病は“人間やエルフなどの知的生命体” に発症する病です。しかし、魔獣には“魔力が循環する独自の生態” があり、通常の病原体が定着しにくいのです」


「ほう……?」



■ 魔獣が黒死病にかからない理由

 ・魔獣の体は魔力によって維持されており、細胞の構造が異なる

 ・通常の病原体は、魔獣の魔力環境では生存できない

 ・一部の高位魔獣ヴァンパイアなどは、黒死病を逆に利用することがある



「ただし——」


エリーゼは、少し表情を引き締めた。


「魔獣が黒死病に“かからない” からといって、“媒介しない” わけではありません」


「……どういうこと?」


「魔獣の体には、黒死病の病原体が付着する可能性があります。

つまり、魔獣と接触した人間が感染するケースがあり得るのです」


「なるほど……」


オリカは腕を組みながら考え込んだ。


(つまり、魔獣は黒死病に対して“無敵” だけど、病原体を運ぶ媒体になる可能性があるってことか。)


「オリカ様、もしかして……魔獣の細胞を研究すれば、黒死病を治せるかもしれないって考えてます?」


ルイスが、慎重な声で尋ねた。


「……いや、そんな単純な話じゃないと思う」


(だけど、何かが引っかかる。)


(魔獣の免疫機構と黒死病の関係……これはもう少し調べる価値がありそう。)



「そういえば、エリー。エルフも黒死病にかかるって言ったけど、人間と同じような症状になるの?」


オリカが尋ねると、エリーゼは静かに頷いた。


「ええ。ただし——人間よりも進行は遅い」


「……そうなんだ」



▼ エルフが黒死病にかかるとどうなる?

 ☑︎ 発症するが、進行は極めて緩やか(100年以上かけて悪化するケースも)

 ☑︎ エルフは自己治癒力が高いため、一部は回復することもある

 ☑︎ しかし、治癒魔法では完全に治せない



「エルフの長寿ゆえに、黒死病は“死に至る病” ではなく、“治せない不治の病” として認識されています」


「なるほどね……」


オリカは小さくため息をついた。


(エルフにも黒死病が広がっているのなら、グラン=ファルムでの研究が重要になるよね。)



オリカは、これまでの話を整理しながら、ふと以前から気になっていた噂を思い出した。


「ねぇ、エリー」


「なんでしょう?」


「……最近、“ヴァルキア” で、黒死病を克服するために魔獣の細胞を埋め込む研究がされているって噂を聞いたことがあるんだけど」


「!!」


エリーゼの表情が僅かに強張った。


「……その話、どこで聞いたのですか?」


「ロストンの市場で。貴族の話の中に混じってたんだ」


エリーゼはしばらく沈黙した後、慎重に言葉を選びながら語り始めた。


「……ヴァルキア帝国では、近年“人体強化” の研究が進められています。

その中には、“魔獣の細胞を移植することで、黒死病への耐性を作る” という研究もあると噂されています」


「まさか、本当にやってるの……?」


「確証はありません。 しかし、ヴァルキアはかつて“人体改造” の実験を行っていた国です」



■ ヴァルキア帝国の“禁忌の研究”

 ・魔獣の細胞を人間に移植し、強靭な体を作る試み

 ・失敗すると異形の怪物になる危険がある

 ・黒死病の特効薬開発のため、人体実験を行っているとの噂も



「……つまり、ヴァルキアでは、黒死病の治療法を探るために“危険な実験” をしている可能性があるってこと?」


「ええ。ですが、実際にその研究が成功しているのか、それともただの噂なのかは不明です」


オリカは、馬車の中で膝を抱えながら考え込んだ。


(黒死病の特効薬を作るために、魔獣の細胞を利用する研究……)


(でも、それって本当に“治療” になるの?)


(もし失敗すれば、人間の形をした魔獣が生まれるかもしれない……)


「……ヤバい研究だね」


「ええ。ヴァルキアが何を考えているのか、正確には分かりません」


「……でも、調べる価値はありそう」


オリカの胸の中で、新たな疑問と興味が膨らんでいった。


黒死病の謎を解くために——。

「魔獣」とその生態系についてを調べることは、さらに深い世界へと繋がっているかもしれない。

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