第33話
ロストンを出発し、異種族の都市グラン=ファルムへと向かう旅が始まった。
馬車に揺られながら、オリカは窓の外の景色を眺める。
ロストン周辺の平原を抜け、森や小さな村を越え、少しずつ異種族が多く暮らす地域へと進んでいた。
「ふぅ、旅って案外疲れるんだねー……」
オリカは馬車のクッションに身を預けながら、長旅に伴う疲れを少しずつ感じ始めていた。
「先生、大丈夫?」
ルイスが隣で心配そうに覗き込む。
「大丈夫大丈夫。でも、思ってたよりも道がデコボコしてるっていうか…」
「ロストンの周辺は整備されていましたが、ここから先は魔獣が棲みつく領域が増えますからね」
そう言ったのは、馬車の前方に座っていたエリーゼだった。
彼女は旅の間、オリカたちの護衛と案内役を兼ねている。
「魔獣?」
オリカは、少し身を起こした。
「この世界には、人間やエルフ、獣人族などと異なり、
“知性を持たない生物” である魔獣 という存在がいます」
「へぇ、つまり……野生の動物とは違うの?」
「ええ。魔獣は“世界樹の魔力” から生まれた存在であり、一部の種族を除いて、理性を持たずに本能のまま動いています」
「ほうほう……」
オリカは興味深げにエリーゼの話を聞いた。
「魔獣は主に “魔力の濃い場所” に生息しています。
たとえば、次のような地域には魔獣が多く生息していますね。」
《魔獣が多く住む場所》
⚪︎ 深淵の森 → 魔力が濃く、精霊や異形の魔獣が潜む
⚪︎ 死霊の谷 → アンデッド系の魔獣が多い
⚪︎ 灼熱の洞窟 → 火炎系の魔獣が棲む溶岩地帯
⚪︎ 天空の遺跡 → 飛行する魔獣が生息
「これらの場所は、いずれも“世界樹の魔力” が漏れ出している地域とされています」
「世界樹……?」
「オリカ様もご存じの通り、世界樹 は、この世界の中心に存在し、生命の源とされているものです。
その魔力が地上へと流れ出ることで、新たな生命が生まれたり、逆に異形の魔獣が誕生することもあるのです」
「ふぅん……つまり、世界樹の影響で魔獣が生まれるってこと?」
「ええ。とくに”負の魔力” を吸収した生物は、通常の動物とは異なる形へと変質するのです」
「じゃあ、魔獣にはどんな種類がいるの?」
オリカが尋ねると、エリーゼは静かに微笑み、語り始めた。
「魔獣は大きく分けて、“低位種”、“中位種”、“高位種” の三つに分類されます」
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《魔獣の分類》
▼ 低位種
☆ スライム → 粘液状の体を持ち、魔力を吸収する生態
☆ ゴブリン → 小型で群れをなして行動する獰猛な種族
☆ オーク → 半獣半人の戦闘民族で、知能は低め
▼ 中位種
☆ オーガ → 巨大な体と怪力を持ち、棍棒などを扱う
☆ ドライアド → 世界樹の魔力を受けた精霊種、森の守護者
☆ デーモン → 強い魔力を持ち、人間と契約を結ぶこともある
▼ 高位種(ヴァンパイア・聖霊・ハーフリングなど)
☆ ヴァンパイア → 高度な知能と魔力を持ち、不死の存在
☆ 聖霊 → 生命の魔力を司る存在
☆ ハーフリング → 魔獣と人間の血を引く希少種、特殊能力を持つ
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「なるほどね……つまり、魔獣にも強さや性質に大きな違いがあるってことか」
「ええ。そのため、魔獣と戦う場合は“相性“を考えなければなりません」
「相性?」
「たとえば、スライムは物理攻撃に強いが、炎に弱い。
逆に、オークやオーガのような肉体派の魔獣は、魔法の影響を受けやすいですね」
「ほうほう……じゃあ、私の治癒魔法で魔獣を倒せたりする?」
「え? 先生、魔獣を治すつもりですか?」
「いやいや、ただの興味よ!」
(でも、実際に治癒魔法が魔獣にどう作用するかは気になるな……)
「まぁ、とにかく……道中、魔獣に遭遇する可能性もあるので気をつけましょう」
エリーゼがそう言った矢先——
ガサ……ガサガサ……
「……ん?」
オリカは、馬車の窓から外を覗いた。
「先生、なんかいる……!」
ルイスが、小さな声で囁く。
森の中、木々の間から光る無数の目。
「まさか……魔獣?」
その瞬間——
「ギィィィィィ!!」
鋭い悲鳴とともに、
黒い影が森の中から飛び出してきた!
「……ゴブリンね」
エリーゼが冷静に杖を抜く。
「先生、危ないですから馬車の中に!」
「いや、ちょっと待って。これは実験のチャンスじゃない?」
「先生、落ち着いてください!」
「いやいや、治癒魔法が魔獣にどう作用するか興味あるのよ!!」