第30話
- 街角診療所「うさぎのおうち」が開業してから、1ヶ月後——
「先生、大変です!!!」
診療所の扉を開け放ち、見習い助手の少年が息を切らして飛び込んできた。
「なになに、朝からそんな大声で……って、何あれ?!」
オリカが窓の外を見ると——
エルフ、ドワーフ、そして獣人族が、診療所の前にずらりと並んでいた。
(うわぁ……壮観……)
背の高いエルフ、ずんぐりとしたドワーフ、
そして耳や尻尾がぴょこぴこと動く獣人たち——。
普通なら異種族が一堂に会することなど滅多にない。
それが、どういうわけかオリカの診療所に押し寄せていたのだ。
「……なに、この異種族フェスティバル?」
「先生!! なんか皆さん、すっごい困ってるみたいで!」
「まぁ、それはいいんだけど……人間以外の治療って、私やったことないよ!!?」
オリカは、頭を抱えた。
異種族たちが、ぞろぞろと診療所に押し寄せる中、オリカは 彼らがどんな治療を求めているのかを整理することにした。
■ エルフ族(Elf)——長寿ゆえの悩み
患者: 「左腕を骨折した」
「ほう……お前が噂の外科師か……」
「私の骨折を診てくれ。」
オリカは、エルフの腕を見て思わず絶句した。
「ちょ、ちょっと待って……あんた、これいつ折ったの?」
「ふむ……およそ五十年ほど前か。」
「五十年!? なんで今まで治さなかったのよ!!?」
「エルフは回復が遅いのだ。気にしていなかった。」
(いやいや、気にして!? なんか骨変な方向に曲がってるんですけど!?)
▼ エルフの医療事情
・回復力は高いが、治癒が極端に遅い
・ 「自然治癒こそ至高」という思想が根付いている
・ヒーリング魔法は使えるが、骨折の矯正は苦手
「まぁ、骨折くらいなら、私の技術でどうにかできるか……」
(でも、五十年経ってるんだから、これもう“手術” しないとまともに動かないんじゃない?)
■ ドワーフ族(Dwarf)——お酒と金属の問題
患者: 「胃が痛い」
「先生、なんか最近、酒を飲むと胃が燃えるように痛むんじゃ……」
「そりゃ、毎日酒と鉄粉を一緒に飲んでたら胃も荒れるでしょ!?」
「えっ? 鉄粉はカルシウムと同じで、身体に良いんじゃないのか?」
(良いわけあるかーい!!!)
▼ ドワーフの医療事情
・酒を飲みすぎる文化があり、肝臓系の疾患が多い
・食文化が独特(鉄粉を摂取する者がいる)
・外科治療に強い関心があり、手術技術には興味を示す
「……とりあえず、胃に優しい食事と、しばらくお酒禁止ね。」
「そ、そんなバカな……!!!」
(こんな簡単な指導で死にそうな顔するな!!)
■ 獣人族(Beastkin)——身体の違いが医療の壁に!?
患者: 「風邪をひいた」
「先生……最近、寒くなると体が震えるのです……」
オリカは、獣人族の患者を見て 妙な違和感 を覚えた。
「……あんた、最近、毛が少し抜けてきてる??」
「そうなのです……」
「それ、ただの 換毛期じゃない!?」
▼ 獣人族の医療事情
・四季による体毛の変化があり、それが「病気」と誤解されることも
・消化器の構造が人間とは異なり、一部の薬が効かない
・犬型の獣人は、麻酔薬が効きにくい個体が多い
(なるほどね……魔法に頼らない医療って、異種族の医学知識も必要なんだ…)
オリカは、患者たちの治療を終えた後、診療所の奥でノートに異種族医療のメモを取り始めた。
「エルフは回復が遅い……」
「ドワーフは消化器が強いが、鉄粉はやめさせるべき……」
「獣人族は換毛期を知らなかったら病気と誤解される……」
(これは……もっと体系的な医学知識を集める必要があるなー)
◇
「先生、どうだった?」
助手の少年が尋ねると、オリカはぐったりと机に突っ伏した。
「……異種族の治療って、大変だぁ……」
(治療する前に“それが病気かどうか” を調べるのがまず大変!!)
「先生、大丈夫?」
「もう……今日は疲れた……お風呂入りたい……」
「お風呂なら、用意できてますよ!」
「はぁぁぁ……生き返るぅぅぅ……」