第28話
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【アレクシス家の歴史——商業の覇者となった一族】
ロストンは、この大陸最大の貿易都市である。
西の大海へと続く交易路、南方の異国と結ばれる貿易港、
そして北の鉱山から流れ込む鉱物資源——
あらゆる物資と富が集まるこの港町において、
アレクシス家は“商業の覇者” として君臨していた。
▼ アレクシス家の成り上がりの歴史
《創設者:レオン・アレクシス》
☑︎ かつては貧しい商人の息子だったが、
☑︎ 若くして海運事業を始め、独自の貿易ルートを築く
☑︎ 西の大国との交易を成功させ、一気に富を築く
《事業拡大:エドワード・アレクシス》
☑︎ 海運業だけでなく、鉱石・繊維・香辛料の貿易にも参入
☑︎ 商人ギルドの最高議員となり、ロストンの経済を支配
☑︎ 貴族とも取引を行い、一部の貴族からの信頼を得る
《現在:ヴィクトール・アレクシス》
☑︎ 「商人も貴族と対等であるべきだ」 という思想を持ち、貴族社会と距離を置く
☑︎ ギルドの力を強化し、貴族の支配からの独立を目指す
☑︎ その姿勢を危険視する貴族派から目の敵にされる
《アレクシス家と貴族の関係》
☑︎ ロストンの経済の支配権 を巡り、貴族との対立が激化
☑︎ 「商人風情が貴族と対等になってはならない」 という貴族派の反発を招く
☑︎ 商人ギルドを使って貴族の権限を削ごうとする ヴィクトールに対し、貴族側が敵意を強める
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「……先生、なんか変な人がいる」
ルイスが小声で囁いた。
「え?」
オリカは、ルイスとともに市場を歩いていたが、彼の言葉に気づいて周囲を見渡す。
(……?)
特に怪しい人物はいないように見えたが——
(いや、違う。)
「監視されている」 という、微かな違和感を感じる。
市場の人混みの中、遠くの建物の陰から、明らかにこちらを見つめる視線がある。
(……誰?)
「……どうしたの、先生?」
「……ちょっと、気になることがある」
オリカは、さりげなく足を止めた。
市場の雑踏の中、密偵がゆっくりと近づいてくるのを感じる。
(……様子を見るべきか、それとも動くべきか?)
その時——
「おい! お前、あの医者のところへ行ったんだろ!」
市場の別の場所で、患者の男が怒鳴られる声が響いた。
「な、なんだよ急に……!」
「お前が通ってた“診療所” のせいで、街に病が広がったって話だ!」
「そんなはずないだろ! 先生は俺の命を助けてくれたんだぞ!」
「違う! あの女は“異端の外科師” なんだ!
魔法を使わずに人の体を切り開くなんて、邪悪な行為だ!」
——貴族派の手先が、オリカの診療所を貶めるために扇動を始めていた。
「先生、なんか騒がしくなってきたよ……」
ルイスが不安そうに袖を引く。
(……やっぱり来たか。…屋敷の人が言ってた通りだ)
オリカは、視線を感じた方向へ目を向ける。
そこには、先ほどの密偵とは別の、貴族風の服装をした男 が立っていた。
「異端の医者殿、少し話がしたい。」
男は、薄く笑いながら、オリカに近づいてきた。
(……よーし、いっちょやってやるか)
「あなた、誰?」
「我が名はエルネスト・グレゴリアン。
ロストンの秩序を守る貴族のひとりだ。」
「……それで、貴族様が私に何の用?」
「忠告だよ、先生。
お前の診療所は、近いうちに閉鎖されることになる。」
「……は?」
「ロストンでは、正式な医療行為は修道院の管轄にある。
貴族の許可なく“治療行為” を行うのは違法なのだよ。」
「……ふぅん、つまり、私を潰したいってこと?」
「言い方はご自由に。だが、我々はお前の診療所を見逃すつもりはない。」
エルネストの目が鋭く光る。
「それとも——アレクシス家と共に滅びる覚悟がおありか?」
オリカは、冷静に彼を見据えた。
(……やっぱそうなるよね)
貴族の圧力。
彼らは、本気でオリカの診療所を潰しに来たのだ。
(……貴族だかなんだか知んないけど、引き下がるわけにはいかない)
オリカは、静かに拳を握りしめた。
「——私の患者を見殺しにしろって言うの?」
「……さて、それはお前次第だよ、先生。」
エルネストは、意味ありげに微笑んだ。