第27話
「先生、ここって本当にすごいね!」
ルイスは、目を輝かせながら港町の通りを歩いていた。
商人たちの掛け声が飛び交い、船乗りたちが積み荷を運ぶ中、彼はまるで夢の世界に来たかのように、何もかもを興味深そうに見つめていた。
「ルイス、そんなにキョロキョロしてると転ぶよ??」
オリカは、そんなルイスの後を歩きながら、周囲の人々の会話に意識を向けていた。
「……それにしても、噂が広まるのが早い…」
港町でも、オリカの名前はすでに知れ渡りつつあった。
「聞いたか? ロストンに、外科手術で人を救う医者がいるらしいぞ。」
「外科手術って……肉を切るようなやつか?」
「いや、それが魔法と併用しているらしい。
普通なら手を出せないような病気でも、体を開いて治すことができるって噂だ。」
「なんだそれ、まるで神の領域じゃないか……」
港町に集うのは、船乗り、商人、労働者、異種族たち——
そして、当然ながら 様々な病に苦しむ者たちもいる。
彼らは 「外科手術」 という未知の医療技術に驚きながらも、それが本当に効果のあるものならば、ぜひ治療を受けたいと考えていたのだった。
「先生、なんかすごく目立ってるみたいだね」
ルイスが、周囲を見渡しながら言う。
「まあね……でも、これは良いことばかりじゃない」
オリカは、ため息をつきながら呟いた。
(魔法に頼らない医療は、この世界では“異端” と見なされる可能性がある。)
(修道院の医師たちが、私を放っておくとは思えない……)
彼女の予感は、すぐに現実のものとなる。
◇
「……お前が、噂の“異端の外科師”か?」
突然、通りの向こうから、僧侶服をまとった男 が、険しい表情で近づいてきた。
「……異端?」
オリカは、男の言葉に眉をひそめる。
「お前がロストンで、魔法に頼らず治療を行うという“外科師” か?」
男は、明らかに敵意を含んだ口調でオリカを見据えていた。
「……ええ、確かに私は“魔法を使わない医療” もやってるけど」
「そんなものが、この世界で許されるとでも思うのか?」
男の声が低く響く。
(……やっぱり)
オリカは、彼の服装を見てすぐに察した。
彼は 「修道院の医師」 だった。
■ 修道院の医師とは?
・宗教機関に属し、魔法を用いた治療を行う
・人々の病を癒すが、魔法で治せる範囲に限定される
・「魔法こそが神の恩恵」とされ、外科手術は異端視されがち
「お前のやっていることは、神の摂理に反する行為だ」
「……ふぅ」
オリカは、心の中でため息をついた。
(やっぱり、この世界では“体を切る医療” は認められていない)
「で、あなた、私に何か用??」
オリカは、腕を組んで男を見た。
「……お前に忠告しておく。
“外科手術” などという野蛮な行為は、ロストンでは認められん。
修道院の医師団が、正式に“異端” として排除することも考えている。」
「——異端?」
オリカは、思わず苦笑した。
「つまり、あなたたちは魔法で治せない患者は見殺しにしろって言いたいの?」
「っ……!」
修道院の医師は、口を閉ざす。
「私が助けた患者たちは、魔法では治せなかった人たちよ。
それを放っておくのが、あなたたちの“慈悲” なの?」
「……」
修道院の医師は、何も言えなかった。
(私は、絶対に引かない。)
(どんなに批判されても、間違ったことをしているつもりもないし。)
オリカは、堂々と医師を見据えた。
「私は、私のやり方で治療を続ける。
それがどれだけ“異端” だと言われても、私を頼ってくる人がいる限り、私はやめない。」
「……」
修道院の医師は、一度オリカを睨みつけたが——
そのまま無言で立ち去っていった。
「……ふぅ」
オリカは、ようやく肩の力を抜いた。
「先生、なんかすごくかっこよかったよ!」
「……ありがと、ルイス」
(だけど、これはただの始まりだと思う…)
修道院は、間違いなくオリカを“異端” として警戒し始める。
これから彼女の医療活動は、もっと大きな“壁”に直面することになるだろう。
でも——
(私は、絶対に負けない。)