第24話
「……ねぇ、ヴィクトール。」
夕食の席で、スープを飲みながらオリカはふと問いかけた。
「なんだ?」
「この世界には……人間以外の種族がいるよね?」
「……ふむ、それがどうかしたか」
ヴィクトールは、ゆっくりとワインを口に含んだ。
オリカは思い出す。
ロストンの市場を歩いたとき、明らかに人間とは違う特徴を持つ者たちを何度も見かけた。
長い耳を持つ者、角の生えた者、鱗に覆われた者……。
彼らは人間に混じって普通に商売をしていたが、
オリカは今まで「転生直後の混乱」で、それを深く考えていなかった。
「ここは……“人間だけの世界” じゃない…ってことだよね?」
「もちろんだ。
この世界には、様々な種族が存在する。
それぞれの文化があり、独自の歴史を持っている」
「じゃあ……この世界には、どんな種族がいるの?」
オリカが興味を示すと、ヴィクトールは静かに笑い、語り始めた。
「そうだな……まずは、人間が共存している主要な種族から話そうか。」
この世界には、魔法の影響を受けた多様な種族が生きている。
人間と共存する者もいれば、隔絶した文明を築く者もいる。
☑︎ 主要な種族(人間と関わりが深い種族)
☑︎ 中立的な種族(特定の国や地域に住む独立種族)
☑︎ 敵対的な種族(人間社会と対立している種族)
▼ 主要な種族(人間と共存する種族)
これらの種族は、人間と同じ都市に住んでいたり、交易や文化交流を行う関係を築いている。
1. エルフ族(Elf)
・特徴:長い耳、優雅な容姿、長寿(数百年生きる)
・魔法適性:非常に高い(特に自然・精霊魔法に長ける)
・文化:森の中に都市を築くが、一部は人間社会に溶け込んでいる
・関係:人間と友好的。貴族や学者階級として尊敬されることが多い
【ヴィクトールの説明】
「エルフは、人間よりもはるかに長生きする種族だ。
彼らは優れた魔法使いであり、貴族や学者の間では“賢者”として扱われることが多い。」
2. ドワーフ族(Dwarf)
・特徴:小柄で頑丈な体格、長い髭、力強い腕
・魔法適性:低いが、魔法具や錬金術に秀でる
・文化:地下都市や鉱山都市を築く。鍛冶や建築に特化
・関係:人間とは交易関係にある。武器・防具職人として重宝される
【ヴィクトールの説明】
「ドワーフは鍛冶師や職人として知られる種族だ。
彼らの作る武器や防具は、一級品とされている。」
3. 獣人族(Beastkin)
・特徴:獣の耳や尻尾、爪、優れた身体能力
・魔法適性:個体差がある(精霊魔法や身体強化が得意)
・文化:部族社会が多いが、人間都市に住む者も増えている
・関係:かつては奴隷扱いされていたが、現在は市民権を得つつある
【ヴィクトールの説明】
「獣人族は、かつて“下等種”として扱われていたが、
近年は都市で商人や傭兵として働く者も増えてきた。」
▼ 中立的な種族(独立した種族)
これらの種族は、人間とは一線を画した文化を持ち、独自の国や領域を形成している。
4. ダークエルフ族(Dark Elf)
・特徴:青黒い肌、鋭い目つき、長命(エルフと同等)
・魔法適性:強い(闇魔法・呪術が得意)
・文化:人間社会とは距離を置き、独自の王国を築いている
・関係:過去に戦争があり、人間とは微妙な関係
【ヴィクトールの説明】
「ダークエルフは、かつて人間と戦争をしたことがある。
彼らは独自の国家を持ち、人間社会とは一定の距離を取っている。」
5. セイレーン族(Siren)
・特徴:美しい声を持つ、海洋生物の特徴を持つ(鰭や鱗など)
・魔法適性:高い(音波魔法や水魔法に特化)
・文化:海の中に都市を築くが、一部は人間と交易を行う
・関係:交易は行うが、人間を警戒している
【ヴィクトールの説明】
「セイレーンは、歌の力で魔法を操る種族だ。
彼らの歌声には、魔法的な魅了効果がある。」
▼ 敵対的な種族(人間と対立する者たち)
6. 竜人族(Dragonkin)
・特徴:龍の角、鱗、長い寿命(1000年以上)
・魔法適性:極めて高い(古代魔法の使い手)
・文化:山岳地帯に住み、独立した国家を築く
・関係:かつて人間と戦争をしたが、現在は不干渉
【ヴィクトールの説明】
「竜人族は、古の時代から生きる強力な種族だ。
彼らは人間を見下す傾向があるが、積極的に戦争を仕掛けるわけではない。」
オリカは、様々な種族の話を聞きながら、この世界が思ったよりもずっと広く、複雑なもの であることを実感した。
「……この世界、奥が深いんだね」
「そうだな。お前が“医者”としてやっていくなら、これらの種族とも関わることになるだろう」
「……面白くなってきた!」
オリカは、未知の世界に対する興奮を感じながら、新たな可能性に胸を膨らませる。
いずれ人間以外の“患者”も現れるんだろうか?
そんなことをふと、思いながら。
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《オリカの診療所『うさぎのおうち』》——ロストンの丘に佇む街角診療所
【立地と周辺環境】
ロストンの市街地から少し離れた、「ロストンの丘」と呼ばれる小高い丘の中腹に位置する。
この丘は、かつて交易船の見張り台が置かれていた歴史があり、今でも市街を一望できる美しい景観を誇る。丘のふもとには貴族街が広がり、坂道を少し登った先には庶民街や市場がある。さらに上には、アレクシス家の屋敷が建っているが、診療所は屋敷の一部ではなく、独立した建物として機能している。
丘の上からはロストン港の青い海が遠くに見え、商業区や市場の活気ある雰囲気が感じられる。風がよく通るため、街の喧騒から少し離れた静かな環境が保たれており、患者が落ち着いて治療を受けられる場所となっている。
また、診療所へと続く坂道は「学者坂」と呼ばれ、昔から学者や聖職者たちが通った道として知られている。この坂を登れば、誰でも気軽に訪れることができるが、荷馬車が通れるほどの道幅もあり、搬送が必要な患者にも対応できるようになっている。
【建築様式と外観】
診療所の建物は、ロストンの伝統建築である「ホワイトウッド様式」を採用している。
歴史ある建築様式で、白漆喰の壁と黒い木材の梁が特徴的なデザイン。
建材には、近隣の「エリオスの森」から切り出された良質な木材が使われている。
【外観の特徴】
・木骨造りの白い壁に、黒い梁が格子状に組まれた、温かみのあるデザイン。
・屋根は赤茶色のテラコッタ瓦で覆われ、雨風に強い構造。
・診療所の看板は、可愛らしいウサギのシルエットと共に「街角診療所 うさぎのおうち」と刻まれている。
・診療所の入口には大きなアーチ型の窓があり、日差しがたっぷり差し込む。
・屋根裏部屋には小さな時計塔があり、診療時間を知らせる鐘がついている。(アレクシス家の支援で作られた)
建物の前には、小さな庭があり、薬草や花が植えられている。
特に、ラント帝国伝統の「ヒールハーブ」や「ホワイトラベンダー」が育てられており、診療所のシンボルにもなっている。
【診療所の内部構造】
診療所は二階建ての建物で、内部は実用性と温かみを兼ね備えたデザインになっている。
《一階:診察・治療エリア》
・受付カウンター:患者が来院すると、まずここで診察の受付を行う。
・待合スペース:木製の長椅子が並び、壁には医療に関する書籍や公告が貼られている。
・診察室:メインの診察室。ベッドと診察机、医療器具の棚が備えられている。
・調剤室:薬を調合するための部屋。薬草や魔導薬のストックがずらりと並ぶ。
・手術室(小規模):外科的な処置が必要な場合に使用される。
・倉庫:医療用品や薬草、保存食などが保管されている。
《二階:オリカの私室&スタッフ用スペース》
・オリカの部屋:診療所に住み込みで生活しているため、ベッドと本棚、小さな机が置かれている。
・簡易宿泊室:遠方から来た患者や、緊急対応のための宿泊施設。
・書庫:医療書や魔導学に関する文献が保管されている。
天井は高く、木の梁が見える構造になっており、開放感のある作り。
診療所の全体に、薬草の香りが漂っており、訪れる人に安心感を与える。
【診療所の特徴・役割】
・「誰でも受け入れる診療所」を理念としており、貴族・庶民を問わず治療を行う。
・一般的な内科・外科診療のほか、魔導治療や魔法薬の調合にも対応。
・貧しい人には、「施療(無料診察)」を行うこともある。(そのため帝国の医療機関からは異端視されている)
・帝国の正統医療とは異なる、独自の治療技術(異国医学や錬金術的アプローチ)を取り入れている。
・夜間診療にも対応しており、緊急時には夜でも患者を受け入れる。
オリカの医療技術と、その人柄が評判を呼び、貴族だけでなく一般市民にも広く親しまれている。
しかし、その自由な治療方針は、一部の帝国医療審問会から問題視されつつある。
【周辺環境】
診療所の近くには、いくつかの店や施設が存在する。
・《ルーヴェン薬草市場》:診療所の坂の下にある市場。新鮮な薬草や香辛料が手に入る。
・《フレールパン工房》:診療所の向かいにある、小さなパン屋。朝早くから焼きたてのパンの香りが漂う。
・《シュナイダー工房》:診療所から少し離れた場所にある、金属加工を専門とする工房。医療器具の修理なども請け負っている。
・《帝国医療局・ルーヴェン支部》(やや遠い):「正式な医療機関」として帝国医療の基準を定める組織。オリカの診療所とは意見が対立しがち。
また、診療所から少し歩いた先には、「見晴らしの丘」と呼ばれる小さな公園があり、街と海を見渡せる絶景スポットとなっている。
【診療所の象徴的な存在】
オリカの診療所「うさぎのおうち」は、ロストンの中でも特別な場所として知られている。
・病を癒し、貧しい人にも手を差し伸べる「街の灯」
・医療の常識に囚われず、自由な発想で治療を行う異端の医師
・帝国医療とは異なる「独自の医学」を実践する存在
貴族街と庶民街の間に位置するこの診療所は、まさに「二つの世界の架け橋」となりつつある。
そのことが、後に「帝国医療局」との衝突を引き起こすことになるかもしれない——。
しかし今はただ、この坂道を上り、訪れる人々を迎える。
それが、「うさぎのおうち」の在り方なのだから。




