表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/309

第23話



----------------------------------------------------------------



■ この世界の医療レベル



オリカが転生した世界の医療水準は、15〜16世紀のルネサンス医学 に相当する。

しかし、この世界には 「魔法」 という要素が存在するため、

現実の歴史とは異なる発展を遂げている。



【医療の全体的な特徴】


▼ルネサンス期レベルの解剖学・薬学・治療法

 ☑︎ 解剖学は発展途上 —— まだ人体の構造が正確には理解されていない

 ☑︎ 薬学はハーブ療法中心 —— 科学的な調合技術は未熟

 ☑︎ 感染症の概念が不完全 —— 衛生管理の重要性が十分に認識されていない


▼魔法による「治療」の影響

 ☑︎ 魔法の存在が、外科医療の発展を妨げている

 ☑︎ 「治癒魔法」があるため、医療技術の進歩が停滞

 ☑︎ 「魔法が効かない病気」が増えつつあるが、対策がない


▼医者の地位と社会的認識

 ☑︎ 医者は貴族や高位聖職者のもの —— 一般庶民には診療の機会がほぼない

 ☑︎ 医者よりも「ヒーラー(治癒魔法使い)」のほうが信頼されている

 ☑︎ 外科医は「手荒な処置をする野蛮な職業」と見られている



【なぜ医療が発展していないのか?】


① 魔法による「万能感」

この世界では、「治癒魔法」が一般的に普及しているため、外科手術や細菌学的な治療が軽視されてきた。

魔法で傷を閉じることはできるため、わざわざ手術で切開して治療するという発想が浸透しなかった。


② 魔法が効かない病気の増加

一方で、「黒死病」などの感染症には治癒魔法が効かないケースがある。

また、内臓疾患やがんのような病気は、魔法では治せずただ回復を促すだけ にとどまる。

しかし、医療技術が進んでいないため、こうした病気に対する治療法が確立されていない。


③ 解剖学・衛生学の遅れ

解剖学は16世紀ルネサンス期と同程度の発展段階にあり、人体構造の理解は進んでいるが、まだ多くの誤解がある。

また、細菌学の概念は存在せず、手術前の消毒や器具の滅菌の意識が低いため、手術後の感染症による死亡率が非常に高い。


④ 「外科医」は低く見られている

この世界では、「外科医」は肉体労働者と同じ扱いを受ける。

貴族や聖職者は「魔法を使える治療師」を信頼するが、

「体を切り開く外科医」は、低級な職業と見なされがちである。




----------------------------------------------------------------




- 夕暮れの屋敷にて



手術を終えたオリカは、屋敷のダイニングでヴィクトールと向かい合っていた。

長い一日を終えた疲労が身体に重くのしかかるが、それ以上に 「手術が終わった」 という達成感が胸に満ちていた。


「ふぅ……この世界の手術、大変すぎる……」


オリカは、大きく息を吐きながら、目の前に出された温かいスープ にスプーンをつけた。


「しかし、お前のやり方は……なんというか…異質だな」


向かいに座るヴィクトールが、ワインを片手に言う。


「異質って……?」


「この国では、“医者” といえば貴族や聖職者のものだ。

だが、お前のやっているのは、まるで……“職人”のような仕事だな」


オリカは、一瞬きょとんとした。


「職人……?」


「この国で、体を切り開く仕事は、“医者” ではなく “外科師” のものだ。

外科師とはいっても、どちらかといえば肉屋や床屋と同じような職業 とされているがな」


「……ちょっと待って、それってどういうこと?」


オリカは、思わずスプーンを置いた。



■ この世界における「医者」と「外科師」の違い

 ・ 「医者」 = 貴族や聖職者の学問としての医療

 ・ 「外科師」 = 肉体を扱う技術職(低級な職業と見なされる)

 ・ 「ヒーラー」 = 魔法を使う治療師。一般的な治療はこれが中心



「この世界で医者といえば、“学者” だ。

貴族の屋敷や聖堂に所属し、高度な知識を持っているが、実際に患者を治すことは少ない」


「それに対して、“外科師” というのは、戦場や路地裏で働く下層の職業だ。

兵士の傷を縫ったり、壊死した手足を切断したり……そういうことをする者たちだな」


「そんな……!」


オリカは、信じられない気持ちだった。


(だって、それじゃ……手術を専門に学んでる人が、まともにいないってことじゃない!?)


「お前の手術は、まるで“外科師”のようなものだった。

だが、その手際の良さ……俺は、あまり見たことがないな」


ヴィクトールは、珍しく感心したような声を出した。


「……なんだか複雑だなぁ」


オリカは、スプーンをかき混ぜながらため息をついた。



「……でも、それなら、もっと医療を発展させるべきじゃない?」


オリカは、真剣な表情でヴィクトールを見た。


「……それは簡単なことではない」


ヴィクトールは、静かにワインを口に含む。


「なぜなら、魔法という存在が、それを阻んでいるからだ」


「……魔法?」


「そうだ。この国には“ヒーラー”がいる。

彼らは魔法で怪我を治し、病気を和らげる。

……だから、わざわざ手術のような“危険な処置” をする必要がないと考えられている」


「でも……魔法が効かない病気もあるでしょ?」


「その通りだ。だから、魔法が万能ではないことを証明する必要がある」


「……私が、それを証明するってこと?」


オリカは、ヴィクトールの目をじっと見つめた。


「そういうことだ。

お前が“手術”で救える命を増やせば、この世界の医療は、確実に変わるだろう。」


「……」


オリカは、ゆっくりとスープを飲んだ。


——私が、この世界の医療を変える。



(…そんなことが可能なんだろうか…?)



夜の食卓には、静かな月明かりが差し込んでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ