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第152話




《魔法兵士養成学院(MSS)》の風景



MSSは、ルーヴェンの北西区にそびえ立つ広大な学術・軍事複合施設だった。


敷地は首都の一角を丸ごと占めるほど広大で、外壁は黒曜石と白大理石を組み合わせた壮麗な造り。


王城や王立医療機関にも引けを取らない威厳を持ちつつも、各学部の施設が点在することで、都市のような活気に満ちていた。


——学院の中心には、天高くそびえる《魔導塔》がある。


この塔は学院の象徴であり、戦略学部と魔導学部の研究施設が内部に収められている。魔導塔の頂点には、巨大な魔導水晶が設置され、帝国全土に向けた防衛魔法網を維持する役割を果たしていた。


塔の周囲には、各学部ごとの専用棟が並び、広大な訓練場や戦技演習場が点在している。


——正門をくぐると、まず目に入るのが《中央広場》だ。


中央広場は学院の生徒たちが集う場所で、魔導灯が点在し、昼夜を問わず賑わっている。


石畳の広場には噴水があり、その周りを取り囲むように学生たちの集団が談笑し、魔導書を広げる者や、武器の調整をする者の姿が見られる。


「おーっ! 今日もみんな元気にゃ!」


リリーは両手を振りながら、広場を駆け抜ける。




《魔法兵士養成学院(MSS)》の日常



——朝の活気が、学院を満たしていた。


広場を走り抜けるリリーの背後で、鐘楼の鐘が朝の開始を告げるように低く響く。


MSSの一日は、夜明けと共に動き出す。


広場の片隅では、戦技学部の生徒たちが朝の訓練として素手での組手を行っていた。


木剣がぶつかる鋭い音が響き、武術師範の指導のもと、生徒たちは次々に技を繰り出している。


その向かい側では、魔導学部の生徒たちが魔法陣を描きながら、基礎呪文の詠唱練習に励んでいた。


浮遊する魔力の粒子が、朝の光を受けて微かに輝く。



戦術学部の生徒たちは、長机を囲んで地図を広げ、戦場の地形分析をしている。


彼らのやり取りは静かだが、時折、指揮官役の生徒が声を張り上げ、戦略の方針をまとめていた。


リリーは、そのすべての光景を眺めながら、ぴょんぴょんと軽快に跳ねるように歩く。


「うーん、今日もみんな真面目にゃ~!」


朝日を浴びて輝く学院の建物群は、軍事機関の厳格さと学術機関の知性を併せ持つ。


高い回廊とアーチ状の通路が幾重にも連なり、それぞれの学部へと続いていた。


リリーが向かうのは、《治癒魔法学部の講義棟》 だった。




《治癒魔法学部の講義棟》



治癒魔法学部の棟は、学院の西側に位置する。


魔導学部や戦技学部の施設とは異なり、白を基調とした優雅な造りで、入り口には薬草のツタが絡まる装飾が施されている。


扉の前には《生命の紋章》が刻まれ、治癒の魔法陣が魔導石によって常時展開されていた。


扉をくぐると、柔らかな陽光が差し込む広々とした廊下が広がる。


魔導灯が並ぶ長い回廊を進むと、壁沿いには薬草学や解剖学の図解が描かれた大きなタペストリーが掛けられていた。


廊下の脇には、いくつかの《治療室》があり、演習用のベッドが並んでいる。


その奥には《薬草温室》があり、薬学の研究と栽培が行われていた。


「……うーん、今日の授業、何やるのにゃ?」


リリーは、壁に貼られた《本日の授業予定》を見上げる。


第一時限:回復術の精密制御

第二時限:実戦治癒訓練回

第三時限:魔導薬学(講義)

第四時限:傷の修復実習


「うにゃ……二時限目まではいいけど、三時限目がヤバいにゃ……」


リリーは顔をしかめる。


彼女は魔法の基礎能力はあるものの、細かい理論を学ぶのが大の苦手だった。


魔導薬の調合など、「難しいことを考えると眠くなる」リリーにとっては試練でしかない。


「えーっと……教室、教室っと!」




《治癒魔法学部・第一講義室》



教室は、半円形の講堂型になっており、前方には巨大な黒板と魔導スクリーンが設置されている。


中央には、治癒の演習用に魔法陣が刻まれた床があり、生徒たちはその周りに座るように配置されていた。


リリーが席に着くと、隣の席の生徒が苦笑しながら声をかけてきた。


「今日もギリギリじゃないか、シュバルツ」


「えへへ~、朝ごはん食べすぎちゃったのだっ!」


「まったく……」


そんなやり取りをしているうちに、教官が教室に入ってきた。


——教官は、王立医療機関出身の老練な治療師だった。


「さて、今日は《回復術の精密制御》の授業だ。基礎回復魔法ヒールの精度を高め、意図的に治癒速度を調整する技術を学ぶ」


「えぇ~、そんなの感覚でできるにゃ!」


リリーが思わず呟くと、周囲の生徒がクスクスと笑った。


「シュバルツ、お前は“感覚”ではなく、理論を学ぶべきだな」


「にゃはは……そうかも~?」


教官がため息をつきながら、実技の指示を出す。


「では、実際にやってみろ」


——生徒たちは、それぞれの対象となる《治癒訓練用の人形》に向き合い、魔法を発動する。


リリーも、両手を軽く広げながら魔力を込める。


「えーっと……たぶん、こう!」


淡い金色の光が手のひらから溢れ、人形の傷口に沿って癒やしの魔法が流れ込む。


「……うん、治ったにゃ!」


「いや、治るのが早すぎる。治癒速度を調整しろ」


「えー? そんなの意味あるにゃ?」


「……あるからやるんだ」


教官は呆れながらも、授業を続ける。




《実戦治癒訓練》



2限目の授業は、《実戦治癒訓練》だった。


ここでは、戦場を想定した回復魔法の運用を学ぶ。


——学院の南側には、《戦技訓練場》が広がっている。


巨大な円形闘技場のような構造で、中央には魔導障壁が展開され、生徒たちは模擬戦闘の中で回復魔法を使用する。


「——戦場では、一瞬の判断が生死を分ける!」


教官が厳しい口調で言い放つ。


「敵が目の前にいる状況で、冷静に治癒を施せるかどうか……それが、戦場の治療師の真価だ」


リリーたちは、実際に戦技学部の生徒たちと模擬戦を行い、負傷した者を即座に回復する実習を行う。


「にゃはは~! なんか、ゲームみたいで楽しいのだっ!」


「お前、本当に治癒魔法学部か?」


「一応、ね♪」


——そんな調子で、リリーの学院生活は続いていた。


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