第18話
「……ふぅっ!!」
私は、両手を腰に当てて診療所を見渡した。
数日かけて掃除し、家具を整え、診察室としての形がようやく整った。
壁は白い石材を磨いて明るくし、窓辺には乾燥ハーブを飾った。
棚には医療道具とポーション、薬草の瓶がきちんと並べられている。
■ 診療所の設備(現時点)
・診察用の木製ベッド(クッション付き!)
・薬草棚とガラス瓶(処方薬の管理用)
・手洗い用の水瓶(清潔さが第一!)
・患者用の椅子とテーブル(診療待ちスペース)
・小さな受付カウンター(一応、それっぽくした)
「うん、なかなか良い感じじゃない?」
私は、カウンターの上に座りながら自分の仕事場を眺めた。
ここが私の新たな戦場になるのだ。
「さて、次は——」
「次は“会社”として登録しなければならないぞ」
「……え?」
診療所の掃除を手伝っていたヴィクトールが、淡々とした声で告げた。
「君の事業は“個人営業”として登録されているが、より正式な経営体として認められるには登記申請が必要だ」
「……ええと、それってつまり?」
「役所で会社登記をする必要があるということだ」
「……」
開業したら終わりじゃないの!?と思ったが、考えてみれば当然のことかもしれない。
「個人事業と法人事業の違いだな。
法人として登録すれば、信用が上がるし、契約や資金運用も楽になる。
何より、君の“診療所”が正式な医療機関として認められる」
「……うん、じゃあやる!」
私は書類をまとめ、再びロストンの役所へ向かうことになった。
「……またここに戻ってきた」
ロストンの中央行政庁舎の前に立ち、私は少しだけ気を引き締めた。
以前、開業許可を取ったときとは違い、今度は“会社”として正式に登録するための登記手続きが必要になる。
「よし、やるしかない!」
ヴィクトールと共に役所の中へ入る。
▼ 会社登記の流れ
① 登記申請書の提出(事業内容・資本金の記載)
② 代表者の登録(オリカが代表)
③ 事業所の所在地登録(診療所の場所)
④ 納税管理番号の取得(法人税の登録)
⑤ 正式な登記証の発行
役人は、前回の担当者と同じ金縁の眼鏡をかけた痩せた男だった。
彼は、書類を確認しながら淡々と質問してくる。
「……なるほど、“うさぎのおうち” という名称で診療所を法人登録する、と」
「はい! よろしくお願いします!」
「ふむ、法人事業の目的は“医療サービスの提供”ですね」
「そうです」
「資本金の額は?」
「えっと……」
私は一瞬詰まる。
医療事業を運営するには、最低限の運転資金が必要だ。
ヴィクトールが軽く咳払いをした。
「初期資本金は、1000リーナ(銀貨100枚相当) だ」
「ふむ、問題ありませんね」
役人は書類をまとめ、最終確認をする。
「では、登記証は3日後に発行されます」
「やった……!」
これで、私は 正式な医療法人“うさぎのおうち”の代表 となった!
役所を出た後、私はヴィクトールに尋ねた。
「会社として登録できたけど……次は?」
「商人ギルドで“商社登録”をする」
「商社登録?」
「ロストンで事業を広めるには、“商人ギルド” に登録し、
市場での信用を得るのが最も手っ取り早い」
「なるほど……」
私はすでに“個人商人”として登録されているが、商社として正式に認められることで、診療所の宣伝や資金調達がしやすくなるというわけだ。
「じゃあ、ギルドへ行こう!!」
ギルドの大理石の建物の扉を押し開けると、相変わらずの 商人たちの活気ある声が飛び交っていた。
「商社登録をしたいのですが」
私は受付でそう告げると、すぐに登録担当の商人 が応対してくれた。
「では、申請書をご記入ください。
商社の名称、事業内容、取引予定の品目などを明記してください」
私は、慎重に書類を記入していった。
☑︎ 商社名:うさぎのお医者さん
☑︎ 事業内容:医療・治療サービスの提供
☑︎ 取引品目:薬草、ポーション、診察サービス
☑︎ 代表者:オリカ・フローライト
「ふむ……医療商社ですか」
担当者は、少しだけ驚いたように書類を見つめた。
「ロストンには“医療ギルド”は存在しません。
あなたの事業は珍しいですね」
「つまり……競争相手がいないってこと?」
「その通り」
「それなら、すぐに登録してください!」
「ははは、分かりました」
書類の確認が済み、正式に“商社登録”が完了!
「これで、君の診療所は正式な商社として認められた」
「やったー!!!」
私は思わずヴィクトールに飛びつく勢いでガッツポーズ した。
商人ギルドに登録したことで、ロストンの市場や取引所 で診療所の存在が広まることになった。
「こうして、“うさぎのおうち“の名前は街に広まり始めた——!」
「さて、次は実際の“患者”を迎える準備だな」
ヴィクトールの言葉に、私は深く頷く。
いよいよ、本当の意味での “開業” が始まるのだ!