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第131話




ヴォルケリオンは、上空へと再び舞い上がると、その翼を大きく広げた。


風が渦を巻き、大地に叩きつけられるような圧が生まれる。


「……何か来るぞ」


カイエが冷静に言った。


「今度は、どういう手で来る……?」


ルシアンが短剣を構えながら、ヴォルケリオンの動きを注視する。


離れていく距離。


かと思えば、こちらを覗き込むような“なだらかな”飛行軌道。



シュンッ——!!



ヴォルケリオンが突風に乗るように姿を消した。


「っ……!?」


オリカは思わず息を呑んだ。


ヴォルケリオンは、その巨体にもかかわらず、まるで風そのものになったように、視界から掻き消えたのだ。


「“姿が消えた”……?」


エリーゼが目を細める。


いや、違う。


「消えたんじゃない……風に溶け込んだんだ」


カイエが低く呟いた。


彼女は矢を番えたまま、風の流れを読んでいる。


「風に乗って、我々の視界から逃れてる。……擬態だよ。奴の“狩りの戦法”だ」


「……!」


オリカはその言葉に背筋が冷たくなるのを感じた。


「つまり——いつ、どこから襲われるかわからないってこと……?」


「いや……今から“来る”」


カイエは風の流れを感じ取り、すぐに矢を放つ。



——ヒュンッ!!



矢は何もない空間に向かって放たれた——



ズガァッ!!


空中で何かが弾けるような音がした。


「ギャアアアッ!!」


ヴォルケリオンの咆哮が響く。


オリカたちは、目の前の光景を見て驚愕した。


ヴォルケリオンは急降下する直前に、風の層を利用して気流の中に身を潜めていたのだ。


羽毛の下にあるナノ結晶の密度を調整することで、光の反射を変化させ、体の一部を空の色と同化させる。


風の流れの中に入り、まるで透明になったかのように見せかけ、奇襲を狙っていた。


「まさか……あんな方法で隠れるなんて……」


ルシアンが息を呑む。


「だが、読めた」


カイエは次の矢を番える。


「奴の狙いは、“風の壁”を利用した角度を変える攻撃だ。直線で飛んでくるわけじゃない」


その言葉が終わるより早く——


ヴォルケリオンが異様な動きを見せた。


「っ……!?」


オリカたちは思わず身構える。


ヴォルケリオンは高空で一瞬静止すると——


シュウウウゥゥゥ……ッ!!


翼を折りたたみ、まるで“風に流されるように”斜めに急降下した。


「——軌道を変えた!?」


ルシアンが驚愕する。


ヴォルケリオンは風を利用し、空気の流れの変化に沿って“S字”を描くように旋回しながら接近してくる。


「くるぞ!!」


カイエが即座に矢を放つ——



——ヒュンッ!!



だが、ヴォルケリオンはすでに風の流れを利用し、矢の軌道を計算済みだった。


——スッ……!!


風に乗りながら、僅かに体を傾け、矢を掠めるようにして回避する。


「ち……っ」


カイエが驚愕する間もなく——


ヴォルケリオンの爪がエリーゼへと襲いかかった。


「……っ!!」


エリーゼはすぐに防御魔法を発動させる。


「“魔障障壁マギア・バリア”!!」


ゴォォォォッ!!


透明な魔法障壁が形成され、ヴォルケリオンの爪がぶつかる。


——ズガァッ!!


強烈な衝撃が走り、簡易式のバリアが紙切れのように砕け散る。


「っ……!!」


その勢いのまま、エリーゼが後方へ弾き飛ばされた。


「エリーゼ!!」


オリカが駆け寄ろうとするが——


「ダメだ!今動くと——」


カイエの声が飛ぶ。


ヴォルケリオンは既に次の動きに入っていた。


再び風に溶け込み、攻撃の角度を変えようとしていた。


(……まずい、完全に“翻弄”されてる……!!)


オリカは奥歯を噛み締めた。



ヴォルケリオンは、鋭くその巨大な翼をはためかせた。


その動きは、まるで風そのもの。


「来る……!」


オリカは息を呑んだ。


ヴォルケリオンは単なる猛禽ではない。


「風」を纏い、流れを読んで獲物を狩る“狡猾な捕食者”。


ただの急降下による突撃では終わらない——


次は、“風そのもの”を武器として使ってくる。


「——風を読むつもりか」


カイエが僅かに目を細めた。


遊牧民「星のノマッド・セレスティア」の弓使いとして、彼女もまた風を読む者。


だが、目の前にいる相手はそれを超越した存在だった。


ヴォルケリオンは、風をまといながら、空中で鋭く旋回した。


ゴォォォ……!!


周囲の空気が一瞬で変化する。


大気が収束し、風が螺旋を描くように渦巻き始めた。


「……!」


オリカは直感で危険を察知し、足を踏みしめる。


「エリーゼ、詠唱を開始して!」


「わかってる!」


エリーゼが即座に杖を構え、魔力を練る。



ブォンッ



ヴォルケリオンの翼が、異様な動きを見せた。


空中で身体を左右に振りながら、複雑な風の流れを生み出す。


その動きに合わせて、渦巻いていた風が形を変えた。


——まるで、風の中に「罠」が仕掛けられたかのような感覚。


「っ……!!」


エリーゼの手が僅かに止まる。


通常、魔法の詠唱には「空間の安定」が必要だ。


だが、今のヴォルケリオンの動きは、空間そのものを不安定にするほどの風の乱流を生み出している。


詠唱が乱されれば、魔法の発動が遅れる。


「このままじゃ……!」


オリカが焦る中、ヴォルケリオンがついに新たな戦法を見せた。



——シュンッ!



まるで空と一体化したかのように、突如方向を変えた。


先ほどまで急降下の構えを取っていたにもかかわらず、空中で一気に横へと旋回する。


「なっ——!?」


ルシアンが驚愕する。


普通の飛翔生物ならあり得ない、異様な軌道変化。


それもそのはず——ヴォルケリオンは、風の流れを自在に操り、空中で加速・減速・旋回を瞬時に切り替えられるのだ。


「チィィッ……!」


カイエが即座に矢を放つが——


ヴォルケリオンはまるで見えているかのように、その瞬間にさらに鋭角に旋回し、矢をかわした。


ババッ!!


続け様に放たれた矢も、ヴォルケリオンの影をかすめる。


悉く、直撃を避けられる。



「……厄介だな」


カイエの声が低くなる。


遊牧民の狩人である彼女でさえ、この飛翔軌道を読めない。


「空を自由に動ける以上、こっちは完全に不利だ」


ルシアンが歯を食いしばる。


「なら……こっちも“風”を使うしかないわね」


オリカが決意を固める。


彼女の手に魔力が集まり始める。


「風の流れを利用するなら、逆にその流れを“制御”すればいい」


ヴォルケリオンの飛翔速度が異常なのは、風を使っているから。


ならば——その風の流れを、意図的に乱せばどうなる?


オリカは素早くルーンを描き、詠唱を開始する。


「——風圧偏向エアロ・ディストーション!」


シュゴォォォォッ!!


瞬間、オリカの足元から渦巻くような逆風が発生した。


これは、空間の風の流れを歪ませる魔法。


「これで——どうなる!?」


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