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第125話



ガルヴァ・リーパーが跳躍した瞬間——


「くる……!」


オリカの声が響いた。


暗闇の中、敵の姿が一瞬消える。


だが、これは単なる飛びかかりではない。


次の攻撃への布石だ。


「エリーゼ!」


「わかってる!」


エリーゼは瞬時に魔法の詠唱を開始した。


神聖障壁セイクリッド・バリア」——!


淡い光が弾け、瞬時に前方へ展開される。


だが——


バチィィッッ!!!


跳躍した敵の体躯が、高低差のある地面の上に着地する。


僅かな振動を帯びながら周囲へと伝播する魔力の波は、魔獣の足元から膨らむように流れ出ていた。


一つ一つの骨格は逞しく、分厚い。


“軟体動物”のような滑らかな動きを持ちながら、どっしりとしたモーションを“運ぶ”。


柔らかく、重い。


確固たる重厚感を併せ持つその“足”は、一気に間合いを詰めるだけの俊敏性と「軽さ」を伴っていた。


着地と同時に地面を蹴り、「電撃」を迸らせる。



——突進。



凄まじい電撃が障壁を貫通し、フィールド全体を覆った。


「くっ……!!」


エリーゼの結界が、霧散するように砕け散る。


(障壁ごと貫通された……!?)


オリカは即座に状況を把握する。


ガルヴァ・リーパーはただの突進ではなく、魔導器官を活性化させ「広範囲電撃」を発生させたのだ。


その影響で、空気中のマナが乱流を起こし、エリーゼの魔法が十分に発動しきれなかった。


「っ……あの魔獣、魔導器官を完全に活性化させた!」


「やっかいだな……!」


ルシアンは即座に短剣を構える。


だが、その足がわずかに揺らいだ。


——麻痺が完全には抜けていない。


(まずい……!)


ガルヴァ・リーパーは、舌をしならせながら、闇の中を円を描くように素早く動く。


まるで、戦況を見極めているようだった。


——この魔獣は、単なる暴れ獣ではない。


「狩る」ために、動きのパターンを学習する。


そして、雷のように一瞬で仕留める。


「——来るぞ!」


オリカの叫びと同時に——


シュバァッ!!!


獣の影が、低く滑るように走る。


狙いはルシアン。


(こいつ……!)


ルシアンは反射的に後退しようとするが——


「っ……!」


痺れた足が、一瞬遅れる。


——そこを狙っていた。



バチバチバチィッ!!



獣の口から、強烈な電撃が走る。


「ルシアン!!」


エリーゼが即座に魔力を込める。


聖槍セイクリッド・ランス——!」


黄金の光が槍の形を成し、一直線に獣へと放たれる。



——だが。



「……避けた!?」


ガルヴァ・リーパーは、わずかに体を捻り、槍の軌道を見切った。


雷光のような反応速度。


それどころか、ルシアンを仕留めるための動きも止めない。


(……こいつ、まさか……!)


オリカの脳裏に、一つの仮説が浮かぶ。


この魔獣は、単に力任せに襲いかかるのではない。


——魔力の動きを「視ている」。


(そうか……こいつ、魔法が発動する瞬間に生じるマナの流れを感知している!?)


もしそうなら——


「エリーゼ! 魔法を囮にして!」


オリカの指示に、エリーゼが一瞬驚く。


「でも——」


「攻撃じゃなくていい! マナの流れだけ作って!」


エリーゼは一瞬迷ったが、すぐに納得し、素早く魔力を集束させる。


「“光の導き《ルーメン・アクトゥス》”——!」


光の奔流が、魔獣の視界を覆う。


同時に——


「ルシアン、左へ!」


オリカの指示と同時に、ルシアンは全力で左へ跳ぶ。


バチバチバチッ!!!


魔獣の攻撃が、ルシアンの背後の地面を焼き焦がす。


ほんのわずかだが、回避が間に合った。


「……読まれていたのか」


ルシアンが息をつきながら、苦笑した。


「つまり……魔力の動きに依存してるなら——」


「こっちの動きをフェイクにすればいい」


オリカが確信を持って言う。


この戦い方は、魔獣側もある程度学習している。


だが、それを逆手に取れば。


「……狩るのは、こっちだよ」


オリカは、静かに短杖を握りしめた。


獣の黄金の瞳が、僅かに収縮する。


この魔獣が知恵を持っているなら——


こっちも、知恵で戦えばいい。


次の一手が、決まる。



獣の黄金の瞳が揺れる。


その目は、ただの猛獣のそれではなかった。


知恵を持ち、戦況を見極め、狙いを定める——まるで熟練の狩人のような眼光。


だが、オリカたちもまた、ただの獲物ではない。


「エリーゼ、囮の魔法を続けて! ルシアンはタイミングを見て動いて!」


オリカの指示に、二人は同時に頷いた。


エリーゼは再び魔法の詠唱に入る。


「“光の導き《ルーメン・アクトゥス》”——!」


再び迸る光の奔流。


それに反応するように、ガルヴァ・リーパーの耳が僅かに動く。


——やはり、魔力の動きに依存している。


ならば——


「ルシアン、今!」


「ッ……!」


ルシアンが一瞬の隙を突き、猛然と駆ける。


足の痺れはまだ完全には消えていない。


だが、それを補うように、体の動きは鋭かった。


——狩るのは、こっちだ。


ガルヴァ・リーパーが気配を察知し、瞬時に反応する。


バチバチバチッ!!!


雷撃が発生。


本能的な迎撃——だが、ルシアンは止まらない。


「……そこだ!」


雷の閃光が彼の視界を覆った瞬間、ルシアンは一気に方向を変えた。


横ではなく——前へ。


ガルヴァ・リーパーの懐へと、一気に踏み込む。


「“フェイント”を見破れるか?」


目の前で、獣の電撃が炸裂する。


けれど、もう——読めた。


この獣は、マナの流れに反応して攻撃を放つ。


ならば、そのタイミングを逆手に取る。


雷撃が発生する瞬間、ルシアンは滑り込むように低姿勢を取った。


——そして、放たれるはずの雷撃は、彼の頭上をかすめて消えた。


「……やった!」


オリカが息を呑む。


ガルヴァ・リーパーの動きが、一瞬止まる。


狩りのために鍛え上げられた感覚が、逆に仇となった瞬間だった。


「このまま決める!」


ルシアンは短剣を構え、一気に跳躍する。


獣の喉元を狙う——


だが、


——その時だった。


「……っ!?」


ルシアンの足元が、不自然に沈んだ。


地面が、陥没する。


「ルシアン——!?」


エリーゼの悲鳴が響く。


気づいた時にはもう遅かった。


ガルヴァ・リーパーの足元から、不気味な青白い光が漏れ出す。


「……これは、魔法陣!?」


オリカが驚愕する。


この魔獣——ただ攻撃に時間を割いていたわけではない。


“狩り場”を準備していた。


そして、その瞬間——


バチィィィィィ!!!


雷光が、辺り一面を覆った。


「ルシアン!!」


オリカの叫びもむなしく、雷撃がルシアンを直撃する——



——はずだった。



「“神聖障壁セイクリッド・バリア”!!」


エリーゼが、すべてを振り絞るように叫んだ。


純白の結界が、雷撃の奔流を受け止める。


詠唱を破棄した簡易的な領域。


咄嗟の判断で絞り出した魔力の防壁は、相手の攻撃を一時的に防いだ。


電撃を外側へと受け流すだけの強度を生成することには、成功していた。


が、それでも、咄嗟に出したものには変わりない。


じきに綻びが出始めた。


「……っ、耐えられない!!」


魔力が弾ける音がする。


雷の奔流が、結界を押し破らんとする。


「まだ……まだよ!」


オリカも詠唱を始める。


「“収束陣フォーカス・リング”——!」


彼女の詠唱に応じるように、空間に輝く魔法陣が展開された。


魔力を収束させ、雷撃のエネルギーを分散させる防御魔法——


「エリーゼ、持ちこたえて!」


「——わかってる!」


二人の魔法が絡み合い、雷撃を強引に押し返す。


バチバチバチッ……!!


雷撃が霧散し、ルシアンの姿が現れる。


「っ……助かった……」


膝をつき、息を整えるルシアン。


その時、


ガルヴァ・リーパーが、一瞬怯んだように動きを止めた。


「……チャンスだ!」


オリカは即座に叫ぶ。


獣が、初めて“恐れ”の色を見せた。


「こっちの攻撃が……通る!!」


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