第三十九話
❀いざ、出陣❀
夜になる 依るになる
(中略)──
ぼくがいって ぼくが願った
質問をうける 頭を横にふる
なにもかも 消してしまおうか
あれは飢えているといわれた
(中略)──
ぼくは いま
おそろしいことにとりつかれている
頭を横にふらなくては
ならないのに
そうしては ならないのに
あれは待ってはくれないから
ぼくの人生は決定されて
おなかを空かせた魔物が
大きな口をあけて待っていた
夜になると
ぼくの禍ごころが深くなる
ごめんなさい お父さん
ごめんなさい お母さん
ぼくのねたみ 深くなる
だから そのまえに
「この夜ってのは、時間のことを指してるっぽいよな」
「そうだのう。なにもかも消すとは、心中おだやかな話ではないのう。第三者のにおいがプンプンするのう」
「第三者って、この質問をうけるってところだな。こいつ、魔物にこわがっているし、厭な存在が、身近にいるってことじゃねぇの? ごめんなさいって両親に謝罪してるけど、どっちの意味だろう……」
「だれかに、そそのかされたような、不本意な結末に悩んでいるからこそ、最初から最後まで、なにやら不穏な唄なのであろう。しかし、意思決定は少年側にある。これまでのことを、後悔しておるのやもしれんぞ」
「先生は、どう思う?」
螢介と風估の解釈に、亭主はニコッと笑みをつくり、「謎解きの基本は現場を訪ねることかな」といって、料紙を丸めた。……現場? あ、いやな予感。
「行っておいで」
そう云われるだろうと想像できた螢介は、「いいけど、先生もいっしょに来てくれよ」と、やや語気を強めた。亭主は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの表情へもどった。
「此度の件は、ネコを連れておゆき。わたしがそばにいるよりも、彼女のほうが力になるよ」
「ネコを?(あいつ、化猫なんだよな?) おれは、先生とふたりで調べたいのに……」
拗ねた口調で亭主を見つめる螢介の脇腹を、風估が肱で突いた。
「身のほど知らずめが。くらやみの云うことは、素直にきいておくがええ」
「なめこさん(なんか腹たつな)。……はいはい、わかりました。わかったよ! ネコと、現場検証してくればいいンだろ。行ってくるよ」
「天蔵の小僧よ、急所は大事に使うのだぞ。まず、相手を選ぶことが重要である」
「……急所?」
「男の急所といえば、きまっておるじゃろう。ひとたび使えば元気になれて、極上の裏庭はやみつきになるという……」
「風估、彼は未成年ですよ。あまり茶化さないでください」
なにやら小声で話す亭主と風估は、螢介の下半身を一瞥した。……さては、ふたりして、おれを揶揄ってるな。未成年なのは、あと数ヵ月だってのによ!(※十八歳で成人あつかいの設定。ただし飲酒や喫煙などは二十歳になるまで禁止)
亭主にたいする螢介の思いは、説明がむずかしい。家族ごっこだと考えるようにしていたが、とくべつな感情は募ってゆく。男の急所がなにかを察した螢介は、「おれだったら、まず最初は先生に使うかもな」と口にして、さくやを困惑させた。めずらしく涼しげな顔が赤面したので、螢介は満足して肩をすぼめた。
聞書後、静かに眠る少年の寝顔は安らかに見えたが、タマシイの抜けた肉体は、常に危険に晒される。
「待っていろよ。おれが、おまえの真実とやらを調べてきてやるぜ」
「たのもしいのう。くらやみよ、天蔵が無事にやり遂げたさいは、褒美をあたえてやるがええ」
その提案に亭主が肯定すると、螢介は俄然ひきうける気が増した。……オーケー、ネコと協力して、こんなのはサクッと終わらせてきてやるぜ!
〘つづく〙




