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第十八話

❀流言は知者に止まる❀




『えいえんのあゆむみちは、まるいのだ。たいようもだいちも、みんなまるいのだ。それは、つくりだされたさいだいのみちで、だれがどんなふうにあるいても、このみちはふたたび、いっさいのおなじものを、うみだすだけなのだ』



 ネコの話は頭が痛くなる。むしゃむしゃと飯茶碗をじかに口へ運びながら、炎估によって気絶させられた螢介が目を覚ますまえから、ひとりでしゃべりつづけている。急所に一撃を喰らった螢介は、ぼんやり天井を見つめていた。炎估の気配は感じない。からだは居間に寝そべっていたが、ひとりで歩いて帰宅した(おぼ)えはなかった。股のあいだがスースーする。ガバッと上体を起こすと、ズボンだけ脱がされていた。……おい、こんどはだれのしわざだ。


 卓袱台の向こう側に、ぺたんと坐って食事するネコがいる。螢介と目があうと、動物の猫のようにニャアと、ひと声鳴いた。


「……ネコ」(服は着ている)


ここ(、、)はちゅうしん。かなたに、ちきゅう。そんざいは、まわっている。あたらしいものがくるのではない。おなじものが、ふたたびつぎあわされてかえってくるのだ』


「……それさ、なんの話? さっきから、ずっと聞こえてたけど、おれにも関係あるってこと?」


『だーかーらー、ありかたをまもるのだぁ!』


 ネコは、飯茶碗をドンッと卓袱台のうえに置くと、『とどめよ、とどめよ』と連呼する。……なにを? なにを(とど)めるって?



 ブーブーッ。だれか来たな。



 空気を読まない来訪者である。螢介は学ランのズボンを探したが見あたらないのでジーンズを穿いて玄関へ向かった。雨のにおいがする。午后のおり、いつのまにかふりだしていた。



 気をつけろ。

 雨は、異形を呼ぶ。

 雨がふると、亡人(もうけ)が動きだす。



「ほう、少しは学習したか」


「うるさい。炎估(おまえ)の出番は、あとまわしだろ」


 黒紋つきの着物姿の十翼は、螢介の進行方向に佇んでいた。「そこをどけ」と強気で炎估の脇をとおり抜けるふりをした螢介は、いきなり拳を突きだしたが、スカッと宙を舞う。鳩尾への一撃は、本気で痛かった。まだ痛い。やられっぱなしは悔しいので、どうしても殴ってやりたかった螢介は、二発目も躱された。ブーブーッ。豚が鳴く。気短な来客のようだ。



「どちらさまですか」



 鍵をあけるまえにたずねると、硝子(ガラス)戸にうつる人影が、ゆらゆらと烟に変わった。ほんのわずかなすきまから、もわもわと屋敷のなかへ侵入してきた。


「白い烟ってことは、亡人じゃない? 空蟬(うつせみ)か!?」


「似たような(やから)だがな」


 あとから玄関にやってきた炎估は、白い烟が漂う空間に腕をかざし、「去れ」と、短く牽制する。とっさに学ランの胸ポケットから文鎮を手にした螢介は、ぶんぶんと周囲にふりまわして応戦した。



「ウロコ……、ウロコをよこせ……、角ある蛇よ……」



 いま、なんて云った? 螢介は、文鎮をふりまわす手をとめた。玄関扉のすきまから退散する白い烟は、不可解なことばを残した。


「蛇だと?」


 たしかに、そう聞こえた。濁流にのみこれた原因は、ふしぎないきものを見たからである。青いウロコをもつ蛇には、一本の角がはえていた。




〘つづく〙

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