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第十三話

❀雑貨商石づきなめこ❀




 期待はしていなかった。謎めいた亭主の正体は、おそらく、人外という部類の存在だろう。螢介自身も黒猫も、説明がむずかしい存在なのだ。日常生活をおくるさい、とくに不便はないが、さくや亭には人でないものがやってくるため、情報の提供と共有は不可欠だと思われた。


「頼む。おれにも、少しくらいおしえてください。ここの仕事は、ちゃんとひきうけます」


 とりあえず、相手をする連中の情報がほしい。人でないものが多すぎる。それら(、、、)の存在を知らずにいたころは、こんなふうに、頭を悩ませることはなかった。むしろ、なにも見えなかった日々がふしぎだった。異形なるものは、インターフェイスを越えてこの()に融けこんでいる。螢介は「お願いします」と丁寧語を使ってみたが、亭主の表情は変わらない。かわりに、ネコが口をはさんだ。


『それなら、ざっかしょうにいくといいのだ。ぞうきばやしのてまえにあるぞ。あすこ(、、、)のしゅじんは、けいすけのしりたいことをしっている』


「雑貨商? 行ってみたいけど、おれ、この家(さくや亭)から出てもいいのか?」


 ゆっくりと上体を起こす螢介は、パジャマを着ていた。下にはボクサーパンツも穿()いている。……息の根をとめられとき全裸だったような気もするが、布団に寝かせるさい、亭主が穿かせたようだ。……まあ、親しき仲にも礼儀ありってやつか。ぬれたまま放置されたら、風邪をひくしな。


 おすわりしていた黒猫は、亭主の膝のうえに移動して丸くなった。頭を撫でてもらい、気持ちよさそうに目を細める。「ちがうよ」ということばに、螢介は首をかしげた。亭主は黒猫を抱きあげて廊下へでると、ぽかんとする高校生に「服を着せたのはネコだ」といって扉をしめた。


 なんだって?


 さりげなく爆弾発言を残された螢介は、顔に火がつくというたとえを実感した。……まさか、ネコのやつ。あらたな事態が螢介を困惑させた。亭主が黒猫を持っていったので、下着のなかをのぞいて見ると、ウロコが一枚なくなっていた。……とられた。ネコに。


 封じてあるはずなのに、あっさり奪われている。しかも、うたがわしいのは身内のネコである。……炎估のやつは、ネコが十翼だとわかっていたな。ネコはずっと、おれのウロコを狙っていたのか? そうときまったわけではないが、螢介は頭がクラクラした。さくや亭で起きる出来事に、まともにあらがうことすらできない。ネコのことは妹のように考えていたが、一方的に裏切られた気分になった。


「なんだよ、あいつ。かわいい女の子のふりして、おれを(だま)してたのかよ……。くそっ、ウロコの一枚くらい、くれてやる。助けてもらったお礼だ(……でも、どうやって剥がしたんだ? さすがに、ちょっと気になるンだが)」


 納得はいかないが、亡人に飛びかかって螢介の危機を救おうとした事実は認めるべきだ。それより炎估だ。……あのやろう、肝心なときにしらんぷり(無視)しやがって、おれがどうなってもよかったのか?


 意識とからだを共有する炎估は、十翼のひとりで、火穂(ほのお)の使い手である。なぜか螢介の声に無反応を示し、いくら呼んでも返事がないため、今夜は眠ることにした。


 炎估やネコは味方だと思っていた螢介は、少し残念な気持ちになった。ネコにはネコのゆずれない事情があったとしても、ウロコがほしければ、ひとこと云ってほしかったし、炎估には力を貸してもらいたかった。


 

 ……雑貨商か。こうなったら

 行ってみるしかねぇな。

 あの亭主も、だめとは云って

 なかったし。



 ネコの情報によると、雑貨商の主人から詳しい話が聞けるらしい。ここは、「行く」という選択肢しかないだろう。




〘つづく〙

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