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人類双子化計画

登場人物




加賀優地


主人公。天才。総理が掲げる人類双子化計画成功の為、日中は研修医、夜は双子を必ず埋めるようにする薬「双子薬」の開発をしている。




渡辺巧


秀才。優地の大学の同級生であり、いまは双子薬の開発にあたっている。




青野秀一郎総理大臣


全員が双子として生まれれば自動的に人口が増えると考え、「人類双子化計画」を考え出す。




森川ゆり子


青野総理大臣の秘書。優地はゆり子のことが好き。作り物のように美しい顔をしている

「ええ!じゃあ、かみんちゃんも双子薬使ったんや」

「はい!」

「ちょっと怖いなぁとか、心配だなぁとかあらへんかったの?」

「そこは無かったですね。子どもも無事生まれて元気に過ごしてますし」

「断言しちゃうんだ」

「はい。それに双子ってほんとうに可愛いんですよ。通じ合ってるっていうのかな。いろんなことでタイミングとかしぐさが一緒なんです。例えば上の子がくしゃみするタイミングでぇ…」


昨年結婚を発表した人気女優の話に、司会役のお笑い芸人が驚いたようんな声を出す。テレビやSNSでは毎日のように双子薬の話題が飛び交っていた。これは、青野総理大臣が任期が終わり前に行った政策の一つだった。

双子を当たり前に産み、人口を増やす「人類双子化計画」はその前代未聞の内容から、ほとんどの国民から非難の声が上がった。薬の安全性を不安視し、国会前で大規模な反対運動が行われるほどだった。


しかし、芸能人や若者に人気のインフルエンサーに金を渡し、薬をつかってもらいそのことを発信してもらう。少しずつではあったが、徐々に国民の拒否反応が薄まり3年もすると当たり前のこととして受け入れられるようになった。

さらに、双子薬を打った夫婦には10万円、それによって双子を生んだ場合は200万円、万が一生まれなかった場合も150万円支給という大規模な補助金を出す。そうすると、金に困っている若い夫婦を中心に“どうせ産むなら双子を”と双子薬を使う流れを作った。


「副総理、今年の出生率ですが、わずかですが昨年よりもアップしています」

ゆり子が革張りのソファで眠りこけている青野秀一郎にタブレットを差し出した。青野秀一郎は、今は総理という役職からはなれ、副総理として活躍していた。青野副総理は老眼鏡をかけタブレットの文字を指で拡大する。しばらくじっとりとデータに目を通すと、にんまりと頬を膨らませ

「そうかそうか」

と、満足そうに鼻を鳴らした。


「双子化計画から3年。今や70パーセントのパートナーが双子薬での出産を選択している。私はいま自分の政策で日本が明るくなっていることを感じて、胸が熱くなっているよ。君もそうは思わんか」

「そうですね」


ゆり子は静かに青野副総理から離れテレビのリモコンを手にした。


「そろそろ始まりますよ。政策どんどん言っちゃって委員会が。たしか加賀さんが出るんじゃなかったですか?」

政策どんどん言っちゃって委員会は週に1回政治家や時事ニュース系タレントや専門家が集まって討論する人気番組だ。ゆり子がテレビをつけると、ちょうど優地が女性アナウンサーからの質問に答えているところだった。


『加賀先生、出生率が上がったとのことですが今のお気持ちを教えてください』

『…ぼ、ぼくは何もしてませんよ…。青野副総理の政策のおかげですので…』


優地がそう答えるだけで会場からはおぉ~と感心したような歓声が出た。そして、テレビの音量を思わず下げたくなるように大きな拍手が送られた。

次に有名な初老の男性評論家が手を挙げて質問した。

「では加賀先生、地方では双子薬が足りない状況が続いていますが対策は考えていますか」

『対策は考えいていません。大量生産は可能ですが人の体の構造を変える薬です。安全性を考えると生産過程を飛ばすわけにもいきません。なによりも安全性を第一に考えたいと思っています。なので生産方法でなく…』


「すっかり日本の救世主ですね」

ゆり子が感心したように言うと総理が今度は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


誰にも媚びずストレートに自分の考えを伝える姿、研究一筋でそれ以外の欲がない姿、本当は目立つことが苦手でメディアに出たくないすという姿。それらが一般人の共感を得て、優地は自然と国民から人気と信頼を絶対的なものにしていった。子どもの憧れと言えばスポーツ選手ではなく一番に優地の名前が上がるし、大人の中にも転生したら優地になりたいというものでさえいた。


「あれ、副総理もしかして…嫉妬してます?自分も加賀先生みたいに救世主ってよばれた~いって思ってます?」

「そんなことない。それよりもゆり子、午後の予定は?」


ゆり子がやれやれとタブレットに指を滑らせる。総理は午後からの予定を頭に入れると部屋を後にした。




「加賀先生、本日は収録にご協力いただきありがとうございました」

「ありがとうございました」

「またよろしくお願いいたします」


収録が終わった優地は、テレビ局の職員に深々と頭を下げられ思わずたじろいた。

「あ、あ…いえ」


優地は急いでエレベーターの扉を閉め、ほっと息をついた。

(あぁ…30分くらいで終わるって聞いたから承諾したのに…一時間もオーバーしてるじゃないか…)


優地がタクシー乗り場につくと、柱にもたれる巧の姿があった。


「おぉ優地。遅かったな。早く帰ろうぜ」

巧がタクシーを指さす。優地は言われるがままタクシーに乗り込んだ。


「双子病院までですよね?」


タクシーの運転手がバックミラー越しに優地を見た。優地がうなづき、巧も乗ったところで車が静かに発進した。優地はひどく疲れていた。背もたれに体を預け静かに瞼を閉じる。


(少し眠ろう―)


優地の意識が飛び始めた時だった。


「優地は、やっぱりすごいな」


巧が窓を見つめしんみりとつぶやいた。


「優地が中学の頃に作った自由研究、俺はあれでお前のことを知ったんだ。同じ年で、たかが学校の宿題でこんなにも高度で、熱意溢れる研究ができる人間がいるんだってすごくびっくりした。それからかな。何となく悔しくって勉強するようになったのは」


「いつか加賀優地に追いつく日が来ると思ってずっとやってきた。けど、お前はまるでそこにレールが敷かれてるみたいに、双子化計画の第一人者になって、双子薬を作って、今や日本の救世主だ…」


「そんなことないよ。薬は皆で作ったろ」


巧が首を振って否定した。


「俺はお前が羨ましいよ、加賀優地」


優地は薄目で巧の姿を確認した。巧は自分のことを羨ましいという割には幸せそうに笑っていた。そのことが優地の心を惨めにした。


(全然うらやましいなんて思ってないだろ…)



それからも双子薬は急速に国民の“常識”の中に浸透していった。優地はどんどん神様のようにまつりあげられた。優地はそれがうっとうしくて仕方がなかった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


優地と成美の間で生まれた双子が5歳の誕生日を迎えた。


「誕生日おめでとう。優成、成地」

「ありがと」


優成が顔を真っ赤にしてはにかんだ。食卓には成美と優成と成地だけで優地の姿はなった。優地が食卓にいないことはこの家にとっての常識で、子どもたちもそのことに疑問を感じることは無かった。


「じゃあケーキきるよ~」


成美が包丁を手にし、ケーキに刃を入れた時だった。



ガタン


成地が椅子から崩れ落ち、眠るように床に倒れた。


「ごほっ…ごほごほ」

「血…」

「ま、まま!成地の口から血出てる」


成地の顔がみるみる青くなり、口からあふれる血が床をぬらす。成美はすぐに震える手で優地に連絡を入れた。


「加賀先生!すぐに帰ってきてください!成地がっ、成地が…」


成地はすぐに双子病院と連携を取っている総合病院に搬送された。優地を中心とする医療チームで賢明な処置が行われたが成地は帰らぬ人となった。

この日を境に、順調に進んでいた人類双子化計画に陰りが見え始めた。双子薬を使って生まれた子どもの片方が5歳を迎えると、成地と同じように血を吐いて息を引き取るということが相次いで起こったのだ。優地は双子化計画を始める前の総理とのやり取りを思い出していた。



「「「はい。双子と父母ともに今のところ健康状態に異常は見られません。しかし、生まれた時、双子に大きな個体差があったんです。」」」



息を引き取る子どもは全員小さく生まれたほうだった。嫌な予感が止まらず優地眠れない日々が続いた。

青野副総理を中心に政府を挙げてこのことを隠ぺいしていたが、SNSを通して情報が周るためすべてを隠すことは出来なかった。国民は少しずつ国と加賀優地に疑いの目を向けるようになった。


(やっぱりあの時、強く青野副総理に計画は待ってほしいと伝えればよかった……)


そんな優地にさらにおいうちをかける事件が起こった。






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