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双子薬

登場人物


加賀優地

主人公。天才。総理が掲げる人類双子化計画成功の為、日中は研修医、夜は双子を必ず埋めるようにする薬「双子薬」の開発をしている。


渡辺巧

秀才。優地の大学の同級生であり、いまは双子薬の開発にあたっている。


青野秀一郎総理大臣

全員が双子として生まれれば自動的に人口が増えると考え、「人類双子化計画」を考え出す。


森川ゆり子

青野総理大臣の秘書。優地はゆり子のことが好き。作り物のように美しい顔をしている。



優地(ゆうぢ)が双子薬をつくり始めて始めての冬が来た。優地は研修医として病院へ、研究員として病院の地下にある研究室へ行ったり来たりしていたので、ほとんど食べず寝ずで過ごしていた。そのため、もともとごぼうのようにひょろっとしていた体型だったが、さらにやせ細りあらゆる関節がぼっこり浮き出ていた。また目の下の隈と唇が紫がかり、優地が患者なのではないかと病院内で勘違いされるほどだった。




「できたっできたぞぉぉお!!!」


第1研究室から今まで聞いたことがないほど大きな優地の声が響き渡った。すぐにほかの研究員が作業の手を止め優地のもとにやってきた。


「加賀先生、どうされたんですか?」

「できた…できたんだよ。完璧な双子薬がっ!」


研究員は首を傾げた。


「でも先生、まだ実際に使ったわけじゃないのに…」

「いいや。これは完全無欠。完璧な双子薬だ」

「いったい何を根拠に…」


研究員があきれたようにつぶやくと、優地は普段疲れでくすんでいる瞳を宝石のように輝かせた。


「勘だよ。勘。研究者としての勘だ」


いつの間にか別の研究室にいた研究員も集まっており、全員で優地の言葉を聞いた。




優地は、双子薬の最初の成功は自分でありたいと願っていた。研究者本人が薬で双子を生んだほうが、安全性に説得力を持たせられるからだった。そしてそれを一緒に使いたい相手も決まっていた。スマホを開き、友達登録されたあの人のトーク画面を開こうとしたとき…


ぴこん


一軒のメッセージが飛び込んできた。相手は今まさに、優地が連絡を入れようとしていた相手だった。


『お時間いただけませんか?お話したいことがあります』


優地は膝を床につき、天井に向かって二つの拳を掲げた。嬉しさから優地の目から少しだけ涙がにじんでいた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「加賀さん!」

T国ホテルのエントランスに入ると憧れのゆり子が立っていた。


「実験どうですか?順調ですか?」

「あ…その、実は…なかなかなかの自信作ができたんです」


ゆり子は目を見開き口角をぐいっと上げた。そして優地に薬のことについて詳しく聞こうと体を一歩近づけた。


「いや、まだ人に使ったわけではないのでわからないんですけど…これまでにないくらいには自信作です。ほぼ100パーセント成功です。人に使ってないだけで…」


その先を言おうかどうか優地は悩んだ。試験薬No.100。あれは絶対に成功だ。初めての双子薬の成功は、計画開始からずっと親身になって支え続けてくれたゆり子と叶えたいと優地は思っていた。


(こんなこと誘ったら引かれるかな)


優地は緊張から手のひらで握りこぶしをつくっていた。


(けど…大丈夫だ、きっと僕の気持ちとゆり子の気持ちは一緒だから…じゃなかったらわざわざこんな僕を…食事に誘うわけない)


手のひらをそっと広げ優地はゆり子をじっと見つめた。食事の後に自分のゆり子への思いを伝える。そして、指輪の代わりに双子薬を、人類双子化計画の最初の成功を、ゆり子にささげよう。そう思った。



「こちらへどうぞ」

T国ホテル20階にある高級フレンチレストラン。優地とゆりこは店の奥にある夜景がよく見える席に案内された。






「は?」




二人で座るはずの席になぜか巧が座っていた。


「わ…渡辺っ?お前何して…」

「忙しいのに呼び出してごめんな。優地には直接伝えたいことがあって…」

「はなし…?」


巧とゆり子が目を合わせ、息ぴったりにうなづいた。


「実はさ、俺たち結婚することになったんだ」


巧が照れくさそうに頭を掻いた。ゆり子が巧を小突いていたずらっぽく笑った。


(ゆり子さんって人にこんなふうに笑うんだ)


優地の心の中の何かが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。


「それで結婚式来てほしくてさ」

「優地は俺のあこがれだから」

「ゆりにも優地のことを一番よく話すんだ」



巧の言葉一つ一つが優地の心の奥深くにぐさぐさと刺さった。それから巧は胸ポケットから白い封筒に入れられた招待状を、優地に差し出した。優地には心の奥底からあふれ出しそうな毒をごくりと飲み込み震える声でお礼を言った。


「ありがとう…行けたら行くよ」


それから約90分、二人の笑い声と、二人にしかわからない話を聞き流しながら、優地は運ばれてくる料理を機械的に噛んで水と酒で流し込んだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



翌日、優地はいつも通りの時間に病院へ行き、研修医としての業務をこなし、病院を閉めた後、いつも通り地下の研究室へ向かった。ゆり子と巧のことが頭から離れなかったが、優地には「双子薬」の完成と「人類双子化計画」の成功という使命が残っていた。それまでは失恋ごときでめそめそするわけにはいかなかった。


(とにかく…もうこうなったら…女だったら誰でもいい)

優地は乱暴な足取りで試験薬No.100を保管した金庫に向かった。とにかくNo.100の成功を一刻も早く証明したかった。


そのとき、肩まで伸ばした黒髪を一つに束ねた大人しそうな女性研究員が通りかかった。岡島成美。優地の二つ下で小崎教授の紹介でこの研究所に来た研究員だった。優地は乱暴に成美の肩を掴んで研究室へ引きずり込んだ。


「な…なんですか?加賀先生」


成美が困惑したように問いかけた。


「岡島さんだよね。双子薬…興味ないかな」



「双子薬?いきなりどうしたんですか?」

「双子薬…興味ないかな。その…使ってみたくないかな?」

「どうしたんですか?」


成美は優地から距離を取り、慌てて研究室をでようとする。優地はあわてて扉の前に立ちふさがった。そのまま成美の肩を掴み乱暴に研究室の真ん中に設置されたテーブルまで押しやる。


「加賀先生…?」

「…」

「せ…せん、せい?」

「…」


優地が無言のまま成美の服のなかに手を滑らせる。成美は何をされるのか悟りあわてて優地を押しのけた。


「な、なにしてるんですか!?」

「これは患者にはまだ使わない。これは、No.100は今から僕と岡島さんで使うんだ」


優地は金庫から注射器を二つ取り出した。


「初めての双子薬の成功者として僕と表に立ってほしい。これは名誉なことだよ。総理もきっと喜んでくださる」


優地は注射器をテーブルに置くと成美を強く抱き寄せた。


(ち…ちいさくてやわらかい…)


優地の息が少しずつ荒くなる。このまま、腹の下から湧き上がる興奮に身を任せ、成美をテーブルに押し倒し、手汗まみれの手で腹を撫であげた。


「う…やめてっ」


成美が顔をゆがめる。


「わたし、心に決めた男性がいるので」


優地の下で成美が必死に軽蔑の目で睨みつけた。


「は?」

「だからわたし、心に決めた、つまり、か・れ・し いるんです。だから加賀先生とそんな関係になれません」


成美は声を震わせながらも冷たく言い放った。


「どいて」


成美が優地の体を押しのけ踵を返そうとする。


お前とは違う

話しかけんな

気持ち悪い


そう言われている気がした。優地の腹の下から先ほどとは違う興奮がわき上がる。


「く…くっそ…が…」


「なにが結婚だよ!男だよっ!どいつもこいつも浮かれやがってっ!!俺がどんな思いでこの研究に向き合ってると思ってんだよ」


「な…せ、せんせ…」


優地が激しく頭をふり上げ髪を乱す。


「だれにもわかんねえよ。俺のことなんてっ…俺は…俺は…この計画をただ成功させたいだけなんだよ。総理と一緒に日本を救いたいだけなんだよ」


優地が成美の腕が鬱血するくらいの強い力で押さえつける。成美は腕の痛みと、自分の目の前で人間が人間でなくなっていくことの恐ろしさを目の当たりにして涙を流していた。


「僕とお前で双子薬の研究にピリオドを打つ」


そう言うと優地は怒りに任せて成美の頬に噛み、腕に注射を刺した。


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