第4話 おっぱいまるだし
「アンタなにやってんの?」
突然眼の前の大きな主モニターに女が映し出された。
気のキツそうな色気ムンムンのナイスバディ美人だ。しかもなにも服を身につけていない。スッポンポン。おっぱい丸出し。頭頂部に申し訳程度の皿が付いているからカッパなんだろう。
「アレ? お客さん?」
その美人はおれを見て首を傾げた。なんとも妖艶な雰囲気を漂わせている。
ものごしが銀座のママみたいに落ち着いていて、おっぱいを隠そうともしない。
どう応えていいかまごついているとカッパが慌てて返答した。
「クワッ! お、恩人さ、ついにボクもやっちまってね。ちょっと竜宮城まで送ってかなきゃならないんだ! だから今夜は少しばかり遅くなるかもキュゥ……」
「ふーん、まぁいいけどね、帰りに3連パックのカッパ豆腐と北海道キュウリ牛乳を買ってきてよね、また製造日が古いのなんて買ってきたら承知しないわよアンタ」
「あ、ああ、分かってるクワッ。なる早で帰るよ! ゴメンねキュゥ!」
ブチ。 映像通話が終わり、また元の宇宙空間の景色へと戻る。
「ふぃ~~~っキュゥ~~~~!」
どっと吹き出た額の汗を拭うカッパ
その様子は、パワハラ会議をなんとか口先だけで乗り切ったダメ社員みたいだった。
「誰あれ」
「嫁のマーガレットっす。キュゥ」
見るからにカッパのテンションが下がっていた。
さっきまでぷりぷり振っていた短い尻尾が、今は尻の割れ目にピッタリはまっている。
「マーガレットって名前なの?」
「そうっす、割とありありの名前ですけど。キュゥ」
「おまえは?」
「キュー太郎っす。キュゥ」
「へー……」
オスの方はずいぶんおざなりな名前なんだな。
おれはカッパの性差の著しい違いに驚いていた。
オスの方は、まず全身緑色で、もうどうしようもないくらい妖怪、それもザコっぽい小型の妖怪なのに。
メスは肌色、大きさも見た目もほぼ人間。むしろ人間以上に肌のキメが細かくてラブドールっぽい。
「おまえあんな美人の嫁さんがいるのに、人間の小学生に手を出しちゃうの?」
「クワッ、よしてくださいよダンナぁ、あんなババァよりJC(女子小学生)が良いに決まってるじゃないですか!キュゥ」
うわぁ、コイツほんとに助けるべきじゃなかったな。そう思ってる間もカッパは身の上を喋り続けた。
「ボクはなんていうか、結婚とかぜんぜんガラじゃないんで~。内心嫌だったんですけどぉ~。昔からのしきたりっつーか、家同士のアレで。クワァァ~。まぁ政略結婚? 的な? この仕事も嫁の実家の系列? なワケっすよ。あっちの家の方が太いんで! そういう意味じゃ世話になってるって言えばそうなんですけど、成人済みの嫁とかマジ勘弁っつーか。独身の頃が恋しいっす。キュゥ」
ホンマこいつ嫌な奴だなぁ。
「クワッ? もしかしてダンナはうちの嫁みたいなタイプがお好みで!? キュゥ」
カッパはハッとしたようにおれを見上げて言った。
「好みっていうか、美人だよなぁ」
「っはぁ~~~~! っほぉ~~~~~! クワワワァ~。 そう~なん~ですかぁ~!」
カッパはさも意外だと、オモチャみたいな丸い目をさらに丸くしていた。
おいおい、おまえは男はみんなロリコンだと思いこんでいるのか。困ったやつだ。
「あんなのでしたら竜宮城に行けばいっぱい居ますよ? キュゥ」
「マジで?」
おれはがぜん竜宮城へ行く気になった。
べつにいやらしい意味じゃない、ラブドールみたいなのがいっぱいいるのならと、興味が湧いただけだ。
誰だって感じの悪いカッパと似たりよったりな風貌の仲間がいるカッパランドなんてわざわざ行きたくないだろ?
それが人間ぽい連中がいるんなら話は別だ。それだけだ。
ふと見るとキュー太郎がニヤニヤと。
「新たなエロ波動をキャッチしましたよダンナ。キュゥゥゥ」とクチバシを歪ませておれを見ていた。
ホンマこいつだけは……。