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第3話

 

 人生二周目が始まって二年の時が流れた。


 遠い未来で王位を奪うために反逆を起こした叔父は、もうすでに王位簒奪の計画を練っていた為、ボクの手によって悪事がばれて爵位を剥奪され国外追放となった。


 その後のボクの生活は退屈そのものだった。


 すでに人生一周目で八年制の魔法学院を卒業しており、家庭教師から教わることはすでに知っている事ばかりだ。

 おまけに、ボクは兄や姉のように両親と一緒に国行事や視察などの公務も参加できない。


 その理由は、この赤い瞳にあった。


 この国では赤い瞳は悪魔の目と言われ、災いを招くという不吉の象徴。

 しかも、大賢者アイオライトが残した伝承というのもあり、信心深いこの国の民達にとって、この目は民達の王家への心象を下げるものになる。中には、それを利用し悪事を働く貴族も現れるだろう。


 未来で反逆を起こした叔父は、ボクが魔力を暴発させたり、奇抜な魔法を発明したりしたら、すぐに父に言及するつもりだったみたい。まあ、人生一周目のボクは大人しく過ごしていたから、その計画はすぐに破綻したけど。


 結局は学生時代にボクが放り出した研究を見つけて『第二王子を辺境に追いやったのは王族が危険な魔法を作らせている。王家は本物の悪魔を生んだ』とかなんとかいちゃもんつけて王位簒奪を目論んだわけだ。


 人生二周目では速い段階で叔父が国外追放されたのもあって、政治に巻き込まれるのを心配した両親は、人生一周目と同様にボクに公務の参加を控えさせた。


 ──しかし、暇だ。


 正直、魔法学院に通っていた頃も暇だったが、それ以上に暇だった。

 勉強も終えて自室に戻ったボクは、小さな置き鏡に魔法をかける。


 それは遠くの場所を見通す魔法。鏡には城下の様子が映し出された。

 商店街で行き交う人々の胸には小さな輝きが見える。ボクは「綺麗だな……」と言葉を漏らした。


 人々の胸元に見えるその輝き、それは人の心だった。


 魔力が覚醒した日から、ボクの目には人の心の色が映るようになった。

 それは心の成長や感情で色を変えていき、その色合いからボクは感情を読み取ることが出来る。もちろん、完璧ではないが、悪意は確実に見分けることが出来た。


 人生一周目のボクは、その心が見える目が、人の心だと真の意味で理解していなかった。ボクの言動で色が変わっていくのが面白く、ボクは心の色の変化を観察して、人の心情を暴いていった。


 騎士団の兵士が何人ものメイドと浮気をしていること。

 兄の友人が内心では兄をバカにしていること。

 姉を褒める男達に下心があること。

 少なかれ叔父と関わりがあった貴族がまだ幼い妹を利用しようとしていること。


 そうしているうちに、『ジェット殿下は人の心が読める』『どんなに誠実な態度や言葉を述べても嘘を見破ってしまう』と囁かれることになり、ボクの周囲から人はいなくなった。


(我ながらバカだったなー……)


 ボクを陥れようとしてくる輩もいなかったが、好意を寄せる人間もいなかった。


 心が読めることでボクを扱いに困った家族は、ボクから距離を置くようになったのは言うまでもない。そして、ボクは魔法学院卒業を機に追いやられるようにして辺境の地の主となった。


(唯一、ボクの傍にいたのは、幼い頃に友人としてあてがわれた子爵家の三男坊だけ。まあ、彼も内心びくびくしながら仕えていたけど)


 人生二周目のボクは、人の心が見えることを黙っていた。そうしたら、物事が上手くいった。

 両親も兄や姉も、ちょっと目の色が違うだけの弟としてボクを可愛がってくれる。妹だって前よりうんと可愛がってあげられる。


 幸せだ。泣きたくなるくらい。


 しかし、ボクは少し寂しかった。


 本音らしい本音を飲み込み。周囲の目には優秀なジェット王子として映っているだろう。それがボクじゃないみたいで、なんだか嫌だった。


 ボクはそんな鬱々とした気分を晴らすために、気晴らしで外の様子を眺めるようになっていた。人の心の色を眺めるのが、ボクの癒しだった。


(国外でも見てみようかな……)


 どこがいいだろうか。そうだ、隣国なんてどうだろう。

 ボクは城下から隣国のどこか適当に映し出した。


(ん? ここは……どこかの屋敷か?)


 映し出されたのは、大きな屋敷の一室。可愛らしいパステルカラーで彩られた部屋は、見るからに女の子の部屋だと分かる。


(さすがに女の子の部屋を覗くのは紳士としてまず──……)


 ボクは一人の少女に目を奪われた。


 背中まで真っすぐに伸びた黒髪、吸い込まれそうなほど透き通った深紫の瞳。まるで人形のように可愛い。しかし、彼女はそれだけではなかった。


「綺麗だ……」


 彼女の胸にある輝きは、ガラスのように透き通っており、今まで出会ったことがないほど綺麗な心だった。


 目を奪われるというのはこういうことだとボクは思い知った。


『クリスティーナお嬢様、お茶のお時間です』

『はい、今行きます』


 おそらく、彼女はボクと同い年だろう。

 お茶の時間を楽しむ彼女の所作は実に洗練されているものだった。

 城で教育を受けているボクの姉よりもずっといい。


「クリスティーナ……クリスティーナか……」


 あんな綺麗な心をした人は生まれて初めて見る。一体どんな子だろうか。

 数日、彼女の様子を観察して分かったこと。彼女の名前はクリスティーナ・セレスチアル侯爵令嬢。見目麗しい両親と兄を持つ人形使いの家系らしい。


 知れば知るほど、彼女への興味が湧いた。会って話をしてみたい。そんな感情がふっと湧いたのだ。


 しかし、ボクは一国の王子様。簡単に会いに行ける立場ではない。というか、一方的にボクが顔を知っているなんて怪しいことこの上ないし、ボクが姿を消したら問題になる。


(魔術で分身を作って目眩ましの魔法を使う? そうすればボクしか見えないし……いや、いきなり知らない男の子が声をかけたらびっくりするかな?)


 自分にしか見えない男の子が現れたら、幽霊かと思って怖がってしまうだろう。

 ボクは、彼女が遊んでいる真っ白で赤い目をしたウサギの人形に目を付けた。


 ──ああ、そうだ。良いことを思いついた。


 ボクは遠隔魔術で彼女が持つ人形と視界と意識を共有させる。


「やあ、クリスティーナ!」


 人形を操ったボクがそう言うと、彼女は目を丸くした。


「え、誰……?」


 どうやら人形がしゃべったとは思っておらず、周囲を見渡している。

 そういえば、名前のことを考えてなかったな。まあ、隣国の王子が話しかけていると思わないだろう。とはいえ、馬鹿正直に答える必要もない。


 それに、今のボクにはぴったりな肩書があるじゃないか。


「どこにいるの?」

「ここだよ、クリスティーナ。君の腕の中さ」


 ボクがそう呼びかけると、ようやく彼女と目が合った。


「初めまして! ボクの名前はジェット。悪魔さ」


 これが、悪魔ジェットとクリスティーナの出会いだった。




第3話 悪魔の誕生

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