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第21話


 これは、クリスの頭がおかしくなった世界線から三つ前の世界線の記憶。


 それは、ヴィンセント・レッドスピネルがあの女との恋が成就した世界線だった。


 何度も周回していれば、いつかヴィンセントとあの女が両想いになる未来に遭遇するだろうと思っていたが、思いの他その時が来るのは遅かった。


 彼は、不器用で素直になれない性格だし、おまけに公爵家の跡取りで子どもの頃は背丈が小さいことをバカにされてきたから、プライドまで高くなってしまって余計だったかもね。


 クリスはそんなヴィンセントの気持ちを汲み取って、フォローしたり、時には彼の態度を窘めたりしていた。ヴィンセントも彼女を尊敬しているようだったみたいで、良い友人関係を築いてきた。


 しかし、そんな友人関係が崩れたのは、二人が魔法学園に入学して半年が経った頃。ヴィンセントがあの女と交際を始めた事を知ったクリスは、ヴィンセントを呼び止めた。


「ヴィンセント様、あの子と交際を始めたのは、本当ですか?」


 この世界線のクリスは十二歳の姿をした悪魔ジェットと出会っていない。ボクは彼女のお気に入りのウサギの人形を遠隔魔法で操り『悪魔ジェット』と名乗っていた。


 彼女の肩に引っ付いていたボクは、ヴィンセントの心を見た。


 アイツの心の色は、淡い恋の色ではなく、恋が成就したことで濃い色に変化していた。

 見慣れた心の色にボクは内心で苦虫を噛み潰す。


 ──ああ、この時が来てしまったか。


 どの世界線でもクリスの対立する宿命にある少女の名は、イヴ・ラピスラズリ。


 とある世界線では、クリスの初恋相手を横恋慕し、時には彼女のプライドを引き裂いていく。そして、今度の世界線は──……


「本当だとしたら、どうしたと言うんだ?」


 いつもクリスに対して穏やかな目を向けるヴィンセントが、冷たく彼女を見下ろした。

 その声色も酷く冷たいもので、ボクはクリスに掴まる手に力を込めそうになった。


 ──どうしたじゃないだろ、このバカ!

「どうしたも何も……っ!」


 感情的になりそうになったクリスは、ぐっとこらえて声を抑えた。


「あの子はラピスラズリ家の……それも元平民の子ですよ?」

「元平民でも、今は侯爵家の令嬢だ。別につり合いが取れないわけじゃないだろう?」

「家格はそうかもしれませんが、血筋や政治の問題です。彼女の家は野心的でヴィンセント様の血筋を狙っただけかも……それに私はあの子がレッドスピネル家の女主人としてやっていけるとは思えません」


 そうだ。彼女は元平民。それも引き取られたとしても所作は付け焼き刃。貴族の常識にも疎い。そんな彼女がレッドスピネル家に嫁いで恥をかくのは目に見えている。


 それに、彼女の家はどうもきな臭い。最悪、レッドスピネル家が彼女の家と共倒れだってあり得た。


「ヴィンセント様、私達は政治にも大きく関わっていく立場です。恋も大切ですが、もっと慎重に相手を選ぶべきです。彼女はそれだけの器量は……」

「お前はいつもそうだな。クリスティーナ」


 ヴィンセントの青い瞳がクリスを鋭く睨みつけた。


「貴族だからとか、出自がとか、マナーだとか……お前はいつも自分の生まれや血筋を誇りに持ち、そしてそれに恥じないよう気高く生きようとしている。実に美しいと思う。けど、生まれだけで、相手を図るのは間違っている」


 ヴィンセント、何を言ってるんだ? それとこれは話が違うだろう。

 クリスは貴族の役目として、家格に合い、共に家や領民を支えられる女性を選べって言っているんだ。


「ヴィンセント様、私は別に……」

「完璧な淑女のお前には分からないだろうな。オレの気持ちも、イヴの頑張りも。だから、シヴァ兄も離れていくんだ」

「……っ」

(ヴィンセント……お前ぇ!)


 クリスはシヴァルラスが自分に苦手意識があることをもう気付いている。

 しかし、それは彼女がシヴァルラスの隣に並ぶ相応しい女性になるための努力を否定しることになる。だからクリスはあまり考えないようにしていた。


 ──それを、コイツは……っ!


「話はこれで終わりだ。じゃあな、クリスティーナ」


 そう言って踵を返すヴィンセントをクリスは呼び止めなかった。

 彼女の綺麗な心が悲鳴を上げるように音を立てて歪み、色が淀んでいく。小さく俯くクリスに、ボクはそっと寄り添う。


 違うよ、クリス。君は間違ってないよ。

 君の判断は貴族として真っ当なものだ。君の努力だって、本来は褒められるべきもので否定されるものじゃない。


 しかし、いくらクリスが完璧な淑女でも、彼女はまだ十五歳の女の子。傷つかないわけがない。



(ヴィンセント……なんでだよ! 君はクリスの友達だろ! なんでクリスを傷つけるようなことを言うんだ! なんでもっとクリスの言葉に耳を傾けないんだよ!)



 誰よりもクリスの近くにいたくせに!

 ボクと違って、公私ともに友人を名乗れる立場のくせに!

 表立ってクリスを守れるのはお前だけだったのに!



(ヴィンセント……許さないからな! 人生何周しても、あの女に恋をする限り、お前のことを許してやらないからな!)




第21話 不器用優しい──大好きだった君を嫌いになるまで

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