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第15話

 

 あれから一週間の時が流れた。ボクはいつも通りセレスチアル家に訪れ、お茶会へ向かう馬車に同乗している。


「嘘でしょ……なんてことなの……」


 揺れる馬車の中でクリスはこの世の終わりのような顔で人形を強く抱きしめていた。

 一体何に怯えているのやら。ボクはそんな彼女を見ながら窓のふちに肘をついていた。


「なんでそんな落ち込んでるのさ? クリスの憧れの王子様に会うんでしょ?」

「そうだけど……そうだけどっ!」


 この一週間、彼女はこの調子である。王族主催のお茶会に参加することになり、彼女は狂ったようにマナーの勉強に取り組むようになった。

 どうやら彼女は、もうすでに第三王子にお熱らしい。マナーの取り組み具合も恋を知った今までの彼女以上に熱が入っていた。


 時折、「一分の一スケールの推し! 一分の一スケールの推し!」とか「国外追放される前に推しをこの目に焼き付けるのよ!」と意味不明かつ不穏なことを呟いていたが、ボクは何も聞いてないぞ。



(国外追放なんて小さな子どもがされるわけないのに)



 王族主催とはいえ、たかが子ども同士の集まりだ。それに国王はクリスの父親の友人で、クリスの兄は第一王子の親友なのだ。彼女がお茶会で何か失敗したところで、多めに見てくれる。


(本当に何を心配しているのやら、それに比べて彼女の家族の力の入れ具合ときたら……)


 今日の為に彼女の父兄は大張り切りでドレスを新調し、クリスはそれはもう見事に可愛くなっている。

 パステルピンクのドレスに身を包み、白いレースのリボンで髪をまとめ、誰もが目を惹く愛らしい少女だった。


(うん、何周しても見飽きないな、ボクの淑女は)


 彼女の父や兄はもっと深みのある色を薦めていたが、彼女の母がそれを阻止したのである。


(臙脂や群青も似合うけど、やっぱり子どものうちはこういう色もいいよね……クリスママ、さすが)


 若いうちにしか着られない色がある。未来の彼女は子どもっぽいからという理由で、社交界では暗めの色ばかり着ていた。似合うのにもったいない話だ。


(それにしても、今回はどうなるのかな……)


 今までの彼女は初めてのお茶会に大はしゃぎしていたというのに、こうして落ち込んでいる姿が、なんだか見ていて面白い。

 とりあえず、優しくて紳士的なボクは怯える彼女をなだめることにする。


「たかがお茶会だよ? 大人が参加するような夜会でもあるまいし」

「何言ってるのよっ! 淑女のお茶会と夜会の参加は戦場に行くのと同義よ!」


 確かにいえて妙な例えだ。女性に限らず、社交界では腹の探り合いをするような場である。

 しかし、今回に限りこれは子どもの集まり。おまけに王族側の目的は、第三王子の友人や婚約者選びの為だ。クリスが肩に力を入れる必要はない。

 ボクは、移動中に食べられるよう備え付けられたクッキーを口に運ぶ。


「大袈裟なんだよ、もう……でも……そんな君が面白くてたまらないんだけどねぇ……」


 これからのお茶会のことを考えると、ボクは楽しみで楽しみで仕方がない。今日、彼女のお茶会についてきたボクには大きな目的がある。

 でも、その前に……


「ねぇ、クリス。さっきから気になってたんだけど、その人形はなんなの?」


 彼女がさっきから抱きしめていた人形は、人生周回しているボクが初めて見るものだった。

 人形にしては大きめで縫い目がちくはぐ、見るからにお手製というのが分かる。

 彼女はきょとんとしながら、ボクにその人形を差し出した。


「これが何って……貴方よ、ジェット」

「え、ボク? ……ウソでしょ?」


 ボクは思わずまじまじと見つめてしまう。

 毛糸で作られた髪の毛はボクのくせ毛を表現し、編み込みまでしている。瞳は真っ赤な石を使っているようで、とても綺麗な色合いだ。たしかにボクと言われればボクなのだが、唯一納得できない点があった。


「可愛くなぁ~い。ボクはもっとキュートだよ」


 そう、可愛くない。少年期のボクはこう見えて可愛い。

 赤い目になるまで持て囃されていたので、自分の可愛さだけには自信がある。それなのに、この人形のボクはとんでもなく凶悪面をしているのだ。まるで悪だくみをしている悪魔のような笑みを浮かべている。


 ボクがそう言うと、彼女はぷくっと頬を膨らませる。


「そんなことないわよ。ジェットは可愛いわ!」


 人形のボクの頭を撫でていた。


(ねぇ、クリス。どうせ可愛いって言うならボクに言って欲しいなァー)


 人形のボクにジェラシーを覚えるが、こう見えてボクは人生周回中の大人だ。少しは大人の余裕をみせねば。


「でもなんでボクの人形なんて作ったの?」

「前に使用人たちに貴方との会話を見られたでしょ? 一人で虚空に向かって話すのもなんだし、今度からこの子に話しかけてる風に話しかけるから、よろしくね」

(ああ、そんなこともあったな)


 ボクと話している所を屋敷の人達に見られ、それが彼女の母に伝わり「うちの娘にとうとう見えない友達ができてしまった」と落ち込んでしまった。

 クリスなりに考えてくれたみたいだが、結局独り言を言っているのと変わらないのではという疑問は置いておく。


(今までは分身じゃなくて、彼女のウサギの人形を操って一緒に過ごしていたからな。ボクとしては、専用の人形があるのはとても嬉しいんだけど……でも、わざわざボク似の人形を作ることなくない? さてはクリス、ボクの顔が結構好きだな?)


 まあ、そんな冗談はさておき。ボク似の人形を可愛がる彼女に少し呆れながら、ボクは「可愛いからいいか」と人形への嫉妬心を放り投げた。


「次作る時はもっと可愛いのを作ってよね?」

「もちろんよ」


 そう笑う彼女は人形にジェット二号を名づけ、再び可愛がるのだった。



第15話 いつもと違う反応

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