5.死のレガルスクロール
「…ギルド『黒鉄団』はキャシーの特殊職を狙っているんだ、その為にギルドメンバーや私たちのような賞金稼ぎなどを召集している」
その言葉を聞いたウーサは驚きと困惑の表情を隠しきれず焦りを見せる。
「ちょっとまちなさい。え、なに?あなた達はキャシーの職を狙ってるの…?それって…」
「…私も同じなんだけど。」
静かに呟くその声には僅かに震えが混じっていた。
ウーサは後ずさり、慌てて腰のポーチから”レガルスクロール”を取り出す
「えっと…あなた達がキャシーを先に倒しちゃったら私のレガルスクロールの効力は無くなるのよね…?」
不安の眼差しをアメッサに向ける。
ウーサのその手にはしっかりとレガルスクロールが握られている
「そう警戒しなくていい。私が賞金稼ぎをしているのは金銭目当てでもギルドに恩を売る為でもない。」
「…といっても信じて貰えるかは分からないが。このレガルスクロールは独自で手に入れたのか?」
「ええ…そうよ!キャシーが魔女になった翌年に優しい商人からタダで貰ったのよ!」
「タダか…スクロールの内容を見せて貰っても良いか?」
「……フレンドになるから。」
ウーサはためらった様子でいたが、フレンドという言葉を聞いた瞬間目の色が変わる。
「フ…フレ…ほ、本当にいいの!?」
「それなら…いくらでも見せてあげるわ!ほら、みなさい!ふふっ…♪」
声色を高くして嬉しそうにしながらスクロール開く。
アメッサはその内容を確認していく。
だがしかし、そこには思いがけない事が書かれていた。
「効力は特殊職の剥奪、及び対象者の────」
『殺害』
何故ここに…こんなものがある…?
アメッサの心臓の鼓動が早くなり、徐々に呼吸が荒くなる。
喉を締め付けるような息苦しさで足元がふらつく。
…視界が歪み、耳鳴りが聞こえる。
◇◇
懐かしい風景が広がる。
降り積もる雪と暖かい家。
冷たい風が吹く。
早く帰らなければいけない。
一つの影が見える。
それは穏やかな微笑みで私達をいつも見つめていた。
優しい声で語りかけ、心を安らげてくれた。
…耳鳴りがする。
それはゆっくりと広がり、雪を染めていく。
鮮やかな色が永遠の時間を溶かしていくかのように。
ゆっくりと染み渡る。
◆◆
「アメッサ…」
『アメッサ!!!』
ウーサの声が耳に響きアメッサは我に返った。
目の前には心配そうなウーサが立っている。
「ちょっとアメッサどうしちゃったのよ!急にぼーっとして…」
「言っておくけど驚いてるのはわたしなんだから!あなた達がわたしと同じものを狙っていたなんて…!」
ウーサがレガルスクロールをポーチにしまおうとした時アメッサはその手を掴んだ。
彼女の表情には焦燥と緊張が漂っていた。
「これをどこで手に入れた!」
ウーサはそのただならぬ反応に驚き、声を弱める。
「ど、どこでって…これは商人から貰ったのよ…?いたっ…手痛い…」
「そんなはずないだろう…!いったいどうやって…」
「…だから本当に貰ったんだって!それ以外分からないわ…何かいけない事だったの…?」
アメッサはウーサの胸倉を掴み睨みつける。
「…なぜ気づかない。ここに対象者の殺害と書かれているだろう…!」
「え…?」
ウーサの顔には困惑と恐怖が浮かび、体が震え始める。
その怯えた表情にアメッサは少しづつ冷静さを取り戻していく。
(…いや、この子は多分”二世代目”だ。獣人の見た目をしているから両親のどちらかがNPCになる…)
(この世界で産まれたから殺すという本来の意味を知らなかったんだ。浮世離れした言動も環境が複雑だったのからなのかもしれない。)
深呼吸をしてアメッサは手を離す。
ウーサは解放されたが怯え切った表情のままだった。
「ぐすん……もう…いったい何なのよ…」
ウーサは涙をぬぐいながら、アメッサを見上げる。
アメッサは頭を下げた。
「すまない、取り乱した。あのレガルスクロールは魔女…キャシーをこの世界に二度と現れないようにするものなんだ。だから…お前にこれを使わせる事はできない。」
「二度とって…?消えるって事…?そんなことがあり得るの?」
「ああ、私は何年もこのことを追ってきた。その被害者も…この目で見た。」
アメッサは酷く辛そうな表情で視線を落とす。
その様子を見てウーサは小さくうなずいた。
「まだよく分からないけど…分かったわ…これは使わない」
ウーサは一瞬、レガルスクロールを手に取る指先を見つめた。
それは彼女の今までを手放す事を意味している。
「でも…これは私の全部だったんだから…」