3.路地裏の怪物
アメッサは一目散に叫び声の元へ駆け出した。
ハロウィンタウンの賑わいとは対照的に、路地裏は不気味な静けさに包まれている。
暗がりの中、かすかに浮かび上がる光景には、三匹の怪物が一人の女を取り囲み押さえつけている様子が映し出されていた。
最初に目に入ったのはかぼちゃ頭の幽霊だった。
幽霊は長いボロ布をまとい、ランタンの妖しく光る炎が路地裏を照らしている。
その隣には筋肉質な案山子が立っていた。
藁と布でできた身体は異常に逞しく映り、力強い手で女を押さえつけその逃げ場を奪っている。
最後にギロチンを持った死神が女の背後に立っていた。
黒いフードの付いた外套は影に紛れるようで、深い闇の中で光る眼が見える。
鋭い刃を女の首元に近づけ、振り下ろす準備をしているようだった。
「ギロチン!?いやいやいや…!ちょっ…まっ…その死に方は初めてだからっ…!!」
女は慌てふためき動揺する、必死に振り払おうとするがその力は怪物たちに及ばない。
遅れてダンとカシャが到着する。彼らもまたこの異様な光景に驚愕しながらも戦闘態勢をとる。
そして攻撃に差し掛かろうとした瞬間、ギロチンが振り下ろされ女の首に刃がかかる。
「バチンッ!」
鋭い音とともに稲妻が走る。
閃光が暗闇を切り裂き刃を吹き飛ばす、空気中に電流の焼ける匂いが漂う。
≪雷鳥≫
アメッサのスキルであった。
銀製の杭は稲妻を帯び、生き物のように軌道を変える。
その閃光は死神を貫きそのまま他の二匹の怪物にも影響を与えた。
かぼちゃ頭の幽霊はその場で崩れ落ち、筋肉質な案山子は一瞬のうちに焦げ付き消滅した。
しかし、アメッサの警戒は解かれなかった。死神は倒れたわけではなかった。
崩れた身体から黒い霧が立ち上り、再び形を取り戻し始めたのだ。
霧の中で不気味に光る眼がアメッサを見据えた。
「そこの…耳が長いやつ、立てるか?」
路地裏に伏せる耳の長い獣人…のようなものに声を掛ける。
精度が甘かったのか感電しているようだ。アメッサの声に反応し、その獣人はゆっくりと顔を上げた。
体は小刻みに震え、長い耳がぴくぴくと動き、困惑の表情が浮かんでいる。
「た…立てるわよ!ただ少しあんたのスキルでビリビリしてるだけ…邪魔しなかったら私が三匹まとめて倒せたのにっ!」
「動かないでください、この系統の状態異常なら私が治せます。≪クイックエイド≫ 」
カシャは膝を付き、スキルによって痺れを取り除きながら辺りを警戒する。
「この子は私が守ります、今はあのエネミーの討伐を!」
「おうよっ!」
ダンとアメッサは剣を抜き素早く前に出た。
ダンは筋肉質な体を活かし、荒々しくも力強い剣を死神に振り下ろす。
しかし死神は黒い霧に紛れ、その刃を避けるかのように形を変え攻撃を無力化する。
「あぁ…くそっ!魔法じゃないと倒せないみたいなやつか?アメッサ!なんかいい方法はないか!」
「それなら私の前を進んでギロチンを弾け、後はどうにかしよう」
「オーケーそうするよ!」
ダンは鋭い目を死神に向けると一気に距離を詰めた。先程とは代わり剣先を下に構えて受け流す態勢をとる。
狙いが読まれたのか向こうからの攻撃の気配はない、それならばと剣を軽く振り払う。
死神は同じように霧に紛れ攻撃の無力化を行おうとするが、その瞬間スキルが発動した。
≪アンカーヘイト≫
このスキルはエネミーに設定されているヘイト値を一時的にパーティメンバーに付与する事ができる。
カシャがタイミングを見計らい対象はダンに向けられた。彼も見ているだけではない。
死神の怒りがダンへ向きギロチンが振りかぶろうとする瞬間、続けてスキルを発動する。
「オラァ!!≪ヘビィスマイト≫!!」
ガンッと大きな音が鳴り刃が吹き飛ぶ。死神の姿勢が大きく崩れた瞬間アメッサが飛び出す。
剣は火花を鳴らし光り輝き、勢い良く振り下ろされた。
≪雷火≫
稲妻と炎の混じり合う刀身は破壊的な力を生み出し、眩い閃光とともに死神に直撃した。
その衝撃は瞬時に死神の身体を貫き、炎が体を包み込んで形を崩壊させていく。
「やったのか…?」
「ああ、私たちの勝利だ」
二人は顔を見合わせる。
この街での初戦を切り抜けたのだ。