1.賞金稼ぎ
薄暗い森の中、夕暮れ時の薄い光が木々の間から差し込む。木々は空を覆い隠し辺りは静寂に包まれている。
「ガタッ…ガタッ…」
静けさを破るかのように物音が聞こえる、車輪のきしむ音と馬の蹄の音だ。
やがて十数台の馬車が姿を現す。
先頭の馬車は黒い漆で覆われており、金色の装飾が施された車体が薄暗い森の中で微かに光を反射している。御者台には重厚なコートを着た御者が、真剣な表情で前方を見つめながら手綱を握っている。
「いやー、今回の手配書見たか?子供だって?流石にこの人数だったら楽勝すぎるだろ」
最後尾近くの馬車から話し声が漏れる、鎧を身にまとった陽気そうな男が腕を振りながら座っていた。
「子供相手にこの人数…だからこそ慎重になるべきです、きっとリーダーにも何かしらの意図があるはずですよ」
同じく隣には鎧姿の仲間が座っており、落ち着いた佇まいをしている。
「手配書の”レガルスクロール”が出た瞬間に主力メンバー以外の人員を総動員して…今はギルド抗争の最中だろ?こんなにリソースを割くほど価値のあるモノなのかねぇ」
レガルスクロール…法の効力を宿した魔法の巻物であり、書かれている内容は様々。この巻物は一定以上のpk行為や犯罪行為を犯した者に対してのみ使用が許される、対象の元で巻物をかざしhpを0にする事でその効力を発動する。
「効力は特殊職及び領地の剥奪、おそらく本命は前者の方でしょうね。リーダーは膠着状態を破るために強力な力を手に入れよとの考えなのでしょう」
「まぁ…それは分かるけどよ…今回は野良の賞金稼ぎ達も作戦に入れてるんだろ?」
二人は馬車の一角で目を瞑っている女を見つめた、特徴的な白い鎧に聖印の刻まれた鞘が腰に下げられていた。
「あの鎧はパラディンのもの…賞金稼ぎとしては珍しいですね」
「…賞金稼ぎなんてどこも訳ありみたいなものだろ」
御者の合図で目的地に近い事を知り、男は肩をゆする。
「おいそこの女そろそろ着くぞ、金払ってる以上最低限の働きはしてもらうからな」
女はゆっくりと顔を上げ髪をかき分けながら口を開いた。
「起きてるよ、あと…あまり余所者の前でギルドの内情は話さない方が良い」
「忠告ありがとよ」
男は口をとがらせて腕を組む、仲間に肘で突かれてじゃれ合った様子でいる。
馬車の行列は不気味なかぼちゃで装飾された町の入り口に差し掛かった。
薄暗く煌めくランタンやかぼちゃの灯りが街道を照らしている。
馬車はアーチの下をゆっくりと進み、馬たちは疲れたように息を荒げながら御者の指示に従って停止する。
「まぁなんだ、お互いに名前を知っておかないか?同じ馬車に乗ったのも何かの縁だ、協力しようぜ」
男は勢い良く馬車を降り、振り向いた後に自己紹介をする。
「俺の名前はダン、職はソルジャー/ファイターで剣の扱いが得意だ。近距離から中距離のレンジなら任せてくれ」
「あと…」
続いて仲間のもう一人が自己紹介をする。
「私の名前はカシャです、職はナイトで主に仲間を守ることが得意です。スキルで10メートルの距離ならカバーができるので遠距離や不意の攻撃は任せてください。」
二人はこの作戦への意気込みを感じさせつつも、軽くポーズを取ったりで浮かれた気分でいるようだった。
おそらく誰にでも武勲を挙げられるチャンスをものにしたいのだろう。
二人の肩を軽く叩き口を開く。
「私の職はパラディン/ローグ、味方へのバフや足止めが得意だ。ある程度臨機応変に動けるから君たち二人に合わせるよ。」
「それと…名前はアメッサだ、よろしく」