プロローグ
今でも瞼を閉じると、あの声が聞こえてくる。雨音と優しい声が。
雨が降りしきる冷たい夜、少女は恐怖と孤独に震えていた。
濡れた服の寒さが骨の髄まで染み渡り、雨音はその心細さを一層強める。
そんな中声が聞こえた。
「大丈夫?パパとママはどうしたの?」
声の主は傘を差した修道服の女性だった。温かな眼差しが母親を重ねたのか、自然と涙が溢れた。
事情を察した女性は少女をそっと抱き寄せ、傘の中に入れる。
その温もりは冷え切った心と体に染み渡るようだった。
「わからない…気がついたらいないの…ねぇ、ここはどこ?パパとママにはいつ会えるの?」
シスターは曇った表情で子を見つめ、静かに口を開いた。
「…あなたのパパとママにはもう会えないかもしれません」
その言葉に少女の顔は一瞬にして凍りついた。
耳に入ってきた言葉の意味を理解しようとするも、頭の中は混乱していた。
少女は理解を拒むかのようにシスターを振り払い、走り出した。
「はぁっ…はぁ……」
視界は涙と雨水が混じり合いぼやけていた。前も見えないまま少女はただ無我夢中で走り続ける。
ここへ来て一日が経とうとしている、ここが元居た世界じゃない事を理解していた。
そして両親に会えないことも。少女はそれを否定したかったのだ。
泣き疲れた少女は街角に座り込む。少女にとっての当たり前はどこにも無かった。
少女の傍にシスターがそっと屈み、優しく声をかけた。
「ごめんなさい、私はあなたのパパとママではないの。でも私は…あなたの助けになりたいのです。」
少女はシスターの言葉と力強く握られた手の温もりに戸惑う。
シスターは優しく微笑み、少女の目を見つめ続けた。
「私はマリー。リリィヘイヴンという所であなたと同じくらいの子どもたちと一緒に暮らしているの。…今日は私の家で温かいご飯を食べて、ゆっくりと休んでいってね」
マリーの言葉に少女は少しずつ心を開き始める。
涙を拭いながら少女はゆっくりと立ち上がり、手をしっかりと握り返した。
二人はゆっくりと歩き出し、雨の中を進んでいく。
だが分かっている、これは夢なのだろう。マリーはもういないのだから。
過去の温もりを胸に秘めながら、今日も冷たい世界で生きる。死んだように、ただ惰性的に。
初めまして。
感想くれたら尻尾を振ってよろこびます。