4話
お昼ご飯を食べた後にゲームコーナーにやってきていた。
お昼ご飯中はむくれていた2人だったけどゲームコーナーで見つけた、ハンドルで操作するタイプのマリオカートでタケル、シンジとそれぞれバトルした私は負けて機嫌をもどした2人。
全力でやったけど負けちゃった、悔しいー。
ムカつくから自分の中では接待プレイをしたという事にして納得させた。
そして、ブラブラしながら楽しそうなゲームを探しているとUFOキャッチャーが並んでいる中の1台に可愛いネコの顔の形をしたクッションを見付けた。もこもこで触ると気持ちよさそうな手触りの毛並みをしているその子と目が合った。
可愛い! 絶対あの子を家に連れて帰ろう。
「ね! あれ取りたい!」
UFOキャチャーの台を指して2人に教える。
「見えるあれ? 三毛猫のクッション! あれ欲しい!」
「うーん? あ、あれか。デカくね?」
「タケル、お金出すから取ってよお」
「よし、取ろう」
「ありがとう。二人にあのネコの命運を託すよ」
「なあ、タケル。あのネコを取った方が小夏と二人きりで遊べるって権利を賭けて勝負しようぜ?」
「よっしゃ! 望むところだ!」
「ちょ、ちょっとー、意義あり! まず一つ目、私の許可を取ってない。そして二つ目、あの三毛猫がそんな勝負に巻き込まれるのが可哀想。あの子が私の家に来たそうな目をしてたからUFOキャッチャーの檻から救い出してあげるの。そして三つ目、私はシンジ、タケルと個別で遊ぶより三人で遊びたい!」
「へーい。つまんねーなー」
「小夏がそう言うなら仕方ないか」
2人に1000円を差し出して両替を促して私はお目当てのUFOキャッチャーの台へと向かった。
今日はあの子抱きしめて一緒に寝るんだぁー。
「うわーなかなか取れねえー」
「重心があそこだから、次はもっと右か?」
今日の三毛猫は手強かった。
二人のクレーンを動かす姿を何度見たことか。
そして三毛猫にクレーンが近づく度に、何度お家においでと祈ったことか。
お財布の中を確認すると1000円札が1枚だけだった。うーん、ちょっと悩んだけれどこれはお金の問題じゃない。
あの子を助けられるかどうか、っていう動物愛護的な問題なのだと自分に言い聞かせる。
タケルに両替をお願いすると、ついでにトイレ行ってくると離れていった。
お金が無くてする事が無い私は後ろにあるUFOキャチャーに背中を預けるとシンジも私の横に並ぶ。
あの子がなかなか出てきてくれないのは運もあるのかな?
「最近、私ツイてないから運が離れていってるのかもなー」
「んー。何の話?」
「次の公式戦でスタメンから外れたんだよね」
「マジ? 何で?」
「後輩の実力見たいから外れてくれって監督が言ってた」
「監督の言ってる事は分かるけど、実力見たいか、うーん。……何か俺が腹立ってきた。月曜日に監督と話してみようかな? 小夏をスタメンにしろって」
「えっ? やめてよ。シンジが監督との間に入ったらややこしくなるでしょ」
「そっか。じゃあ、やめる」
「私が本当に不安なのはレギュラーを取られちゃう事なの。結構、努力したつもりなんだけどな……」
「平気だって! 小夏が努力してんの俺、知ってるから」
「……」
「俺が凄い覚えてんのがさ、バッティングセンターにすっげー通ってた時の事で俺もほぼ毎日付いて行ってたじゃん。小夏は手にマメ作りまくってさバット持つの痛いって言って泣きべそかいてんのに、それでもバット振るんだって、上手くなるんだってやめねーの」
笑顔をつくりながら楽しそうに話すシンジ。
「……うん。あったね」
「笑えたのがバッティングセンターに行く金無いから付いて来いって俺ん家来てさ。俺はお前の財布かって怒ったよな」
「……ははは。酷い事してたね、私」
「まあ、良く分かんない話したけど、とにかくお前の努力してんの知ってるやつは知ってるって事」
「あ……ありがと……」
不思議な時間が流れる。
私とシンジは言葉を失ったように口を開かない。
聞こえるのはUFOキャッチャーのゲーム音だけ。
いつもふざけてるシンジからの真っ直ぐな言葉に心が落ち着かない。
何が起きているのか自分でも分からない。
「小夏ー、お待たせ。……あれ? どうしかした?」
「ううん、何でもない。ただタケルの事待ってただけ。お金無くなっちゃったからする事なくて」
「ふーん」
結局、この日は私のお金が尽きて試合終了となった。
だけど、私は諦めてなかった、お小遣いを貰ったら2人を連れてまた来るのだと心に誓っている。
三毛猫クッションにはごめんねと心の中で謝っておいた。