3話
次の日、まだ心が晴れないでいた。
でも、今日は駅近くのショッピングモールへ出掛けるのだ。
気分転換になると思い、昨日の夜タケルから誘いの連絡が着たので行く返事をしておいた。
今は集合場所の駅前広場にある噴水前に立ちタケルを待っている。スマホの時計を見ると9時50分、10時に待ち合わせなので丁度良い時間に着いた。
タケルは几帳面の性格だからもうすぐ来るだろうなと思っていると。
「小夏、待たせたか?」
「ううん、待ってないよ。さすがタケル、時間に遅れないね」
「そうか? あんまり意識したことないけど普通だろ」
「あははー、そういう所は本当にタケルっぽいねー。好きだなー、そういうとこ」
私の言葉に何かおかしな所でもあったのかタケルは、眼鏡のフレームの中心を人差し指で抑えて眼鏡のズレを直す様な格好のまま何秒か静止している。
「どしたの? あれ? ちょっと顔赤い? 熱でもある?」
「ち、ち、違う、違う、熱なんかないって大丈夫だから」
物凄い否定の仕方だったタケル。
本当に熱でもあるんじゃないかと心配になった私がタケルの顔を覗き込もうと近づくと、近付くなと言わんばかりに掌を私に向け静止させ、後ずさる。
あっ、そっかこれはもしかして。
「タケルー。もしかして照れてる?」
ニヤニヤしてからかってみた。
「全く違う!! 断じてそんな事はない」
これ以上からかうのも可哀想だし止めてあげる事にしよう。でも照れてるタケルが面白くてニヤニヤが止まらなかった。
「タケル。じゃあ行こうか」
「そうだな」
「……気軽に……好きだとか言うなよ……」
ボソッとタケルが呟いた気がしたのでタケルに何か言った? と聞いたのだけど、何でもないと私を追い越しスタスタ先に行ってしまう。
「タケルー、どこ行くの?」
「えっ、ショッピングモールはこっちだろ」
「そーなんだけどー。あと15分だけ待ってくれない?」
お願いと顔の前で両手を合わせる。
「うーん、まっいいけど。何の時間調整? 何かあるの?」
「いえいえ何もありませんよ」
タケルから顔を背けて何の感情も込めずに言ったけど、見知らぬ人が私の顔を見たら、きっととても悪い顔をしているんだろう。
ふっふっふ、タケルごめんね。何かあるから待っているのです。
「じゃあさ、時間までそこのベンチで話ながら待つのはどうでしょうか、タケルさん」
「い、いけど、何か急に変なスイッチ入ってない? 突然、敬語使いだしたし」
「何でもないよー。早くここに座ろーよ、こーこ」
駅前の常設されている茶色いベンチに座り隣に座るようにベンチをぺちぺち叩いてタケルを促す。
「分かったから。急かさないでくれよ」
タケルが隣に座ったので何を話そうか考える、無難に学校の話題がいいかな。
「タケルは頭良いし、成績もいいじゃん? 高校になってから更に磨きがかかったよね。家でも勉強してるの?」
「うーん、家で勉強はしないな」
「え? そーなんだ、知らなかったー。でもそれでテスト順位が必ず上位って私には考えられないよ。いいなー。私は毎回赤点ギリギリ、情けなくなっちゃうよ」
「小夏は器用じゃないんだよ」
「ん?」
「小夏は一つの事に集中したら、それに一直線。一つの事を努力して頑張る。今、頑張ってるのはソフトボール。ソフトボールを頑張ってるのに勉強まで頑張れる程、小夏は器用じゃないからね。昔からそんな性格の小夏が今さら変わらないでしょ」
「……うん」
「だから何が言いたいのかっていうと、今の小夏のままで大丈夫。赤点取らなきゃそれでオッケーだし、もし小夏が部活やってなかったら、勉強だってそこそこ出来たんじゃないかな。それにソフトボールやってる小夏って格好いいよ。だから今のままで大丈夫」
「……ありが……と」
恥ずかしくて言葉が最後にいくにつれ小さくなってしまった。
何だか自分が認められているのが照れくさくて、恥ずかしくて、でも嬉しくもある。なんだか普通でいられない。
「小夏、下向いてどうしたの?」
「んー? ……か、考え事、考え事してた」
「ふーん。小夏が考え事なんて珍しい。言えることがあったら言ってよ、聞くからさ」
と笑顔を向けられた。その表情に心臓が跳ね上がる。
……あ、あれ? ……なんか……おかしいな。
いつものタケルなのはずなのに、向けられたタケルの顔を見られなくてうつ向いてしまう。
なんでだろ?
そんな事を考えていたら声がした。
「小夏、お待たせ。ってゆーか、なんでタケルがいんだよ」
「あれ? シンジ来たの? 今日小夏と二人きりでっていう予定なんだけどなんの用?」
「俺も小夏と二人きりで遊ぶ予定だけど?」
「「まさか、小夏ーーーー!!」」
そう。ダブルブッキングしたのは私。
私が悪いんだけど久しぶりに三人で遊びたかってから立てた計画だった。
でも二人とも凄い怒ってびっくりしちゃった。お前が帰れ、お前こそ帰れよって二人とも言い合ってどんどんヒートアップするから声がデカくなって回りの人達から注目浴びちゃうし。
近くで見てるしか出来なかった私にも何故か視線が集まって恥ずかしいし。
シンジにはやり方がきたないって言われて、タケルには小夏にしては考えた方だなって、冷たい目をされるし、二人とも酷いよ。
ちょっとカチンときたから、私が三人で遊ぼうって誘ったら断るでしょうが! って怒っちゃった。
はぁー、精神的に疲れた。