2話
文字数があって長いと感じたので1話目を分割しました。なので読んでくれた中には内容が被って混乱された方がいるかもしれません。
そのような方は3話目からご覧下さい。
申し訳ないです。
監督がバットとボールを持ち内野のノック練習をしている。
私は外野手なので内野が逸らして取れなかったボールを拾いにいく。
時間的にも、そろそろ練習が終わる頃かなと思っていると監督が「これでラストなー」とボールを打った。
セカンドがゴロのボール取りファーストに投げて今日の練習が終わった。
皆が小走りでボールを拾い、ネットやその他、諸々の道具を片付けていく、全部の片付けが終わると監督の前に部員が整列する。
いつもは監督の練習総括の話を聞き、解散になる。
今日は最後に再来週にある公式戦のスタメンの発表になった。私の打順は1番で守備位置はレフト。
私は監督に1番レフト月下と私の名前を言われるのを待っていた。
「えー、再来週にある公式戦のスタメンを発表する。1番レフト鈴木ーー」
……えっ!? なんで? 私じゃない!
その後もスタメンを発表する監督の言葉が頭に入ってこず。何で、という言葉だけが頭を巡る。監督の解散という一言で皆がちりじりに部室に入って行くと加奈枝が私に寄ってきた。
「千夏! 何でスタメン外れちゃったんだろう?」
と声をかけられるまで、呆然としていた。
そこでハッとして、徐々に怒りという感情が沸いてきた。
私だって誇りがある。
努力もしなかった訳じゃない、私がヒットを打たないと塁に出て得点を取れるチャンスが少なくなるから、バッティング練習もした。
自分の苦手な変化球や苦手なコースを練習して、どんなボールがきても絶対にヒットを打ってやるという気持ちで練習して結果的にチーム1の出塁率を誇っている。
そうして私は一年の頃から少しづつ出場機会を増やして掴んだレギュラーだった。
横で心配そうにしている加奈枝に向かって言う。
「ごめん、加奈枝。ちょっと監督に話に行ってくる」
「えっ!? 今更、監督に言ってもスタメンは変わらないんじゃない?」
「……そーかもしれないけど、私をスタメンから外した理由を監督から直接聞かないと気が済まないもん!」
「そっか。小夏、1人で大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
「小夏が帰ってくるまで待ってるからね」
「ありがとう」
心配そうな表情の加奈枝を残して監督の後を小走りで追う。
乗降口から二階に上がると廊下を歩く監督の後ろ姿が見えた、「監督待って下さい」と背中に向かって呼び止める。
「月下か。どうした?」
監督と会話できる距離まで近づくと、私は直球で切り出す。
「何で私がスタメンじゃないんですか?」
「それなんだけどな、鈴木がどれくらい試合で使えるか試したいんだ。場合によっては途中交代もあるから、ちゃんと準備しとけよ」
「……そうなんですか、分かりました」
それじゃ、と監督は行ってしまった。
鈴木ちゃんを試すならなんで練習試合じゃないんだろうとか、本当に私に出場の機会が来るのだろうかとか不安な気持ちを抱えて、ぐるぐる思考が止まらず下を向いてゆっくり部室まで向かっていくと部室の扉の前で待っていてくれた加奈枝がいた。
「小夏、下向いてどうしたの? 監督は何だって?」
「……鈴木ちゃんを試合で使えるか試したいんだって」
「そう。でも何でそんなに落ち込んでるの?」
「……鈴木ちゃんの能力を見たいのなら、何で練習試合でじゃないのかな? 公式戦でもし負けたら、そこで終わりなっちゃうし。私のレギュラーを鈴木ちゃんに取られちゃうんじゃないかな? こんな事初めてで、不安な気持ちが収まらないよ」
「大丈夫だって。3年生も小夏の活躍を認めてるし、監督含め皆が小夏が頑張ってるの知ってるよ、そんなに簡単にレギュラーから外れないよ」
「……そーかなー?」
「もしレギュラーから外れる事になったら部員全員を引き連れて監督に抗議するよ」
加奈枝はニコッとして任せなさいとばかりに胸を張る。
「心配してくれて、ありがとー」
「全然心配なんかしてないしー」
「なにそれー」
素直じゃないなとは思ったけれど、加奈枝のおかげで笑顔になれた、そんな親友の存在が嬉しい。
2人で着替えて帰り支度をして家が反対方向の加奈枝とは校門の前で別れた。
加奈枝が居なくなると不安が押し寄せてきて、また下を向いてしまう。
心に渦巻くモヤモヤが晴れないまま、すっかり日が落ちた薄暗い道を自宅へと歩いていった。