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15話 谷塚さんといつかの回想③

 女の子はお兄さん達と電車でこのあたりまで来たらしく、土地勘がないということだった。お兄さん達に付いてきただけなので駅の名前もおぼろげではっきりと覚えてないらしい。


 はぐれたのは一時間前で道路の白線から落っこちないように歩いて気付いたら迷子になってしまったらしい。


「お姉さん、私、このまま帰れないのかな」


 そこまで話して冷静になったのか、女の子は半べそをかいて下を向く。


「そんなことないよ。お姉さんと一緒に待ってよ、ね?」


 話を聞く感じだと、お兄さん達もすぐいなくなったことに気付いて今ごろ探しているはずだ。下手に動いて入れ違いになるよりここで待ってた方が出会う確率が高い。


「このままお兄ちゃんに会えないのいや。お兄ちゃんに会いたい……」

「うん、お兄ちゃん達ならきっとマイちゃんのこと見つけてくれるよ。マイちゃんに今できるのはここでじっと待ってることだよ」


 お姉ちゃんはいいのかよ、と言いそうになったがそんな状況でもなかったのでこれもスルーしておいた。だいぶお兄ちゃんにご執心なようだ。


「お兄ちゃんのこと好きだよね?」

「うん、大好き! すっごい好き! 将来お嫁さんになるの!」

「そう。なら待ってなきゃね」

「うん! 待ってる!」


 納得してくれたようで姿勢を正しくして、彼女なりの待ちの構えになった。だがしばらくして「疲れた」と姿勢を崩しベンチにもたれる。思わずかわいいと叫びそうになったがなんとか「かっ!!」までで抑えた。発作を起こしたみたいになり心配されたので最後まで言い切ってしまえばよかったと後悔する。


「ちょっとこれ一緒に見よ」

 

 ベンチにただ座っているだけでは暇なので私は、バッグからプロフィール帳を取り出す。


「あー、それ学校で流行ってるやつかも! 他人のプロフィール見て面白いか不安だけど見る見る!」

「心の声はしまっておいて」


 最初はそこまで乗り気ではなかったマイちゃんだが、私がクラスメイトのことを補足して話すことでけっこう食いつきがよくなりそれなりに楽しそうにしてくれていた。


 自分でも意外だったが、思いの外クラスメイト一人一人との思い出がちゃんと話せて、みんな分け隔てなく仲良く接してくれていたんだなあ、と改めて感謝する。


「あ、そしてこれが私の」

「お、一番最後だったんだ! たにづか? 言いにくい名前。たっちゃんって読んであげる」

「いやいや『やつか』ね。確かにたまに間違われるけど」

「そうなんだ! じゃあやっちゃんね!」

「好きに呼んでくれていいけどさ」


 素っ気なく返したが思い返せば人生であだ名なんてつけられたことなかったので心の中の私はだいぶ踊り狂っていた。


「やっちゃん、好きなものナポリタン大盛って何? 別に量聞いてないじゃなん」

「ん、マイちゃんはわかってないなー。ナポリタンはバカみたいな量を平らげるのがいいんじゃん」

「でもお腹いっぱいになって食べられなくない? 残しちゃうのもったいないよ」

「え? 大盛でお腹いっぱいになるわけなくない?」

「ん?」

「え?」


 なにかおかしいことを言ったのだろうか。マイちゃんは何故か聞かなかったフリをして再びプロフィールに目を落とした。


「あれ、やっちゃんだけ好きなところ書かれてない?」


 そうしていくと、右側のページの空欄を指差される。そりゃ一人だけ書かれてないから指摘してしまいのも無理はない。


「うん、私書いてもらう前に転校しちゃって」

「え、あ、そうなんだ……ごめん。悪気はなかったの」


 私の表情の陰るのを見て、マイちゃんが申し訳なさそうにまたうつむいた。


「いや、ごめん全然気にしてないよ全然!」


 こんなかわいい子に余計な気をつかわせてしまうとは情けない。どうしたものかとあたふたするもなにかいい案が出てくるでもなく、悩んだ末、古典的な方法を取ることにした。


「マイちゃん見て!」

「ん……え、なにその顔!? どうなってるの!?」


 顔を上げたマイちゃんの前には私の変顔が現れ、一気にノックアウト。吹き出すように笑うとしばらくお腹を抱えて笑い転げていた。お風呂で表情筋を鍛えていた副産物として得たこの変顔は我ながらいいできだと思う。それも恐ろしいことに私のレパートリーはまだ尽きていない。


「ちょ、もうやめて……笑い死んじゃう……」


 マイちゃんは私の変顔の追撃にもう笑いを通り越して苦しそうにしている。人に披露したことがなかったのでどうなるかと思ったがこれはいいデビュー戦になったんじゃないかと思われる。


「マイ。ここにいたのか」


 テンションが上がっていたことが災いし、私は近づく足音に気づかなかった。誰かの声がしてバッと振り向くと私と同い年くらいの男の子が立っていた。


 男の子と目が合いコンマ数秒。自分が変顔を保ったままだと気づいた時には遅かった。


「ちょ、え、ま……」


 男の子は膝から崩れ落ち、その場でお腹を抱えて笑い出す。それはもう、嘘みたいに思いっきり。


「それ、どうなって……普通そこはそうならない……だろ」


 どうやらにらめっこの才能はだいぶあるらしい。不意討ちとはいえ二戦目も秒殺でノックアウトだ。とか思っていないと恥ずかしい気持ちで顔から火が出そうだった。


 そう、なにを隠そう(隠せるものなら隠したいが)、これが私と羽沢くんとの最初で最悪の出会いだった。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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