4:吾輩は機械である
早速、俺は薬草が生えているという森やってきていた。
見渡す限りの木、木、木。葉が大量に付いているせいであたりは薄暗いが、ところどころから差し込む木漏れ日が思いのほか心地よく、思わずふぅと感嘆のため息を漏らしてしまう。
こんなに緑あふれる場所に来たのはいつぶりだろうか。
少なくとも社会人になってからは一度もないのは確かだ。
旅行に行く金も気力も時間も無かったからな。
元の世界での苦い生活を思い出しながらこの場に満ちる澄んだ空気を思いっきり吸い込む。
「すぅ~……はぁ~……あ~いいな。自由だ。素晴らしい」
元の世界では絶対にできなかったであろう行為に自由を感じる。
だがずっとこうしているわけにも行かない。
確かにここの空気は気持ちいいし雰囲気もいい。正直ずっとここに居たいとすら思えるが、俺には今なさねばいけないことがあるのだ。
何を、というのは言わなくても分かるよな?
そう、人が生活するうえで必要不可欠な物、『金』を手に入れるため薬草を集めなければいけないのだ! どのくらい必要なのか分からないから出来るだけ大量に!
しかし焦ってはいけない。いくら金が必要とはいえここは街の外。モンスターが出現する場所なのだ。
薬草採取よりも先に自分の能力について調べる必要があるだろう。
「『ステータスオープン』!」
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『アハト』
種族 機械人形
職業 勇者
性別 不明
レベル 1
体力 15
魔力 30
持久力 ∞
筋力 15
技術 20
敏捷 10
種族特性 20
幸運 15
『種族特性』
《融合進化》
『技能』
【自己改造】【展開】【聖剣召喚】
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改めてステータスを見る。
まず驚くのは持久力の項目にある∞の文字だが、よく考えてみれば俺はロボットだからな。スタミナ切れを起こしたらそっちの方が異常事態だ。
なのでこれはそこまで気にしなくていい。
職業が勇者となっているのも、ゲームの主人公として転生したのだからある意味当然と言えるだろう。
だからこれも気にしなくていい。そもそも職業なんて試しようがないしな。
「問題は種族特性と技能についてだが……う~む、とりあえず技能から順番に試していくか」
《融合進化》は最後に取っておくとしよう。見た感じこれがメインっぽいし。
そうと決まれば全は急げだ。
俺は早速技能【自己改造】を発動させる。
「【自己改造】!」
瞬間、俺の目の前にパソコンのウィンドウのようなものが出現した。
そのウィンドウの中心には機械人形としての俺の姿と酷似した模型のようなものがでかでかと表示されており、その模型の各部位を現すように線が引かれその先に頭、腕、足、などそれぞれの部位の名前が書かれていた。
なんとなく、俺は頭という文字をタッチする。
すると、新たに二枚のウィンドウが出現した。
片方は頭部が拡大された状態で表示され一枚目と同じように目や鼻と言った各部位の名前が書かれたウィンドウ。
もう片方は一枚目や二枚目とは打って変わってびっしりと文字が刻まれたウィンドウ。
俺は三枚目のウィンドウに書かれている文字を見て目を見開いた。
「これ、プログラミング言語じゃないか! それも仕事で使ってたやつ!」
三枚目のウィンドウを上から下へとざっと見てみたがまず間違いないだろう。
詳しく見てみないことにはどういった役割のプログラムが組んであるのかはまでは分からないが、おそらく俺自身を制御するプログラムといったところではないだろうか。
ゴクリと唾を呑み、恐る恐るプログラムのウィンドウに触れる。
瞬間、パソコンのキーボードのようなものが手元に出現した。
扱える言語のプログラムと新たに出現したキーボード、そして【自己改造】という名前も加味すればもはや確定だろう。
「ははっ、すげぇな。自分自身のプログラムを自由に書き換えれるのか。イカれてる……」
プログラミングにエラーというのは付き物だ。
大小はあるが必ずと言っていいほど発生する。
本来ならエラーが発生している部分を特定し修正すれば良いだけの話なのだが、今目の前にあるのは自分自身の、それも頭部という重要部位のプログラムなのだ。
そんな場所で万が一エラーなんて起こしたら俺は一体どうなってしまうのだろうか?
エラーが起きた時、俺の意識は本当にあるのだろうか? あったとして、改めて修正することは可能なのだろうか?
考えうる最悪の事態を想像し、俺は身体をブルリと震わせた。
絶対に! 書き換えるとしても絶対に! 頭部だけは弄らないようにしよう。あまりにも危険すぎる。
他の部位で試すにしても危険度を考えれば詳しいチェックは街に帰った後、いろいろ落ち着いてからの方が良いだろう。
ふぅ……と深いため息をつき、俺は改めて能力の確認を再開する。
次は【展開】だな。
「【展開】!」
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展開できるパーツが存在しません。
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目の前に出現したプレートに思わず眉を顰める。
「パーツってなんだよっ?」
どうやらこの技能も現段階では使用できないらしい。
「じゃ、じゃあこっちはどうだ? 【聖剣召喚】!」
瞬間、黄金色に輝く剣が虚空に出現した。
剣身の鍔も柄も何もかもが黄金色のその剣は、聖剣というより宝剣と言った方がしっくりくる気もするが、それは今気にすることではないだろう。
ようやくまともに使えそうな技能に当たったことに内心で安堵する。
一瞬あれ、俺戦えないのでは……? と心配になったが、こうして聖剣が手に入ったのだから一安心だ。
……武器を出せるのとその武器を扱えるかは全くの別問題だが、まぁ何とかなるだろう。最悪持久力∞をフル活用して全力で逃げれば良いだけだしな!
戦闘になった時のことは後回しにし、早速聖剣を手に取ってみる。
「軽っ、え、これ金属じゃないのか⁉」
木の棒程度の重さしかない聖剣に驚愕する。
普通の剣というものを持ったことがないので比べることはできないが、少なくともこの聖剣よりは重いだろう。
流石異世界……いや、技能で創ったこの武器が特殊なのか?
今度武器屋さんにでも行って比べてみるか。
そんなことを考えながら聖剣を数度振ってみる。
そこまで速く振ったわけではないのに、剣先に触れた草や木の枝がまるでバターのようにあっさりと切断されてしまった。
聖剣という名に違わぬ切れ味に、俺は思わず顔をにやけさせる。
剣と言えば魔法と並ぶ異世界の定番。それが今俺の手の中にあり、振るっているというこの状況が俺をなんとも興奮させた。
ひとしきり聖剣の切れ味を確かめた後、俺はいよいよメインディッシュを試すことにした。
「次はいよいよ種族特性か。」
種族特性《融合進化》。ゲームの詳細のところに詳しく書いてあった気がするが殆ど読み飛ばしてしまったせいで能力の詳細は覚えていない。
ただ、物を取り込むことでそれに応じた何かを得る、みたいなことが書いてあった気がする。
……これだと肝心のどうなるかの部分が分からないな。
こんなことならもっと真剣に読んどくべきだった。
「……まぁ、実際に試してみれば分かるか」
結局それしかないのだから、思い出せもしない記憶を掘り返すのはやめてさっさと使ってしまおう。
何よりそれが一番手っ取り早い。
俺はその辺に落ちていたこぶし大の石を手に取ると、それに対し種族特性を発動する。
「《融合進化》」
そう口にした瞬間、石を持っている方の腕が縦に割れた。そしてその中から太いアームのようなものが伸びてきて石を掴むと、そのまま腕の中へと消えていった。
ほどなくして縦に割れていた腕がくっつき元に戻ったのを見て、俺は改めて自分が機械であることを自覚する。
……これは、どういう感情なんだろうな。
別にたった今自分が人間ではない知ったわけじゃない。
身体は自分のモノじゃないし変な線は入ってるしステータスボードの種族欄にはちゃんと機械人形と書いてあった。
それでも、実際にこうして自分が人間ではない証拠をまざまざと突きつけられるとなんとも言えない微妙な気持ちになる。
別に機械の身体になったのが嫌というわけではないのだが……少なくとも、つい先程まで人間だった身としては自分の腕がパカッと開く光景というのはあまり気分のいいものじゃないな。
少し下がってしまったテンションを元に戻すために一度大きく息を吐くと、改めて先程石を取り込むと同時に出現したプレートを見る。
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対象物との融合により以下の『追加パーツ』と『技能』を獲得しました。
『追加パーツ』は【展開】に格納されます。
『追加パーツ』
・石生成機構
『技能』
・外皮石化
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……なん、だって?
プレートに書いてあることが信じられず慌ててステータスボードを再出現させる。
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『アハト』
種族 機械人形
職業 勇者
性別 不明
レベル 1
体力 15
魔力 30
持久力 ∞
筋力 15
技術 20
敏捷 10
種族特性 20
幸運 15
『種族特性』
《融合進化》
『技能』
【自己改造】【展開】[+石生成機構]【聖剣召喚】【外皮石化】
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本当に、プレートに書かれていた二つがステータスに追加されていた。
その辺に落ちていた石を取り込むだけで新たな技能を獲得って……もしやこれはチートなのではなかろうか。




