3:冒険者ギルドへようこそ!
騎士の詰所を出て徒歩5分。
ようやく冒険者ギルドと思われる場所にたどり着いた。
「ここが冒険者ギルドか」
目の前に聳え立つ建物を見上げる。
他の建物に比べ一回りも二回りも大きく、ごつごつとしたその見た目はいかにも荒くれ者どもが集まっていそうなオーラを醸し出している。
想像以上に想像通りなビジュアルに、意図せずワクワクしてしまう。
逸る気持ちを抑えつつ、傷ついた両開きの扉を押すと、ギィィィという鈍い音を立てて扉が開いた。
早速冒険者ギルドに足を踏み入れる。
意外にも中はガランとしていた。
皆仕事に出ているのか、受付嬢と思わしき女性達と掲示板のようなものの前で何やら話し合っているパーティーが一組いるだけだ。
周囲をきょろきょろと見渡しながらまっすく受付嬢の下へと向かう。
「あの、冒険者登録? をしたいんですけど」
「冒険者登録……ですか?」
受付嬢は俺の全身を一瞥して、とても嫌そうな顔をする。
まぁ、今の俺の格好はとてもじゃないが冒険者になってモンスターと戦おうという人間の格好には見えないよな。
だがここで断られてしまうといよいよ生活できなくなってしまうと思い、俺はあくまでも強気に聞き返す。
「何か問題でも?」
「登録自体は問題ないのですが……その、失礼ながら、その恰好で依頼を受けるのでしょうか? 掲示板に張り出されている依頼は街の外に出て行うものが殆どです。当然ながらモンスターと戦闘になる場合も多くあります。ある程度装備が整っていないと命に関わるのです。ですので、その――」
受付嬢の表情を見た感じ、俺を死なせたくないというより勝手に死んでこっちに迷惑をかけないでほしいというニュアンスの方が強い気がするが、こっちだって引けないのだ。
こうなれば道中考えていたとっておきの文句を使うとしよう。
「あ~俺種族的に頑丈なんで、特に防具とか必要ないんですよ」
「種族、ですか? 失礼ですが、人間ではないのですか?」
「違いますね。俺は『機械人形』です」
「え⁉」
受付嬢が驚きの声を上げると同時に、掲示板前に居た冒険者たちも一斉にこちらを向いた。
その顔には等しく驚愕の表情が浮かんでいる。
「そんなに驚くことですか?」
「お、驚くに決まっているじゃないですか! 機械人形と言えば自分たちの国に引きこもって外に出てこない激レア種族ですよ⁉ それがこんな遠くの街まで来るなんて、とても信じられません! 証拠としてステータスボードを見せてもらってもよろしいですか? もちろん種族だけで結構ですので!」
種族だけ見せるなんてことも出来るのか。
不可視化した時とは逆で種族だけ見せたいと思えばいいのかな?
「『ステータスオープン』」
どうやら俺の考えは正しかったようで、目の前には種族の項目だけのステータスボードが出現した。
それを見た受付嬢の表情が更に驚愕に染まる。
「し、失礼しました。確かに機械人形であれば武装は内側に仕舞っておけると聞いたことがあります。であれば、付けている装備の有無はそこまで問題ではないのですね……」
どうやら納得してくれたようだ。
正直なところ機械人形が他より頑丈かなんて知らないし、受付嬢が言った武装を内側に仕舞っておけるというのも初耳なのだが、せっかく納得してくれているのにそこを深堀するというのは藪蛇だろう。
ここは全くその通りですとでも言うような堂々とした態度でいればよいのだ。
「あの、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あぁそう言えばまだでしたね。俺はアハトと言います」
受付嬢はコクリと一つ頷くと、最初とは打って変わって笑みを浮かべた表情で口を開いた。
「承知いたしました、アハトさん。改めまして、ようこそ冒険者ギルドへ! この度は冒険者登録ということでお間違いありませんか?」
「はい、それで大丈夫です」
「かしこまりました。ではこちらに手を乗せていただいてもよろしいでしょうか」
そう言って、受付嬢は台の下から水晶玉の様な何かを取り出すと俺の前にコトリと置いた。
俺は言われた通り水晶玉の上に手を乗せる。
すると、何かを吸い取られるような感覚を手に覚えた。
「はい、もう大丈夫ですよ。それではギルドカードを発行いたしますのでしばしお待ちください」
受付嬢はそう言うと近くに置いてあった機械のようなものにポチポチと何かを入力し始めた。
なんだ、アレ? パソコンか?
流石に世界観的にパソコンはないのではと思うが、何かを打ち込むような動作がどうしてもパソコンを想起させる。
と言うか、よく考えてみれば”機械”人形なんて種族が居るくらいだ。
意思を持った機械を創り出す技術があるのなら、パソコンくらいあっても別におかしな話じゃないか。
そんなことを考えていると、受付嬢が「お待たせしました」と声を発した。
顔を向けるとその手には青銅色のカードが握られている。
「こちらがギルドカードになります。再発行には銀貨5枚が必要ですので、取り扱いには十分気を付けてください」
渡されたカードを見る。
表面に薄く波紋? のようなものが描かれている以外は特に何の変哲もないカードだ。
色が青銅色ということもありとても重そうに見えるが、実際に持ってみると驚くほど軽い。
と言うか、色や模様を除けば大きさも重さも元の世界で使っていたポイントカードなんかと大差ないんじゃないか?
元の世界でカード類を良くなくしていた俺的にはこの軽さはとても心配になるな。
一応再発行ができるらしいが、銀貨5枚というのはどれくらいの価値なのだろうか。
これからこの世界で暮らしていくんだからどこかのタイミングで詳しく調べないとな。
「それでは、冒険者という職業について説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
まじまじとギルドカードを見ていた俺に受付嬢が尋ねるように聞いてくる。
俺は慌ててギルドカードから視線を外し頷いた。
「冒険者というのは基本的に街に住む人々や国からの依頼を受けて、それを達成することで報酬を得るという職業です。依頼の受注方法は我々受付嬢に直接聞いていただくか、そこにある依頼掲示板に掲載されている依頼をこちらまでお持ちいただければ、その依頼を受理させていただきます。ですが気を付けて頂きたいのが、冒険者は自分のランクの一つ上までの依頼しか受けることが出来ません。これは実力に合わない依頼を受けて失敗、もしくは命を落とすなどの過ちを回避するためですのでご理解ください」
「そのランクというのは?」
「はい、通称冒険者ランクと言って、その冒険者の実力を判別するためのシステムです。自分が現在どのランクなのかはギルドカードの色で判別でき、Fランクがブロンズ、Eランクがシルバー、Dランクがゴールド、Cランクがミスリス、Bランクがオリハルコン、Aランクがアダマンタイト、Sランクがヒヒイロカネの色をそれぞれ模しています。アハトさんは冒険者登録を終えたばかりなのでFランクからのスタートとなります。また、依頼を一定数達成することで昇格試験というものを受けることが出来るようになり、その試験をクリアすると次のランクへと進むことが出来ます。――ここまでで何か質問はございませんか?」
「質問……その、一定数の依頼を達成するというのはどんな依頼でもいいんですか?」
「どんな依頼でも、というわけではありませんが、自分のランクより下の依頼でなければ基本的には大丈夫です。例えば、Dランクの人がFランクやEランクの依頼をどれだけ達成させようともCランクに上がることはできません」
「なるほど」
つまり低ランクの依頼を大量に受けて一気にランクを上げるというのは出来ないわけか。まぁやるつもりはないけど。
「他に質問はございませんか?」
「……今のところは大丈夫です。また何か質問が出来たらその時改めて質問しますね」
「分かりました。一応説明は以上になります。只今をもってアハトさんは正式な冒険者ですのでF、Eランクの依頼を受注可能ですが、早速何かお受けになりますか?」
「そうですね。何か初心者向けの依頼ってありますか?」
「初心者向けとなりますと薬草採取などはどうでしょう」
「薬草? 俺、薬草の知識とかないんですけど……」
「そこは安心してください。対象となる薬草はとても目立つ見た目をしており、類似する草などもないので初心者でも簡単に採取が可能です。こちらが薬草の見た目になります」
そう言って受付嬢が取り出したのは一枚の紙。
そこには、赤い四つ葉のクローバーのような植物が描かれていた。
……え、これ本当に薬草? 赤色で描かれてるんだけど本当にこれで合ってる? ちょっと禍々しすぎない?
「た、確かに目立ちますね……あの、これ本当に薬草なんですか? 毒草ではなく?」
「他の皆さんも最初はそういう反応をされますね。でも一応れっきとした薬草なんですよ? 回復のポーションなどに使われる素材だけあってその効能も折り紙付きです」
「そ、そうですか……」
まぁ、ここは異世界だし、元の世界の常識で語る方が間違いか。
それに元の世界にだって赤色の薬草があるかもしれないしな。
「分かりました、それじゃあその依頼を受けたいと思います。どのくらい採って来ればいいんですか?」
「数に制限はございません。採取した量に応じて報酬をお支払いします」
採取量に応じて報酬が変わるのか。
これは頑張れば今日の宿代くらいは稼げるかもしれないな。
逆に言えばこの依頼を失敗すると今日は野宿になる可能性があるということだが……まぁ何とかなるだろう。そうならないためにも頑張るだけだ。
その後、受付嬢から薬草が自生している場所の情報や、採取方法などを聞いた後、正式に依頼受注となった。
改めて受付嬢にお礼を言って薬草採取に向かおうとした時、受付嬢が真剣な表情でちょいちょいと俺を手招きした。
どうやら内緒話らしい。
俺は受付嬢に顔を近づける。
「アハトさん、一つご忠告を。アハトさんの種族、機械人形はとても希少な種族です。ですので、その希少性に目を付けた何者かがアハトさんの身を狙う可能性があります。十分にお気を付けください」
「それはまた物騒な話ですね」
受付嬢の話を聞いた時から相当レアなのは知っていたが、まさか他人から狙われるほどとは思っていなかった。
もしかして奴隷制度とかあるのだろうか?
だとしたら気を付けないとこっちの世界でもろくでもない生活を送る羽目になるかもしれない。
ぱっと見普通の人間と大差ないようだし、これからは種族を隠して行動した方が良さそうだな。
「一応聞きたいんですけど、万が一襲われた場合どの程度反撃していいんですか?」
「正当防衛であれば最悪殺していただいて構いません。一応ギルドや騎士による調査が入りますが、真偽を確かめる道具を使用するので襲われたのが本当であれば何も問題はありませんのでご安心ください」
正直、殺すのは過剰防衛な気がするが、この世界ではそれが普通なのだろう。
誰もが武器を持つことが出来、簡単に人を殺せる世界。
なんというか、物騒な世界に転生してしまったものだな。




