婚約破棄の計画と実際の動向
誤字報告をしてくださった方ありがとうございます。私の馬鹿が露呈しましたね…
優秀な彼女に協力して貰えば、スパイを捕まえる計画はスムーズに進むし、なによりも、彼女に知らせれば、後に事情を知った彼女のファンから殺されることもない。
大臣・高官は、ソフィアを呼び寄せ、綿密な計画を立てた。
大まかにその計画を説明すると、
ソフィアが噂が立つようなことをしてみる→計画がうまく行っていると思ったスパイはおそらく皇太子を婚約破棄するように唆すだろうから、次の各国の高官が揃うパーティで、婚約破棄を宣言してもらう→各国にもアイラの危険性を知ってもらい、逃した時のために顔を覚えてもらう(あわよくば指名手配してもらう)というものである
また、同時並行で、
今まであまり交流がなかった男性にもソフィアが話しかけてみるというのも効果的ではないかという意見が出た。
ちなみに、なぜこんな回りくどいことをするかというと、アイラというスパイが、存外に優秀らしいことが分かったからである。
だから、各国の者にも危険性を周知させ、その顔を覚えてもらい、各国の内部瓦解を防ぎ、各国間の不和を防止しようという心づもりである。
ちなみにソフィアは基本いじめるという考えが頭にないため、噂が立つようなことと言っても、アイラに対して、淑女の振る舞いというものを教えたりするぐらいである。
この噂はアイラによって、ソフィア様は庶民が気に入らなくていじめるんだ、うわーん、という話となり、噂となったので、あながち失敗ではないのかもしれない。
ちなみに、アイラ以外の大半の淑女は、
「「「「礼儀がわからない方に、きちんと礼儀を教えてあげるなんて、なんて寛大なソフィア様!」」」」
と感涙したという。
まあ、しかし、悪い噂として流せるということは、成程、アイラが優秀なスパイだというのも頷ける気がする。
さて、そんなこんなで、計画は思ったよりも順調に進んでいた。
そして、今日、各国の大使が集まるパーティでのことである。
前述の通り、やっと婚約破棄されるのかと思えば、今までの計画を無駄にするかのようなことを言われ、ソフィアだけでなく、大臣・高官達も白目を剥いていた。
まあ、でも、計画を中止することはできない。
優秀なソフィアは、
「まあ、なんで婚約破棄するなんていうんですの?」
と、計画を軌道修正しようとした。
しかし、皇太子がカウンターをかます。
「僕は婚約破棄したくない!やっぱりしないもん」
周りには戦慄が走る。
((((優秀なソフィア嬢を以てしても計画が台無しになる。これが皇太子の力か!))))
と。
ちなみに皇太子の名誉のために言っておくと、皇太子はソフィアの後ろをちょこちょことついて歩く以外に欠点はないと言っていい。
皇族の血筋、さすが美人とばかり結婚してきたんだなぁとわかるほど整った顔に、学園に入学してから、ずっと学年一をとり続けるほどの頭の良さ(つまり、そうは見えないが、勉学面で言うと、ソフィアよりも頭がいいのである!)。
さらに、剣術に関しても、ソフィアに出会ってから、僕がときめきを感じたように、ソフィアにも感じてもらうんだ、と健気に取り組んでおり、なかなか腕が立つ。
ちなみに余談だが、ソフィアは蛇は全く苦手ではないので、同じような状況でトキメキを感じてもらうのは無理である。そもそも自分を蛇から助けたことでもわかるはずなのだが、頭がいい馬鹿を体現している。そう周りの認識は一致していた。
さて、話を戻すと、その言葉を聞いて誰よりも慌てたのはアイラである。
「何でですかぁライアンさまぁ、私とあれだけ親密になったではないですか。私と結婚してくれるのではないのですかぁ。」
そもそも、公式の場で皇太子の名を呼ぶこと
があり得ないし、親密になっただけで結婚という考えに至るのが短絡的である。
事情を知らない周りはドン引きしているし、事情を知っているものは、優秀なスパイという今までの考えを変えたほうがいいかもしれないと思った。
しかし、アイラの失言により、婚約破棄をしなくても追い詰められるようになったのも確かだ。
「皇太子を名前で呼ぶなど品がないですわよ。アイラさん。」
いつものようにソフィアが注意すると、
「ほら!そうやって育ちが悪いのを馬鹿にする!ライアンさまぁ〜助けてください。」
もう、これは優秀なスパイではなく、ただのバカね。ミイラ取りがミイラになったかしら、と嘆息しながら、ソフィアは続けた。
「そもそもの話、私があなたをいじめた事実などありません。」
「そうやっていっつも私ばかりを悪者にする!それに私だけではなくて、他の人も気づかないところでいじめられているんですよ。みんな目を覚ましてください。」
そもそもいじめについての心当たりがないから反論のしようがないソフィア。それを見て助け舟を出したのは皇太子である。もう婚約破棄しようとしていたことなど、はるかかなたである。
「それは、人の制服を勝手に触った、頭を打った子を放置して立ち去った、貸してくれたペンが書きにくかった、という噂かい?ソフィアがそんなことをするはずがないし、もし事実なのだとしたら、何か事情があるのだと思うよ。」
それを聞いて、ああー、あの噂ねーと微妙な気持ちになりながら、噂の元となった事実について話し出した。
「勝手に触ったのではなくて、許可をもらって縫ったのよ。ほつれているところがあったから。ペンに関しては、ノック式ペンという、最新のペンで使い勝手を試してもらっていたのよ。きちんと使い方を教えたわよ。」
「ちなみに頭を打った子に関しては、無闇矢鱈に移動させたら更に体調が悪くなるから、先生を呼びに行ったのよ。」
先生を呼びに行く現場を見ていたアイラから広まっただけの情報であり、頭を打った人を動かしてはいけないということを知っていた頭の良さが災いしただけの話であった。
「それ以外には、何かないの?」
「え、いや、それは!あ、あー!あったわ!じゃあ、何で他の男性と仲良くしてたのよ。婚約者がいる身でおかしいでしょ!?」
いや、お前が言うな、と内情を知っているものの声はほぼ一致したが、1人同じように思っているものがいた。
「そうだよ!僕と言うものがありながら、浮気するなんて、酷いじゃないか。もう僕では満足できなくなったのかい?」
何を隠そう皇太子である。いや、事情をややこしくするな、お前はどっちについてるんだと思いながらも、仕方なく答える事にする。
「政務の話をしていただけです。私は皇太子の婚約者としての仕事がありますので。」
な、なるほど!これが一番強力な婚約破棄するための事情であったが、筋の通った正論に、思わずアイラは納得してしまった。