婚約破棄に至るまでの諸事情
すみません。大幅に抜けている文章があったので、投稿し直しました。
「君と婚約を破棄…はき………はき、やっぱり破棄したくないよ〜」
そう言って、うわーんと泣き出した男を見て、ソフィアは白目を剥くこととなった。
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事の始まりは遡る事10年前、蝶よ花よと育てられてきた皇太子ライアンと、その頃から短刀を振りまわし、護身術の先生に弱冠8歳にして、筋がいいと褒められるまでに剣の腕を上げた少女が出会った事に始まる。
育ち方が逆だと思うじゃろ?
これであっているから、世の中とは怖いものである。
さて、出会いのきっかけとはありきたりなもので、皇太子の誕生会に、筆頭公爵家の生まれであったソフィアが出席した事にある。
当時蝶よ花よと育てられてきた皇太子は、外に出て虫などを見る経験がなかった。
そんな育ちをしているものだから、天気がいいからと外でパーティがひらかれ、そこに出席した主役の皇太子が、蛇を目撃した時の心情は、まさに蛇に睨まれたカエル。ゲコゲコ
そんなふうにかちんこちんに固まっていた皇太子を助けたのが、ソフィアであったというわけだ。
皇太子は助けてくれたソフィアに理想の女性像を見た。もうときめきが止まらなかった。
(ちなみに余談だが、後に婚約のきっかけを聞いた、皇太子の側近アラン・エイベルは、それは普通淑女が考える紳士の理想像では?と突っ込んだという)
その場で、
「僕、この子と結婚する!」
と宣言した。
今回パーティを開かれた目的のうちの一つに、実は婚約者候補探しという目的もあった。
そして、政情が安定しており、ある程度身分があれば、どの貴族令嬢であっても大丈夫であったこともあった。
したがって、身分どうこうよりも、皇太子が気にいる令嬢を選ぼうという考えがあったため、そう皇太子が宣言した後はトントン拍子に婚約が決まった。
ちなみに身分はあまり考えないとは言ったものの、筆頭公爵令嬢であったソフィアは身分という点から考えても、これ以上ない相手であった。
——ちなみに、のちに皇帝と皇后はこんなにも早く婚約者が決まるとは思っていなかったと語ったという。
さて、こんな出会いだから、皇太子はソフィアのことが大好きだったし、ソフィアも皇太子を出来の悪い弟のように可愛がっていた。(なお、それは婚約者の関係性からずれているのでは?というツッコミはしないものとする)
ことが進むのは、双方が15歳となり、学園に入学することとなった年である。
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入学直後は、あいも変わらずちょこちょことソフィアの後ろをついて回る皇太子の微笑ましい姿が目撃されたという。
しかし、アイラ・ブラウンが転校してきた事により、事態が少しずつ動いていくこととなる。
アイラ・ブラウンは、ブラウン子爵令嬢であるが、その実今までは庶子として育ってきて、つい最近になってそれを知ったブラウン子爵が市井から連れ帰ったのだという。
そんな生い立ちもあったからか、天真爛漫に、身分など気にせず、皇太子にも気軽に話しかける姿がよく目撃された。
その後、しばらくすると、皇太子がソフィアではなく、アイラと行動を共にするようになったため、皇太子も実は満更ではないのではないか、と学園でも話題となった。
そして、その頃からソフィアの悪い噂が立ち始める。
人の制服を勝手に触っただの、頭を打った子を放置して立ち去っただの、ペンを貸してくれたはいいが、そのペンが描きにくかったりだの、様々な噂である。
ソフィアは、アイラが来た時は、
(巷で流行りの悪役令嬢じゃないの!?)
と大変興奮したが、この噂を聞いて、
(えー、微妙)
と思ったという。
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さて、ところ変わって皇宮では、広大な領土を持ちながら、紛争などなく攻め入る機会がない、でも、平和で広大な領土が欲しい、という隣国の珍しい形のちょっかいに頭を悩ませていた。
戦争を仕掛けられそうという緊急事態ではなく、スパイが現れたという情報を優秀な諜報員がキャッチしたのだ。
しばらく隣国からのちょっかいがないなーと思っていたら、これである。
ちなみに、その情報のキャッチの方法は、隣国から違法入国してきた別のスパイに、首キュッ、などの尋問を加えた事で、本命のスパイの名前は知らないが、情報は吐くから、と吐かせた事による。
いわく、そのスパイが与えられた任務は、皇太子をメロメロにし、優秀で有名である皇太子の婚約者を、婚約破棄させることで、皇太子の権威を失墜させ、内部から瓦解させることだという。
余談だが、その話を聞いた、大臣・高官は、
((((いや、アイラとかいう女では?))))
と、実に仲良く心の声が揃ったという。
だが、一概に馬鹿にもしていられない。皇太子妃がスパイなど彼らはごめんであるし、そもそもソフィアと皇太子の仲の良さ、微笑ましさから、その2人のカップリング過激派が存外貴族にも多い。(特に、ソフィアに関しては、格好いい!王子様!と令嬢からの評判が非常に良く、彼女単体のファンも多い)
そのファンに殺されるのはごめん被りたい。優秀な大臣・高官たちは頭を悩ませた。
その時、名案を思いついた、というように、1人の高官が叫んだ。
「ソフィア嬢にも協力してもらい、スパイを捕まえればいいのでは!?」
他の大臣・高官達も叫んだ。
「「「「それだ!」」」」
仲良きことは美しきかな。だから、この国は平和なのかもしれない。