遠すぎる世界
もう一回あの世界に行きたい。
男性はそう思っていた、
男性は子供の頃、不思議な世界に迷い込んでいた事があった。
その世界で男性は、様々な人に出会い、様々な場所に生き、様々な冒険をした。
けれど、ある日突然元の世界へ戻ってきてしまったのだ。
だから男性は、もう一度あの世界へ行きたいと思っていたのだ。
しかし、行く方法は分からない。
どこにあるのかまったく分からない。
分からない場所には、どうやったっていきようがない。
その世界は、遠すぎる世界だった。
男性は、様々な方法を考えた。
人生の残りの時間全てを使って、考えた。
別の世界へ行くための方法を調べ続けた。
しかし、とうとう寿命を迎えるまでに見つからなかった。
男性は、死の間際に子供の頃の事を思い出した。
「大きくなったら、結婚しようね。家をつくって、家族をたくさん増やそう」
もう二度と、元の世界に帰れないならばと思い、その世界でずっと暮らしていこうと決心した時のもの。
その世界の女性に、約束をした大切な思い出だった。
けれど、帰ってきてしまったその瞬間は、残酷なタイミングだった。
「もう一度でいい、たった一瞬でも良い。またあの世界へ戻りたい」
男性はそんな願いを抱きながら、息をひきとった。
「……さん、ついさっきお亡くなりになられたそうですよ」
「この病院に移ってきた時はもうボケてたものね。別の世界だなんて、そんなのあるわけないのに」