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うちのわがまま姫さま

作者: 海ほたる

 短編初投稿。


 どうも、こんにちは。本日は少しばかり、ええ、少しばかりなのですが、私の話を聞いてくださいませんか??聞いてくださると嬉しいのですが…酒を奢ってくれたら聞いてやるって??それなら喜んで奢りますので聞いてくださいよ。あっ、注いでくださってどうもありがとうございます。


 ではさっそくなのですけれど、実は私、この国の姫さまに仕えていたのです。ええ??あなた様はお貴族様なのかって??それがそれが、そんなわけでもないんです。いや、今はそうと言えなくもないのですけど。


 私、もともと奴隷だったんですよ。ああ、今はもう奴隷ではないですし、それの撲滅目指して頑張ってたんですよ私。ですから、そんな重いわぁ、とか思われなくて大丈夫ですよ。


 それでですね、だったというのはどういうことかと言いますと、私、助けられた身なんですよね。奴隷って、この国では禁止されているじゃないですか。扱いも酷いですよね。人とは思っていないんじゃないかってレベルで。ええ、本当に許されざる行為ですよね。


 それの、いわゆる摘発ってやつで助けられたうちの1人になるんですよ私。そこで救われた元奴隷の方たちがどうされるのか知ってます??


 あのですね、王宮が仕事を斡旋してくれるんですよ。しかも、国民権のない方たちにはそれらを発行してくれるし、無一文の方々ばかりなので、そこのところもフォローしてくださいますし。きちんとした税金の使い方してくれて助かりますよね。ええ、私も良いことだと思います。


 そこでですね、私、ご覧のとおり、見目がよろしいじゃないですか。あんたが言っても嫌味にならないから凄いって??そうでしょうそうでしょう。ま、この容姿のせいで奴隷なんてものになってしまったようなものなのですがね。


 そのことは置いといて、その斡旋先で私は姫さまに出会ったわけです。


 そこで与えられた仕事というのが、姫さまの護衛のようなものだったのです。なんでそんな要職が私に回ってきたのか、と言いますとね、あ、知ってますか??就ける条件がなかなかに厳しくてですね。ええ、そうですそうです。


 命を懸けることができなければ就けない職。そう言われている姫さまの護衛騎士のようなものに斡旋されたんですよ。


 実はですよ?あれ、ただの姫さまのわがままだったんです。なんでも、自分の護衛をしてくれるものは綺麗で強いものでないと嫌だとか。私はお眼鏡にかなってしまったようでしてね。本当はやりたくなかったんですけど、私の立場じゃ断れるわけもなく。その仕事に就くことになったんです。


 わがままな姫に仕えるなんて、大変だなぁって??奴隷だった時と同じような、イライラの捌け口にされたんじゃないかって??いえいえ、それがですね、ちょっと違ったんですよ。


 やってみたら、天職なんじゃないか、ってくらいハマってしまいまして。私、魔力量がものすごく多いんです。それのおかげで魔法の訓練も、まあ楽しくて楽しくて。私は魔法だけできれば全然よかったんですけどね……


 姫さまがね、魔法だけじゃダメだ、って言ってくるんですよ。ええ、そこんとこわがままですよねぇ。でも、雇用主の依頼です。仕方がないから、ひと通りの武器を扱えるようにしましたとも。その上、執務も手伝え、なんて言うものだから、頑張って勉強しましたよ。


 できるようになった分だけ給料増やすって言われたら、そりゃあやるしかないでしょう??なんと言っても、働いた分だけ認められてお給料がゲットできるんですよ!!これは、とてもとても大きいです。奴隷なんかとは違います。一応休みも取れますし。


 それに、姫さまはとんだわがまま娘なのだろうな、と思って覚悟してたんですけど。奴隷の時と同じように、殴られるのかなぁ、と思ってたんですけど。まったくそんなことしてこなかったんですよね。


 その、姫さまは私のこと以外では、まったくもってわがままなんて言わなくて……私さえ側に居てくれればなんでも良いと言って。


 つまりは、あの宝石が欲しい、とか、あのドレスじゃなきゃ許さない、とか、お前は気に食わないから出ていけ、とか、そんなことはまったく言わなかったんです。仕事に失敗した者に対しては、次、気をつけてくれれば良いから、と言って。すれ違う使用人たちに対して、仕事をしていればありがとう、と。ただ歩いているだけだったらおはよう、と。


 使用人たちのことを大切に扱っていたんです。暴力なんかまったくふるいませんし、仕事もきちんとこなされる。


 私のことをこき使ったりはしてきましたけど。いや、だいぶこき使われてると思いますけど。


 それでも、私のこと、大切に扱ってくれましたよ。風邪を引いたら熱が下がるまで出てくるな、といってベットに押し込まれたり。ちょっと偵察に行って、切り傷でも作って帰ろうものなら、包帯だるまにしようとしてきたり。


 あ、安心してください。もちろん他の方にやってもらいましたよ。私、包帯だるまになる趣味はありませんので。


 その、護衛だって、私でなくてもよかったはずなんですよね。だって、当初の私はそんなに強くなかったですし。どちらかと言うとひょろひょろでしたからね。私を側に置きたいと言ったこと以外は、至って普通。いや、普通以上にできる方だった。努力家だし、民のことを考えて行動できる方ですし、周りを見て、己の立場を俯瞰的に見ることのできる人だった。


 私を側に置きたい。


 そのわがままは、姫さまが初めておっしゃったわがままだったのだと、姫さま付きのメイドに伺いました。


 だから私、ずっと不思議だったんですよ。なんでそこまでして、私を側に置きたがったのか。


 普通に聞いてもはぐらかされるのでね、ちょっと強めのお酒を飲ませて、ふらっとさせて聞いてみたんです。


 え??なんでそんなことできるのかって??ふふふ、私、姫さまにとても信用されていますので、全く問題なくできるんですよね。私にとっては大問題なのですけど。ええ、私が気にしなければ、負けなければ、良いだけですから。


 それで、その答え、なんだったと思います??



――――  ―――――――  

     

「私が断罪されるとき、1人で逃げるのは寂しいじゃない………」


「だん、ざい??」


「私は一国の姫だけど、側にいるのはあなたがいいの………」


 姫さまが私に寄っかかってきた。


「…あの、姫さま??大丈夫ですか??」


 やばい、飲ませすぎたか。あ、手を取られた。


「カイ、あなたには幸せになってほしいの。お願いよ……だから、きちんとヒロインと幸せになって…」


「ひめ、さま??」


 姫さまはなぜか泣きそうだ。


「姫さま??断罪って何なんです??それに、ひろいん??って??」


 姫さまが抱きついてきた。すーすー、という規則的な呼吸音しか聞こえない。


「…はぁ…明日、ですね。」


 まったく、やめてほしい。


「…姫さま………」


「ん、…」


「はぁ……」


 私にくっついている姫さまを引き剥がそうとすると、さらにくっついてきた。


 ………仕方がないので、ベッドに運んであげる。そして、綺麗に布団をかける。


 ずっと、姫さまは何かを隠していると思っていた。たまに、遠いところを見るような顔をする時があるのだ。そんな時、特にそう思っていたが…


 頬を撫でると、彼女がすり寄ってきた。頼むから、1人で動かないでくれ。


 色々な意味で。


 あなたはとても優秀なのに、自分のこととなると、途端に不器用になるのだから。


「ルシェル、おやすみ。よい夢を。」


     ――――――  ―――――――



 こう言ったんです。どう思います??やっぱり変だと思いますよね。なんで姫さまが断罪されること前提で話しているのか。


 え??に、にやにやなんてしてませんよ?!ええ、姫さまの寝顔なんて思い出してませんから。あなたの気のせいです。そうです、あなたの気のせいなんですからね。


 さて、それで問い詰めてみたんです。なんで断罪される、なんて言ったのか。ひろいん??ってなんなのか。


 そうしたら姫さまは、「私には前世の記憶がある。」そう、言ったんです。


 ええ、俄かには信じがたいことですよね。私もそう思いました。


 なんと、この世界は、姫さまの前世で言う小説の中の世界、なんだそうです。


 なんでも、隣国がメインの小説だったそうです。まず、姫さまには婚約者がいるんですけど、それが、隣国の王太子なんですよね。その姫さまの婚約者、隣国の王太子殿下が、姫さまを断罪しにくるのだとか。それが、姫さまが18になる今回の夜会だと。


 そして、私は小説の中の、その隣国の王のご落胤と風貌が似ているんだそうです。その上、奴隷だった、というところまで同じだそうで。


 小説の中での私は、主人公の男爵令嬢に奴隷の身から解放され、救われ、仕えることになり、惚れるのだとか。そして、主人公の惚れている相手を邪魔する悪役になる、とかなんとかだそうで。


 それらを説明し終わったあと、姫さまはこう言ったんです。



――――――――――――  ――――


「私なら、あなたをそうはさせない。絶対に、魔法だけじゃなくて身体も鍛えさせていい男にして、どんな女でも惚れるような男にして、主人公、ヒロインを落とすのよ!」


 こぶしを振り上げる姫さま。


「えぇ…」


「だって、ずっと仕えてきたあるじに捨てられて闇に落とされて、魔王に乗っとられて元あるじに討伐されるのなんて、悲しすぎるじゃない。」


「え、その小説の中の私、ちょっとひどすぎません??」


「ほんとよねぇ。あ、顔が好きだからあなたを助けたかったっていうのもあるっちゃあるよ??だけど、だけどね、1番はね………」


「…1番は??」


「…ずっと頑張ってきたあなたに、報われて欲しかった。認められて欲しかった。これは、私の勝手な感情よ。あなたはいらない、って言うかもしれない。だけど、どうしてもあなたには幸せになってほしかったの。主人公のことが好きなあなたを、主人公は愛するべきだと思ったの。」


「そう、なんですか…」


「だから、私があなたをめちゃくちゃいい男にするって決めたのよ!!強くてイケメンで優しくて仕事もできる!!これに惚れない女なんていないわ!!これであなたの将来は安泰よ。」


「……ほんとですか??」


「ええ、もちろん。私があなたに嘘つくわけないでしょ??」


「それじゃあ、どんな女性でも惚れてくれるんですね??」


「そうよ!!だって、こんなにカッコいいもん!!」


「それでは姫さま、少し待っていてください。」


「いいわよ。って、私、なにを待つの??」


「そうですねぇ、とりあえず今回の夜会まで待っておいてくださいな。あと1ヶ月。そこで、答え合わせをいたしましょう。」


「ええ??何を待つのよ。ふふ、変なの〜。私、そこで断罪されるのよ??だから待てるかわからないわよ??断罪された後は海を越えて、世界を見に行く予定なんだから。」


「さあ??どうなるかなんてわかりませんよ??まあ、楽しみにしておいてくださいよ。私もやらなくちゃいけないことがたくさんあるようですし。」


 そう言って、私は騎士のように姫さまの前に跪き、姫さまの左手を掬う。


「!!突然どうしたの、カイ??」


 その問いかけは無視して、そのまま薬指に口づけを落とす。


「!!!」


 案の定、姫さまは真っ赤になった。


「さて、仕事に取り掛かりますかね。」


「ちょっ!!カイ!?!!一体どういうつもりよ!!?!」


「ふふ、それくらいはあなた様に考えてもらわないと、ね??」


「っ〜」


    ――― ――――――――――――



 こんなやり取りをしたんです。もちろん、私もあり得ないと思いました。でも、姫さまが私に嘘をつくなんて、ありえない。重要なことでも、くだらないことでも、姫さまは隠すのが苦手でいらっしゃる。ええ、嘘をついているとすぐに分かりますよ。顔に書いてありますからね。


 だから、きちんと調べましたとも。ええ、猶予が1ヶ月しかないのは、なかなかにきつかったですね。でも、きちんと調べて裏も取って、と。今思い出すだけでも疲れますね。


 そう、1ヶ月後の夜会。あなたも知っての通り、姫さまは断罪されかけた。やってもいない罪を並べ立てられて、犯罪者にされかけた。婚約者である隣国の王太子に。


 ほんと、あの時は大変でしたよ。何回でも言いますけど、ほんと、大変でした。そりゃ伸びたくもなりますって。あるじの一大事ですよ??いやー、根回し葉回しって頑張りましたよ私。


 葉回しなんて聞いたことない、なんて、つれないこと言わないで下さいよ。それだけ大変だったんですって。


 まさかまさか、ほとんど手紙のやり取りしかしていない、年に一度しか会えない婚約者に断罪されるなんて、誰が予想できますか??


 お前は戦争を誘発するよう唆しただとか、俺の国の国庫を使って宝石を買っただとか、それも、最後には不貞をしたとかなんとかほざきやがって。


 おっと失礼、口調が勝手に。ふふふ。ええ、思い出すだけであり得ないほどの怒りが湧いてきます。


 あ、きちんとその方は断罪されましたから、安心してください。準備をしてから臨みましたからね、あの夜会には。


 でしょう??私ってば有能なんです。


 それで、その時色々調べてたら、さらにわかってしまったことがあるんですよ。


 実は実は、そのアンポンタンな王子、私の異母兄弟だったんですよね。ええ、私、いわゆる隣国の王のご落胤ってやつです。そう、姫さまが言ってたこと、本当だったんですよねぇ。


 ふふ、驚きましたでしょう?目が落ちないか心配なぐらいに開いてしまってますよ。顎も気をつけてくださいね。


 ほら、飲んで飲んで。私の話はまだ終わっていないんですから。あら、案外立ち直りが早いですね。いえ、いいことです。さあ、まだ聞いてもらいますよ。


 まず、あのアンポンタン、向こうの国の学園で見事にハニートラップにかかっていましてね。ええ、それはそれは見事にかかっていましたよ。


 とある男爵令嬢から貰ったクッキーを、毒味も無しに勝手に食べたんですから。


 実は、その男爵令嬢が作ったというクッキーの中には、薬物が仕込まれていたんです。


 本来の小説は、ただの恋愛物語だったらしいんですけどね。なんでも、それを食べたものは精神に異常をきたし、それ無しではいられなくなるものだったとかなんとか。


 恐ろしいですよね。私だって自分を失いたくないですし、そんな薬物には気をつけるに越したことないですね。ええ、お互い気をつけときましょう。


 そうそう、そのヤバい手作りクッキーですけど、王太子に渡すよう手引きした奴らがいたんです。


 そいつらの望みは、国家転覆。


 まったく、とんでもないことですよ。ほんと、やになっちゃいますよね。まあその罠にまんまと掛かったアンポンタンもアンポンタンですけど。


 小説の中の私は、国家転覆を企む奴らに、いいように使われていたのかもしれないですよね。ええ、なんてったって、私、魔王になっちゃうらしいですから。


 そこら辺のことが調べてたらわかったので、私の父とかいう人に会いに行ってみたんですよ。もちろん、私がご落胤だとバレると面倒なので、この国の使徒として、変装して行ったんですけど。


 そうしたらですね、その王、もうすでに使い物にならなくなってまして。ええ、薬にやられたんでしょう。もしやられていなかったら、私を王太子にでも認めさせるつもりだったんですけどねぇ。


 ということで、作戦を変更しましてね、次の夜会の時に、私が国を乗っ取ってしまおう、と思ったわけです。


 そこからは、あなたも知ってる通りですよ。そうです、アンポンタンはお菓子をくれる、つまり薬をくれる令嬢の言いなりになっていた。


 やばいクッキーのご令嬢は、隣国の王女、という婚約者が邪魔で仕方なかったのでしょう。王太子は見ているだけならイケメンですし、やばいクッキーのご令嬢は、王妃の座を欲していたようですから。


 やばいクッキーのご令嬢って、ちょっと長いですね。ヤバクキ令嬢、とでもしておきましょうか。


 ネーミングセンス無さすぎ、ですって??どうせ、どうでもいい令嬢のことなんです。それくらいいいでしょう。


 まあ、その夜会の場を使わせてもらって、ヤバクキ令嬢が王太子に何をしたのか、そのヤバクキ令嬢を唆したのがどこの誰なのか、その他もろもろ、いっぺんにバサッと断罪しときましたので。


 ヤバクキ令嬢でツボらないでくださいよ。そんなに面白いですか??あなたのツボ、変わってますね。


 あ、そうそう、ついでに、私が隣国の王のご落胤だ、ということも周知させましたとも。


 ええ、幸か不幸か、私、父王によく似てたんですよねぇ。色以外、バッチリ似てました。ですから、すぐに認められましたよ。


 それで、認められたついでに、その夜会の場で姫さまに求婚したってわけです。



―  ――――――――――――


 広間は静まり返り、皆んなが私と、この国の姫を見つめている。


「私、断罪され、なかった………え、これから、どうしよう。まさか、こんなことになる、なん、て。」


 そして姫は、絶賛混乱中だ。


 さてと、今がチャンスですかね。


 私は一歩一歩、姫さまの方へ歩いていく。そして、1ヶ月前のあの日のように、姫さまの手を取り、恭しく左手の薬指に、口づけを落とした。


「姫、私は、あなたに救われた日、私の命をあなたに賭けようと。そう思っていました。お側に置かれてからは、誓いの思いも、別の想いも、強くなりました。あなたはとても美しく可憐なだけでなく、強さも持っている。そんなあなたを一生守る権利を、一生を懸けて、幸せにする権利を、私に、くださりませんか?」


「っ…あなた、本当に、私のことが、好き、なの?」


「ええ、あなた様のことを、愛しております。」


「っ、そんなの、ずるいわ。」


「1ヶ月待っていてください、と。言ったでしょう??」


「ふふ、そうね。大好きよ、カイ。私も、あなたを、愛してる。」


 そう言って、姫様は私に抱きついてきました。すると、拍手が沸き起こりました。


 これで、内外ともに問題なく、姫さまと結婚できますね。ふふふ。嬉しい限りです。


         ―  ――――――――



 ずるいって??そんなの知りませんよ。これからは姫さまと一緒に、隣国の建て直しを頑張らなくちゃいけないんですから。


 突然に降って湧いたような玉座。


 まったくめんどくさいことこの上ない。姫さまがいないのなら、私がそこに座る必要性はまったくありません。


 そりゃそうに決まっているじゃないですか。私、姫さまのためだけに隣国の王になることを決めたようなものですから。


 流石に元奴隷の護衛騎士になんて、王女をくださらないでしょう??


 姫さまが幸せならそれでいいと思っていましたけど、私に隣に立つ資格があるのなら、姫さまが求めてくださるのなら、私がそこにいたって、構わないですよね??



『ねぇ、王弟殿下??あなたの大切なご息女は、私がいただきます。今回は、ことのあらましとご挨拶に伺ったまでなので。では、今度は王宮にて会いましょう。あ、話を聞いてくれて、ありがとうございました。』


 話したいだけ話すと、男は酒屋の個室を出て行った。






「あっ!やっと見つけた!もう、カイ!!どこ行ってたのよ!!探したじゃない。」


「すみません、ルシェ。少し、お話したい方がいましたのでね。少し長くなってしまいましたけど。」


「長くなるのならきちんと言ってよね!報連相は大事なのよ?わかった??今度からは約束よ!」


「ええ、わかりました。さあ、行きましょう、ルシェ。」


「うん、カイ。」


 そう話しながら、2人は仲良く手を繋いで去っていった。






「くくっ、あっはっはっ。」


 男が去って行った個室に、残った男の笑い声が響く。


「気づいてたのか、私が、王弟であると。あの子の、父親だと。私が血を残すとえらいことになってしまうから、隠していたのになぁ。兄さんと義姉さんに頼んで、娘として育ててもらっているのになぁ。まあ、叔父として常に王宮にいて、常にあの子だけを見ていたら、バレるものなのか??」


 男はぶつぶつと呟きながらグラスに酒を注ぐ。


「なぁ、見てるかエニシャ。あの子は、私たちの子は、運命を見つけたようだよ。どうか、これからもあの子を2人で見守っていこう。」


 飾られている花が、少しだけ嬉しそうに揺れた気がした。



登場人物の軽いプロフィール

ルシェル

 王女。実は王弟の隠し子。現国王、王妃の子供として育てられている。3歳の頃に前世の記憶を思い出し、ここが小説の中の世界であり、自分は悪役姫であると悟る。ただし、小説の中にも隠し子だという設定は書かれていなかったので、自分が本当は王弟の実子であることを知らない。


カイ

 隣国のご落胤。2歳の頃までは後宮にて一般市民の母と暮らしていたが、母が殺され、本人は人攫いにあい、奴隷の身になる。たまたまルシェルが潰した奴隷商会に商品として出されており、5歳の時に助け出された。


エニシャ

 今は亡きルシェルの母。ルシェルを産んだ時に亡くなった。


王弟

 ルシェルの実父。自分の子であると悟らせないように育ててほしいと兄に頼み込み、結果、ルシェルは王女として生きることになった。そして、自身はルシェルを王宮にて見守る過保護な叔父、という役割になった。


国王

 本来、王弟はエニシャと結婚し、公爵となってもらう予定だった。しかし、さまざまなことが重なり、それができなくなった。国王は自分のせいで自由にしてやれない弟の願いを聞き入れ、姪っ子を自分たちの子として育てることを決意した。


王妃

 国王と王弟に相談を受けた時、1番に引き受けると言った人。今は亡きエニシャとは親友だった。

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