とある竜の人間観察
諸行無常の
今日も山の上から人間達を見下ろす。
忙しくなく、騒々しく、毎日を生きる人間達。
私は彼らを見るのが好きだ。
眠っている時以外はいつも眺めている気がする
私が考えつかないような発明をしたかと思えば、その発明を巡って愚かな争いをする。
頭が良いのだか悪いのだか分からない。
それでも嫌悪感は無く見ていて飽きない。
鳴いて生まれて笑って死ぬ。
そんな彼らが好きだ。
私には短すぎるその寿命も彼らにとっては長いものらしい。
私が一眠りすると街が驚くほど発展していたりもする。
もう一眠りすると滅んでいたりもするのだが。
小さな体に信じられない程の力を秘めている。
その力の矛先を私に向けるのは勘弁願いたいものだが。
昔生贄として少年が捧げられた事があった。
小さな人間のさらに小さな幼体。
彼と過ごした日々は今も忘れる事はできない。
長い私の人生の中であれ程濃密だった時期はない。
眠気を我慢し毎日彼の世話をした。
彼が成体になり私の元から離れるまでの時間はほんの少しであった。
それでも私に影響を与えるには充分であった。
育て終わるなり眠ってしまったので今はどうしているか分からない。
名前ももう思い出せないけれど顔を忘れた事は無い。
もう既に死んでしまっているだろうが、どこかで子孫を残せたのだろうか。
竜は群れない。故に強者である。
群れる人間達は弱者であるがそれを疎ましくは思わない
憧れさえする。
一度人の姿に成り人間の街に行った事がある。
知り合いと呼べる人物もできたのだが、一眠りすると全員死んでいた。
それ以来街には行っていない。
短いからこそ。儚いからこそ彼らの一生は美しく光り輝いて見えるのだろう。
今日も山の上から人間達を見下ろす。
その中にどこかで見たことのあるような人間が混ざっていた。
響きあり