境界
2000字に満たない掌編です。
お暇な折にでもどうぞ。
突然だが、私の趣味は小説を書くことだ。
最近ではネットに自作の小説を投稿することが盛んになり、読者から評価をもらえているか、どれくらい読んでもらえているかの数字の目安を簡単に見ることができる。
感想やレビューをもらうことも人気作家になればできる。
つまり、ブログと同じような形式になっているのである。
私もかつてブログを書いていた。しかし、PV数が伸びなくて、楽しくなくて止めたのだ。
しかし、小説は違う。
書いているときが楽しい。自分の生み出したキャラクターがどんなことを考え、どんな行動を取り、その結果どうなるかを自分で決めることができる。
生き物なのだ。
ブログの文章だって生き物には違いなかろうが、それ以上に小説の登場人物たちは生の生き物なのである。私は彼らを動かすのが面白くて小説を書いている。
勿論評価をしてもらえれば嬉しい。ブックマークしてもらえれば嬉しい。だが、それ以上に私は小説を書いている時間が自分で好きなのだ。
仕事からは離れていられるし、時間も潰せる。まさしく「趣味」だ。
ただ、最近自分の周り、といってもネット環境における周りだが、に違和感を感じることがある。
「このひとは、PV数を稼ぐために小説を書いているのだろうか?」
「このひとたちは評価して欲しくて小説を書いているのだろうか?」
そんな疑問がTwitterなどを見ていてよく頭をよぎるのだ。
最近、「目標は書籍化!」という言葉を多く目にする。
これはまあ、構わないだろう。書籍化されれば収入が入るわけだし、金のために小説を書くことを私は一切否定しない。自分がそうしたい、そうなりたいと強く思わないだけだ。
そうではなく、「今日はPV数が~~~~伸びた」「ブックマークの数がもう少しで○○~」「感想をもらえた、やったぞ」「○○さんというVtuberに宣伝してもらえた」ということばかりをTwitterでつぶやいている人たちに私は大きな違和感を感じているのである。
彼らは小説を書いていて、果たして楽しいのだろうか?
彼らが楽しいのはPV数を眺め、ブックマーク数が伸びたときだけではないだろうか?
その感覚が私にはまるで理解できない。
正直、はっきり言ってしまって、彼らは楽しくなさそうなのだ。小説を書くことそのものは。
小説を書きながら彼らが考えているのは、「この文章を投稿したらPVがどれくらい伸びるだろうか」「この文章でブックマーク数や評価者数がいくつになるだろうか」のみではないだろうか。
もっと端的に表現すれば、自己顕示欲とでもいうのだろうか。
そんな事を考えたとき、私は彼らの自己顕示欲の道具にされている小説の登場人物がたまらなく哀れになるのだ。
例えば、私が今書いている小説に「ヒナ」という登場人物がいる。
ちょっと変わった考え方をしていて、ちょっと他人とは違う人生になってしまった、いたってどこにでもいる女性だ。
しかし、この「ヒナ」が登場する小説に多くの評価が集まり、感想などで「こうしてほしい」「ああしてほしい」と言われるようになったとき、私はこれまで通り「ヒナ」を動かせるだろうか? 正直なところ、自信が無い。
そもそも、私は読者様から感想をいただくようなことがないのでこの「ヒナ」の動きはすべて私に委ねられている。
だが、「他者からの評価がすべて!」「読まれない小説に価値は無い!」というような姿勢で小説を書いているように見える、前述した人々はどうなのだろう?
私は怖くなる。
とあるキャラを出した途端、人気がガタ落ちしたら、そういった作者はそのキャラをいなかったことにするのだろうか?
いなかったことにした途端、またPV数が回復したら、ほっとするのだろうか?
そのとき、そのキャラは何を思うのだろう。
所詮、キャラなど、作者の自己顕示欲を満たすための道具なのだから何も思わず、消されていくのだろうとしか思えない。
私には「ヒナ」にそうなって欲しくない。
私は物書きとしては変人の部類に入るのだろう。
PV数を気にし、感想を多く求め、ブックマーク数や評価数を渇望している作家の方がさぞ正常なのだろう。
私のこうした考え方が、少なくとも今の時代のネット小説界隈では受け入れられないことは理解している。
しかしそれでも、どうしても私の価値観とあまりに違う相手を相手にしたとき、こうした悩みを抱えてしまうのだ。
私は読者様に相談する権利を持たない。
最後になったが、自己紹介をしておこう。
私の名はヒナ。
ちょっと変わった考え方をしていて、ちょっと他人とは違う人生になってしまった、いたってどこにでもいる女性にして、この掌編小説の語り部だ。
私が物書きであれば、読者様に質問することもできよう。
だが、一介の登場人物である私には読者様に質問する権利を持つことは許されないのだ。
なぜなら、あなた方と私には画面という明確な境界があるのだから――
いかがだったでしょうか?
エッセイに少しタネを仕込んでみました。