双剣の使い手(2)
着いた先は小さなビルだった。
窓ガラスは一枚も割れておらず、外壁にはツタこそ生えているものの、周りのビルに比べればかなり綺麗だった。
「一応今はここに住んでる」
男は透明なドアを開けて中に入った。二階に上がる三人。
中にはソファーにベット、テーブルなどがあり、いろいろなものが置かれていた。ランプ、缶詰類、ペットボトル、浄水器らきしものもある。
「これが頼まれたもんだ」
そういって、男がソファーの上に置いてあったものをコハクに投げた。
「──剣?」
鞘に入った剣。黒い鞘に黒い握り。まさに漆黒の剣だった。
剣を抜いてみる。まるで鏡のように鋭く光りを反射する刃。見事な剣だった。
「これ……俺に?」
「ああ。お前の剣は普通の鋼鐵だろ? 手入れ無しじゃすぐボロボロになる。その剣は手入れ不要で決してさびず、刃こぼれもしない」
「刃こぼれしない……」
宝剣とも言うべきその剣を眺めるコハク。
「白虎の守り主からのプレゼントだそうだ」
そう言って、ソウヤはどかっとソファーに座る。
剣を鞘に戻す。
「ありがとうございます」
男の言うとおり、最初に拾った剣はもうところどころ刃こぼれしていた。手入れの仕方も道具もないので困っていたのだ。
「礼なら白虎の守り主に言え。といっても、もう会うこともないかもしれないけどな」
と、今まで黙っていたマオが口を開いた。
「ところで、青龍の守り主と言ったわよね」
「ん? ああ」
「ならその指輪を譲ってほしい」
そうだ──。目的は指輪だった。三つ目の指輪が目の前にあるのだ。
「俺も出来ればそうしたいが、生憎それは意味がない」
「意味がない? どういうこと?」
男はペットボトルの水を一口飲んでから言った。
「この指輪は、あんたちが命を手に入れるための指輪の一つには数えられない。あくまで別の奴の探してる指輪なんだ」
「別の奴──つまりマオと同じように命を欲している人?」
「その通り」
命を欲している人。まさか……ヒスイ?
「つまり、あなたはあたしの探している青龍の守り主ではなく、あなたとは別に青龍の守り主がいる、ということですか?」
「ああ。そうだ」
それを聞いてマオは露骨に落胆した。
「だが、代わりといってはなんだが、玄武の守り主がどこにいるのか知ってるぞ」
それを聞いて、してを向いていたマオが、ソウヤに向き直った。
「え!?」
「ホントですか?」
「勿論。だが……」
ソウヤ言葉を止めた。だが、すぐに再開する。
「奴は強い。指輪二つではどうにもならないし、俺が挑んでも勝てる保証は無い。さきに青龍の持ち主を探した方が良いだろう」
…
二人は三階を借りることになった。
「同じ……部屋だね」
三階は仕切りが一切なく、個室といえばトイレだけだった。
「……」
黙りこむマオ。
「俺──他の建物探した方が良いかな?」
そう聞くとマオは、窓の外に目線を残したまま、
「別に良いよ。同じ部屋でも」
「あ……そ、そうですか」
もしかして、ちょっと信頼が芽生え始めたのかな、なんて思ってみる。
そんなこんなで二人は同じ部屋で夜を明かすことになった。
…
なにかの物音でコハクは目を覚ました。
それは向こうのベットからしてくる。寝ぼけてそれが何なのか判断するのに時間が掛かる。
──短い音の繰り返し。
ようやくそれが何なのか理解する。
「……マオ?」
呼びかけてもも返事は無い。その代わりに、すこし静かになる。それでも音はやまなかった。
コハクは立ち上がって、マオのベットまで近づく。
マオはベットの上で、膝を抱えて泣いていた。
月明かりがマオの涙を照らす。
「どうしたの?」
コハクはなんていえば分からず、素直に理由を聞くことにした。
「……」
三十秒あまりの沈黙。
それからようやくマオが言葉を口にした。
「夢……怖い夢だった。ロウソクの光が……少しづづ消えていく夢。それが……あたしに見えて……それでっ」
さらに流れる涙。
普段なら、意味の無い夢だっただろう。でも、マオにとっては違うだろう。ロウソクの光りが自分の寿命に見えてしまったのだろう。そうだ。マオは、常に死と隣り合わせ……いや、『死』そのものに飲み込まれているのだろう。
「マオ……」
何て声をかければ良いか分からない。コハクにはその気持ちを真に理解することは出来なかった。
それでも、マオが不安なのだということは分かる。
だから──
「マオ、立ってくれる?」
優しくそう呼びかけた。
「……なんで?」
「いいから」
ゆっくり、ベットから立ち上がるマオ。
そんなマオをコハクは静かに抱きしめた。
女の子特有の匂いがコハクの鼻に届く。マオの体は柔らかく、そして小さかった。
「……コハク?」
だから、せめてマオに安心してもらおうと。そう思った。
俺守るから──だからマオは死なないよ。
本当はそう言いたかった。
でも、そんな保障をすることはコハクには出来ない。
白虎の守り主にも、ソウヤにも勝てなかったコハクには、そう断言することは出来なかった。
だから、せめてマオの不安を少しでも受け止めるために、ぎゅっと抱きしめた。
親がそう子供にするように。
一度は止まりかけていた涙が再び流れ出す。
コハクは、マオが泣き止むまで、ただずっと抱きしめた。




