6月6日 双剣の使い手(1)
Rails of Fraisiaを読んで下さりありがとうございます。
今回から、長い章はいくつかに分けて登校することにしました。
本当は二日目も分割したいのですが、今からではちょっと大変なので。
翌日、起きて廊下に出ると、ちょうど向こうからマオが歩いてきた。
「……おはよう」
「ん」
いつものやり取り。
だがぎこちないやり取りだった。
「その……俺……」
「なに」
伝えなければ。昨夜からずっと考えて出した結論を。
「ヒスイの事情まだも分からない。けど、マオの命が掛かってる。だから、俺はマオの命とヒスイの家族だったら、マオの命を優先する」
「え?」
「ヒスイの家族は事故で死んだ。もう死んだんだ」
「死んでるから。だから、あたしの方を優先するの? それは間違ってる。だって、あたしも死んでる。本来死んでるのよ」
マオの目に涙が浮かぶ。それがどんな感情によるものなのかは分からなかった。だが、それでもコハクは言葉を続ける。
「違う。それでもマオは生きてる。死んだ人と生きている人。優先すべきなのは明らかだ。だから──俺はマオに協力する。これが俺の結論だ」
一粒だけ。マオの目から涙が落ちる。
「……ありがとう」
聞こえるか聞こえないからくらいの大きさで、しかしはっきりとマオはそう口にした。
…
二人は水野さんたちにお礼を言って、学校を後にした。
「そういえばさ、マオってどこの中なの?」
会ってから六日が経ったが、まだどこに住んでいるかと年齢を聞いていなかったのだ。
「中学? 三草東中学校だけど」
「東中!? 俺そこの卒業生だよ」
実はマオが後輩だったというのは驚きだった。
「マオって今何歳?」
「十五。三年生」
「ってことは、俺が三年になったときに入学してきたのか」
コハクは今年で十七歳、高校二年生だ。
「そうなる」
「そっか。後輩だったのか……」
と、マオの顔を見ると、なにか言いたそうな顔をしている。
「マオ、どうかした?」
「え、いや、なんでもない」
マオは慌てて顔をそらした。
見れば、マオはどこか残念そうな顔をしていた。コハクはその理由が分からず、しばらく理由を考えたが、答えは出なかった。
…
二駅進み辿り着いたのは、ビルが立ち並ぶ街だった。
元の世界では、何度も来たことある街だったが、いざ廃墟になった姿を見ると、驚きを隠せない。以前は人でごった返していた道にあるのは雑草やガラスの破片。
「この街なら色々ありそうね。デパートなら、服とか保存食とかそのまま残ってるかもしれないし」
そういってマオが歩き出したとき。咄嗟に剣を引き抜きぬき、飛んできたものを弾く。
水がアスファルト落ちる音。斬ったのは水の入った風船だった。
「コハク?」
マオが剣の音に反応して振り向く。
コハクは風船が飛んできた方を見る。
そこには、一人の若い男。
歳は十八歳前後くらいだろうか。美形で、髪は茶色。身長は百七十五センチといったところか。ちょっとイケてるお兄さんといった感じだった。
「お見事。さすがは守り主だ」
男が近づいてくる。身構えるコハク。
男は左右の手を僅かに開く。一瞬の光り。その後その手には剣が握られていた。双剣──握られた剣は同じ形で、濃赤色の握りに鋭く光る銀の刃。
「コハク! アレ、指輪!」
と、マオが男を指差す。そこには青銀色の指輪があった。
「守り主?」
ニヤリと男が笑う。そして男は駆け出した。
「マオ、下がって」
そう言うと同時にコハクも駆け出す。
交じり合う銀と銀。
コハクに止まることは許されなかった。相手の剣は二本。一刀流同士なら、剣と剣で押し合うことも可能だが、相手は二刀流。力勝負には決してならず、猛一本の剣で斬られるだけだ。ゆえに、ひたすら攻撃を繰り出すが、すべて受け流される。ただ一本の剣で。
男が後ろに飛ぶ。
それをコハクは追撃しなかった。
なぜなら──
「blaze!」
炎の槍が男目掛けて飛ぶからだ。
だが、男は前に跳び炎槍を避け、コハクに再び襲い掛かってきた。
一太刀目。それを剣で受け流す。続く二太刀目──はすぐ襲い掛かってきた。剣では避けきれず咄嗟に顔を反らす。だが、すぐに三つ目の攻撃がコハクの腹に直撃する。それは男の回し蹴りだった。
地面に叩きつけられる。
目の前に佇む男。
このままでは間違いなく殺される。速く立て直さなければ──。
そう思ったが、次の攻撃は無かった。代わりに差し出される手。
「──?」
「指輪一つにしては上出来だったね」
微笑む男。そこに先ほどまでの殺気は微塵も無かった。
「ど──いうこと?」
「いや、ちょっと小手調べさ。どれくらいの実力か試したかった」
危険はない?
そう感じたコハクは男の手を取った。
「俺はソウヤだ。見ての通り、青龍の指輪の守り主だ」
「ええっと……コハクです。一応朱雀の守り主です」
さっきまで剣を打ち合った相手に自己紹介をする。
「……姫乃マオ」
いつも通り一言の挨拶。
「まぁ、よろしく。声をかけたのは頼まれ事をされたからだ。白虎の守り主から」
「白虎の守り主?」
天使のような容姿の少女を思い出す。
「そうだ。朱雀の守り主に渡してほしいものがあるって言ってな。それで、こうして出向いたわけだ」
ソウヤは、駅とは反対の方向に歩き出す。
コハクとマオはそれに黙って付いて行くことにした。




